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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
4章 『絡繰の翼、灰の時を彩る』
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『5』

コロナでした。

執筆遅れて申し訳ございません。

それでは『5』をどうぞ。



 昼を過ぎ、拠点の村は放棄され、人の姿は無く、そこにあるのは無人の家と焚き火をしたであろう燃え滓だけが残っている。そこに1人だけ佇む姿があった。凛楓である。遠くに見える紅黒い球体を目の端に捉えながらただひたすらにその時を待つ。



「迫。空亡の歩みは遅い。しかし。敵味方関係なく吸収する。ならばこそ。今は殿として留めなければならない」



 凛楓に勝算はない。しかし、それは彼女が為すべきことではない。あくまで為すのは人である。人形となったこの身体…。否、鉄心がかつて妻であった凛風を亡くし、その想いを込めただけの構築物である彼女には鉄心の心など分からない。込められた想いに応えることは出来ない。彼女はそういう風にしか作られていないから。だけど、確かに残るのは命令だけ。それが彼女の存在理由で、それを理解することは決して無い。



「告げる。『空亡を山ごと吹き飛ばせ』。私の役目は。主人の命を遂行すること」



 彼女は人でない。激励の言葉など無くとも最善を打てる人造兵器。人形。今は空亡を引き寄せるための餌になる。


 空亡と対峙するのはまだ先だが、それ以前に撤退している他の者に怪異を近づけさせないという殿の役目もある。



「私は凛楓。告げる。私は。私の全てをもって怪異を殲滅する」



 敵は万を超える。空亡に減らされはしたが、怪異の目的は華宮国を滅ぼすこと。それをさせんがために立ちはだかる者は1人たりとも殺さねばならない。背にある山を越えれば人がいる。それを喰らわねばならない。だが、目の前にいる脅威は排除しなければ進めない。そういう風に怪異はできている。



「【抜剣・霊刀】」



 腕を外し、露出する仕込み刀。それは霊力を纏い青白く光る。腕を振るい斬る。斬る。斬る。被弾。それでも手は止まらない。痛覚がない自立人形に怪我はない。


 圧倒的な数の暴力が凛楓に迫り来る。それを見届けるように空亡は奥地からゆったりと歩み寄っているようだ。



「このまま。私は消える。だけど繋がる。…鉄心。私は貴方に何を返せただろう?」



 さすがに万を超えた相手に1人で無傷とはいかない。腹は槍で貫かれ、崩壊しないように霊力で繋ぎ止める。左腕は霊力の弾丸すら出せなくなるほどに連射し、そのため腕は発射口として機能していない。残された武器は右手にある仕込み刀のみ。それでも立ち上がり、撃てなくなった左手に怪異の武器を携えて、無心に敵を殲滅していく。それを嘲笑うかのように空亡は何も言わずに周りを巻き込み近づくのみ。



「ここまで…。否。私がいることが抑止力。進行方向を確定するーーーーーー」



 正直ギリギリの戦いだ。霊力を満タンにして戦うことができた上でこの状態。怪異の山がそこらじゅうに散らばる中で終わりのない闘争が迫り来る。遂には脚を切断され、霊力で形作るしか立つ方法がない。余力もない。戦略も戦力も乏しい。ならば…少しでも減らす他に道はない。



「告げるーーーーーー『明日のため。己が全力をもって空亡を爆殺せよ』」



 目前に迫る空亡。凛楓という壁が瓦解すれば溢れ出す怪異。彼女が最後にとったのはーーーーーー自爆して巻き込むということだった。それは、空亡が倒せずとも周りを巻き込む必要性があり、それが華宮国の明日へと繋がる。



「霊力全解放!!核を媒介に。出力全開!!」



 巴蛇の核。蛇にはたくさんの意味がある。その中でも鉄心が願いとして組み込んだことーーーーーー『死と再生』。いずれまた輪廻転生をして凛風と会いたい。ただそれだけを祈りとして込めた。


 胸から取り外し、空中へと放り投げたそれに、左掌を前に構えて霊力を放出させる。



(また会えるといいね…鉄心)



 彼方で眠る男に届いたかは分からない。それでも、全てを飲み込む波動の余波は後方に陣取っている華宮国の兵士達にも伝わった。


 身体が光と共に包まれて霊力で意識作られた凛楓の思考を薄く伸ばしていき、最後には何も考えられない人形へと変わる。それでも、巴蛇の力なのか、凛楓を結晶化させて爆風と共に土中へ埋め込まれていく。


 爆発の余波を受け、耐性を持たぬ怪異達は消滅していく。それは絶望の象徴である空亡を削りながら、辺り一面を包み込みゆっくりと光は霧散していく。


 その大地に残ったのは先ほどの球体から血のような液体がボトボトと落ちたモノへと変貌するが、それでも空亡は真っ直ぐに華宮国へと向かっていく。



「今の光…そうか、凛楓がやったのか。ならばこそ、報わねばならぬ。我らが意志をこの人形に託そうぞ!!」



 空亡が山を削りながら進んでいく。その麓には華宮国にある全ての爆薬と、それを起爆するために4体の人造兵器がいる。凛楓が稼いだ時間は無駄にはならなかった。一撃必殺を込めた膨大な力を、削れていく空亡に叩きつけるのだ。



「結局人柱を立てることが出来なかったーーーーーー。本来ならば、未来永劫にこの人に寄り添った人形と共に生きねばならぬと言うのに…。私は愚かで卑怯者だ」



 早馬が華宮国に送られ、それを聞いた国王も前線へと足を運んでいた。民草にのみ戦わせ、玉座にて座っているだけの王にはなりたくなかった。居ても立っても居られない面持ちで、一緒に爆薬を運んできたのだ。最後の瞬間を見届けるために。



「放てぇぇぇーーーーーー!!!!」



 凛楓と同じく、人形達は霊力を麓の爆薬へと打ち出す。熱波は一瞬凝縮したかと思えば、空亡を、山を巻き込み、衝撃波と共に爆発を起こす。人は全員避難し、人形のみがその任務を遂行する。


 空亡は叫ばない。ただそれを漫然と受け入れるだけ。消滅したのか視認は出来ない。遠くに離れた者はみな、その熱波と衝撃波に目も開けてられなかったからだ。


挿絵(By みてみん)


 全てが通り過ぎ。音は消えていく。熱は逃げていく。空は暗闇を迎えようとする。やがて人が存在できるだけの空間へと戻っていったかと思えば、山は消し飛び、谷となり、空亡の姿、人形の姿はそこにはない。


 死傷者約3万に届かず。それでも前回ほどには消耗することなく『怪異狂乱』は終息を迎える。人々は歓喜し、涙を流し、力のなさに打ちひしがれながらも華宮国はまた滅亡の危機を乗り越えていく。


 これが数百年前に起こった『怪異狂乱』と、その時代を生きた鉄心の話。それが巡り巡って現代へと受け継がれていったのだった。

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