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後日談

 足場は悪かった。岩が凍り、その上に(かす)かに積もる雪が足を滑らせる。

 空気は薄く、一歩前へ進むだけで息が切れた。

 山の名前は知らない。けれど世界で一番高い山だと、ふもとの里の住民が言っていた。ここが本当に世界で一番高いのかどうかはウッドには分からなかったが、それでも立ち止まって見下ろす景色は何とも清々しいものだった。

 ずっと遠くまで雲の海が続いている。

 このまま歩き続ければ、本当に別の世界へ到達出来るかも知れない。そんな風に思えた。


 ネモが消えてから、もう五年にはなるだろう。

 その間、方々を訪ね歩いた。けれど一向に彼女は見つからないし、それどころかペグ族そのものにも遭遇しない。二度遭遇出来たフロスは、やはり只者では無かったのかも知れない。

 自分にはやはり、重過ぎる荷なのだろうか。そんな風に思いつつも、彼女を探すことはやめられなかった。

 ペグ族は輪廻転生をする種族らしい。彼女がそう言っていた。

 アルタイ族以上にペグ族の生態は分かっておらず、彼女たちがどこで生まれるのか、そもそもどこに住んでいるのかも分かっていない。それでも「また会える」という彼女の言葉を、ウッドは信じていた。信じ続けていた。

 このまま永遠に見つからないかも知れない。

 どこかでウッドが死んでしまうかも知れない。

 出会いは一瞬だと、ネモは言った。本当に彼女と一緒だった時間は、ウッドの生きてきた時間の全てと比べればごく(わず)かだ。けれどその出会いは強烈だった。ウッドの生き方そのものを変えてしまうほどに。


 間もなく山頂だった。

 日が傾いてきている。夜になれば凍ってしまうかも知れない。

 けれど死ぬことは無い。

 疲れたら少し休めばいい。何度でも立ち上がることが出来る。

 ふと、風の音が止んだ。

 どこだろう。遠くで――。

 ウッドは微笑した。

 再び風が吹き始める。

 雲に隠れゆく太陽が、世界を朱に染め始めていた。

 ウッドはそれを目にしながら山頂を目指す。

 足取りは少しばかり軽かった。(了)


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