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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
1章 『この世界で生きるということ』
9/78

『4』


 七海が対峙しているころにはもう2人は洞窟内に潜入していた。特に入り組んでいる様子はなく、そこらじゅうに木箱や天然の岩があるため容易く広間の手前まで来ることができた。



「ここからは本当にアドリブだな…。小鈴は内部がどうなっているかは知らないよな」


「にゃ」


「作戦はそうだな…とりあえず撹乱するか。先陣は切るから、各個撃破で漏れたやつを頼む。奥からどんどん出てくるはずだから、隙を見て離脱。田門丸を救出してくれ」


「にゃ」


「いくぞ…3、2、1、ゼロ!」



 ポケットから煙玉を取り出しどんちゃん騒ぎの広間へと放り込む。空中で爆発したかと思うと瞬く間に煙幕が広がっていく。



「おい!なんだこれ、どうなってやがる!」


「敵襲だ!武器を取れ!」


「やはりーーーーーー【気配察知】は煙の中でも使えるな!」


 白に塗られる赤い血潮。野盗に視認されることなく九十九は縦横無尽に切り掛かる。それはまるで鎌鼬が通り抜けたような惨劇が繰り広げられた。同じく【気配察知】の力を持っている小鈴は驚愕していた。



「こんなの次元が違いすぎるにゃ…漏らしたらって誰もこっちにこない…それなら、にゃあに出来ることをするだけにゃ」



 煙幕から離れ、奥の方に駆け出す小鈴。すると奥から増援なのか2人ほど現れる。中肉中背ながらも状況を把握するとすぐさま武器を取り出す。



「てめぇ…なにしてやがる!」


「ぶっ殺してやる!」



 少しだけ油断していた。こんなに強い人が援護してくれて、簡単に助け出せると思ったからだ。構えに入ろうとするも一歩遅れたため、直撃は避けられない。



「しまっーーーーー」



 しかし攻撃は届かない。2人の額にはクナイが刺さり、白目を剥いてビクンと伏せる。後ろの煙幕から出てきたのは九十九。煙が薄くなってきたのか、そこには死屍累々の山。10数人はいたであろう野盗は無惨にもその命を終えていた。



「ふぅ…あぶなかったな。と、小鈴は怪我ないか?」


「だ、大丈夫…にゃ」



 正直、恐ろしい人に声をかけたと我ながらに思う。だけれど、今まで差別してきた人間とはまた違う。お師さん、田門丸、そして九十九と七海。この人達には眼の温かみがあった。



「うーん、やっぱり七海が来てから動いてもらおうかな…と、七海も来たみたいだ」


「うわぁ…派手にやったねぇ、正直吐きそう」


「真正面から戦わなければ問題ないよ。さて、みんな揃ったし田門丸救出しないとな…。小鈴下がれ、誰か来る」



 小鈴を下げて広間に陣取る3人。その目の前には眼帯をつけ、身体の丈ほどの無骨な剣を持った大柄な男が現れる。



「おうおう…これじゃ商売あがったりよ。てめぇらどう落とし前つけてくれんだ…あぁ!!」


「人質を差し出せばすぐに帰るさ」


「…そいつは盗賊のカシラとしてのメンツが立たねぇんだよ。よし決めた、男は殺す。女は四肢をもいで孕ませてやるーーーーーーそしたらぶっ殺す」



 尋常じゃない覇気を纏うカシラ。こいつはこの中でもトップクラスに強い。それも元のゲームのユニークモンスター並に。肌に殺気が当たり、ビリビリと空気を振るわす気がした。



「七海と小鈴は離脱の準備。仮にあの剣を受け止めれたら奥に走ってくれ」


「わかったにゃ…」


「うん…一撃止めれなかったら何とかして九十九も救出して一旦引くからね」


「さぁて…いくぞオラァ!!!」



 ゆらりと身体をしならせ突っ込むカシラ。常人の速さを優に超えるそれは【縮地】と呼ばれる盗賊スキル。そして剣はその勢いのままに九十九に襲ってくる。回避は可能だが、その勢いで次に2人を襲ってくるかもしれない。ならばーーーーーー



「正面から受け止めるしかない!!ーーーーーーッ!!」



 短刀で受け止めるのは不可能、だからさっき倒した敵の剣を借りる。あとは、強度だけだ。



「死に晒せよテメェ!!」



 咄嗟の判断で一時的に受け止めれる。だけど一瞬あれば問題ない。そのまま受け流し、剣は地面に激突。九十九は身体を捻ってカシラの首に蹴りをお見舞いする。その巨体は左の壁へと飛んでいき、酒樽や木箱を破壊する。蹴りを放った反動でポケットからこぼれ落ちた煙玉が割れる。先ほどよりも煙は少なく、目眩しにもなりはしない。しかし、この攻防の一瞬で七海と小鈴はこの場から離脱して奥の方へと駆けて行った。



「なんだよ…最初から行く気満々じゃないか。…ふぅ、まだ余裕そうだな」



 首をコキリと鳴らし立ち上がるカシラ。蹴り一つで致命傷にはならず、ほとんど無傷で九十九を睨みつける。



「はぁ…ちょっとばかし効いたぞ、おい。だが、忍者なら一撃で仕留めなきゃならんよなぁ?てめぇの動きはわかった。次はそれを読んだ上で身体を真っ二つにかち割ってやる」


「いや…もう終わりだよ」


「ハッタリか、すぐに終わらせ…て…!?」



 ぐらりと身体が傾き、呂律が回らない様子のカシラ。もう言葉も出しづらいのかこちらを睨みつけるだけだ。



「終わりの理由、一つ…忍者には単独行動の技能がある。それは自分の身体能力を一段階上昇させることができる。それともう一つ…今破裂した煙玉って煙幕じゃないんだ。麻痺とか毒とか状態異常にさせることができる…つまり毒薬」


「そ、それ、じゃ、てめぇもーーーーーー!」


「俺は効かないよ。だって忍者だし。毒・麻痺耐性は【優】だからさ。…俺も行かなきゃならないから終わりだーーーーーー【幻影一刀】」



 カシラの視界から九十九は消える。必死に目を動かし捉えようとするも、既に遅い。胸の前には鋭い切っ先が突き出ていて、決壊したダムのような血が噴き出し、カシラは崩れ落ちる。技を使い背後に回った九十九の一刀の元にカシラは絶命した。



 手に残る感触、熱、匂い、肉塊、死の音。五感で感じ取るそれらは九十九を必要以上に疲弊させ、麻痺させた。



「…仮想現実って割り切っても、初っ端からこれは辛いな。あ…アドレナリン切れてきた。震えが止まらないーーー七海…ごめん、少しだけ休憩するわ」



 手が震え、壁を背にして九十九は座り込む。少しだけ強張る身体は言うことを聞きそうになかった。

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