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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
4章 『絡繰の翼、灰の時を彩る』
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『7』



 一同、仕事に折り合いがついたのか話を聞きつけてやってくる。…1人は無理やり連れてこられたみたいだが。



「我の尻尾を引っ張るでない!」


「こうでもしないと来ないつもりだっただろ!仕事が午前で終わったんだからちょっとは付き合えよ」


「そうにゃよ。遺物なんてそう見れる物じゃないにゃ」


「我は生き証人なんじゃが…」


「なんだかんだでみんな来たね〜。六花さん、これって結界?」



 そう言われ周りを調べ始める六花。彼女は『巫女』の職も持っており、自身に結界を付与することも出来るため、解析を依頼してみる。触ったり、叩いてみたりして結論を出す。



「うーん…これは結界じゃねぇな。どっちかって言うと、防御壁?に近いかもな。確かに霊力は感じるが、結界なら弾いたり、何かしらの抵抗がある。それが無いから、この人形を守っている物って考えるのが自然だな」


「なるほど…剥がすことが出来れば中身を取り出すことが出来るということか。一回短刀で切ってみるか」


「壊さないようにね〜」


「分かってるよ…よいしょ!」



 九十九が短刀で軽く切るが、簡単には切れないようで、中々の防御力を持っている結晶に傷すらつけられなかった。



「中々硬いですな。私も持ってきた時は本当に岩を持ち上げているかのような硬さと重さでしたから」


「切ろうとしてもダメ。硬さもあるから下手したら中身も割れる可能性がある。…そうだな、逆に霊力を流してみるか」


「お、それじゃ私がやってみるね。【精神統一】」



【精神統一】は何も戦いのみの技能ではない。集中する時、霊力を効率的に扱う時にはやったほうが良い結果になる。手を当てて霊力を流し込んでいくと七海から霊力がゴッソリと持っていかれるようで、多少のふらつきを生じさせた。



「ありゃりゃ…結構持ってかれてる」


「なら、私も手伝うぞ。…氷華もやれ」


「霊力で顕現している我に頼むとは…断る!」


「わ、私はやるでありますよ」



 六花とフランも参戦してそれぞれ霊力を流していく。3人がそれぞれ流していると卵の羽化のようにピキピキとヒビが入り、やがてサラサラと崩れていく。それを見届け、3人は少しだけ距離をとって様子を見ることにする。


 ペタリと床に座ったままの人形。しかし、ヒビの入った箇所に青白い光が通電するように流れ、しばらくして起動するように目を開く。だが、与えた霊力は霧散していき、全くそこからは動かない。


 動かないその状態を観察し、胸の辺りに窪みがあることに気づき、九十九はアイテム欄からある核を取り出す。



「それは?」


「タテエボシ倒した時にドロップしたやつ。これならちょうどはまるかな?…霊力が抜けたのも、蓋がないとか、溜め込む電池がないみたいな感じだと思うから、ちょうどいいこれをはめたらどうなるかなって」


「じゃあ私がやってみるよ!」



 九十九からタテエボシの核を貰い、それを胸の窪みにはめる。カチリと音がして、良い感じに落ちないようだ。また3人が集まって霊力を溜め始める。しかし、さっきで結構注ぎ込んだ七海を見かねて氷華も手伝ってくれるようだ。



「氷華ちゃんありがとう!」


「ふん、そこの猫に比べたら霊力はあるから問題ない」


「にゃにゃ!?失礼なことを…にゃあもやるにゃ!」


「では…少ないながらも私も」


「はぁ…俺もやる流れだな。よし…!」



 全員が人形に触れて霊力を流し始める。さっきの3人の時とは違い、幾分か楽なようで全員ガス欠になることなく供給することが可能だ。


 霊力が十分に集まったのだろう、再び人形は起動し、核が青く光っている。この様子だと漏れることなく留まってくれているみたいで、人形はやがてスムーズに動き出し、確認をするように左手をぎゅっと握り、そして開く。



「おぉ…動いたにゃ」


「見」


「ん。人形も言葉を発するとは…まるで我のように魂が宿ったようじゃの」


「敵。否。この霊力は彼らのもの」



 完全に起動したようで、その場に立とうとするが、片足はない。うまく立てないようで、その片足の代わりを霊力で成形して足とする。ググッと立ち上がる様子を見て、周囲は物珍しそうな顔でそれを見ている。


 ようやく立ち上がり、身体の不調具合を確かめ、九十九達を見渡す。



「問。ここは華宮国か」


「いや違う。ここは鳴神国、最果城内だ。俺は五条九十九。こんななりだが城主をしている」


「理。礼。霊力の補充感謝する」



 そう言うとふらふらと外に出ようとする人形に七海が左手を引っ張って止める。



「華宮国なんて海の向こう側だよ!そんな状態じゃ無謀だって。足も無いし、それに右手の刀も隠さないと外を歩けないよ」


「無。私に与えられたのは華宮国の怪異殲滅。ならばこの身が十全でなくとも進む他ない」


「そう…分かった…。ーーーーーーなんて言うわけないでしょ!貴女がどんな境遇かは分からないけど、折角動けるようになったのに壊されるようなことは見過ごせない。行くなら…ここにいる…いや、私を倒してでも行けばいい!!【精神統一】【霊力解放】!!!」



 ブワっと身体から放たれる霊力の塊。今まで生きてきた中でも当てられたことのないプレッシャー。霊力体の氷華や感知のできる小鈴、霊力を上手く扱うことの出来るフランと六花、身体の霊力保有量は少ないものの緊張に耐えきれなくなる田門丸達はそれぞれ膝をつく。



「おいおい…何だよこの霊力。今まで感じたことない重圧を出しやがる」


「ぐぬぬ…頭が割れるように痛いであります」


「ぐっ…七海止めるにゃ!!」



 放たれるプレッシャーに人形も殺意に似た何かを感じ取ったのか、左手を仕込み刀に添えて臨戦体制をとる。


 誰も止めることが出来ない。この仮想世界では七海の修得している技能を超えるものは今のところ見ていない。いや…1人だけいた。そんな場において動ける者がいる。忍の職を極めた男が。



「…七海ーーーーーーちょっとステイ」


「九十九も何とか言っ…!」



 歩くだけ。ただその霊力の渦へと向かうだけ。その顔は殺意も何も無い、空虚の顔。右手にはダラリと短刀が握られているだけ。それでも七海は恐ろしい何かを感じ取った。


 人形も放出する霊力よりも圧倒的に厄介な者が目の前にいると認識ーーーーーーすることはない。



「【瞬刃】」


「ーーーーーー!!」



 目の前を浮遊する両手。それは人形の、少しだけ角張ったもの。仕込み刀、左手はゆっくりと畳に落ちたのを確認してようやく理解した。いや、人形に理解出来たのだろうか。



「君は人形だ。痛覚もないだろう。けれど、七海に刃物を向けたのは頂けない。それが人形だったとしても…だ。目覚めて早々荒々しいのは申し訳ないけど、これで戦意を喪失してくれると幸いだ。後日になるけど城下町に鍛冶屋があるから、そこで直してもらうことにするから」


「…悟。私には勝てない。従う」


「助かる」



 その刹那の攻撃が終わり、人形も戦意がなくなる。それを確認してから七海は放出する霊力を止め始めた。



「ちょ…何も手を撥ねなくても!」


「いや…あそこまで緊張状態なら止める他ないでしょ…。幸いにも人形なんだから痛みはないだろうし…」



 そう言い訳をする九十九。霊力の放出が止まり、ようやく周りも立ち上がることが出来たようで、それぞれ口にこぼす。



「…言ってること怖すぎるだろ」


「うにゃ…まるで人じゃなきゃ問答無用で斬り飛ばすってことにゃ」


「つまり…我もあぁなる可能性が…げに恐ろしきや…!」


「さっきの九十九は武神よりも恐ろしかったであります…」


「本当に我々の城主で良かったものです」


「なんかめちゃくちゃ言われてるけど…これでも考えた結果だからな!」


「サイコパス…」


「ぐっ…」



 正直最後の言葉が一番刺さった。そりゃ仮想世界って知ってるのは自分と七海と…あぁ、二神藤吉郎もだけど、相手は人形で、そう言うことを踏まえたらこれが最適解だったと自信を持って言える。


 人形は斬り飛ばされた左手に膝をついて腕を伸ばし、霊力を補強材として繋ぎ合わせる。戦う意志が無いのだろう、右手は霊力で足と同じく青白い光で手を形成していた。



「問。鍛冶屋は『人形技師』の技能を有しているか」


「…ん?鍛冶屋だし…ないかも」


「答。『人形技師』無しでは直せない可能性」


「え…嘘だろ」



 最適解は崩れた。それを見て周りはまたも同じように話をしている。そして七海はまたも「サイコパス…」とだけ呟いていた。




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