『4』
朝から続いた戦いは夕闇に溶け込んでいく。怪異の活性化、昼間とは違う怪異の群れが続々と北西からやってくるのだ。
キョンシーはそのままに、人魂や骸骨、中身の無い武具の集合体など、その様相は変わっていく。
「ちっ…新手がきたようだな。こっちは消耗しているだけなのによ」
「それでもやるしかねぇ。だが、昼間にいた怪異どもは軒並み殲滅しつつあるようだ。明日の朝にこなけりゃ俺たちの勝ちかもな」
「よっしゃ!!いっちょやったるか」
夜の帳が下り、下げつつある士気をがむしゃらに盛り上げて怪異の群れに突っ込んでいく。上空を飛ぶ怪異がいないため、地上戦に戦力を割ける。比較的戦いやすい環境とは言えるが、闇というのは自分の認識外から襲ってくるものだ。
「ぐぉ…!離れろ、このやろう!!…くそぉ、脇腹をやられた…!」
「こっちもかすり傷だが、足をやられた…!」
「松明如きじゃ全体を見通せねぇ…このままじゃ押し切られるぞ!!!」
怪異の無慈悲な攻撃に晒されることに兵士たちは焦りと無力さを感じてくる。このままでは拠点まで押し戻されるかもしれない。そんな状況を打破すべく凛楓は動いている。
「解。告げる。『死骸を積み上げ燃やせ』」
人造兵器達に闇など関係ない。あるのは戦う意志だ。しかし、最適解は華宮国の兵士も使って殲滅すること。ならば、その手助けをすることが近道だ。人造兵器達は一度戦線を離脱して合間を縫って死骸を広げている。そして、それに火薬を撒き散らし、兵士を積んできたであろう馬車すら壊して火をつけていく。
炎は渦巻き辺りを照らす。そして曝露された怪異達はその姿を見せていく。
「よくやった!!これで敵が見やすくなるな」
「それにしても、思ったより少ないようだ。こんなやつらにやられていたと思うと頭にくるぜ」
「憂さ晴らしだ、やつらを屠るぞ!!」
そこから敵を殲滅していく華宮国の兵士。ある程度倒したのか、手空きすらも出来てきて、このままならば警備をつけて休むことも可能だ。
「今までの『怪異狂乱』より容易いな。…それもこれも彼女達のおかげだな」
拠点に戻る兵士達。凛楓も霊力が少なくなってきたのか補給をしに戻ってきた。4体の人形を戦場には残しているものの、勢力自体は大きくなく、兵士たちのサポート程度に留めている。
「ふぃー…。これくらいでいいかな?」
「礼。必要量の6割を達成。稼働可能」
「はぁ…見れば見るほど人間にしか見えないよ。他の4体は応答してくれないけれど、この凛楓だけは返事とかしてくれるもんな」
「それは俺も思っていたけど、肘とか関節部分がやっぱり人間と違うぜ?…それにしてもこんなに精巧な人形を作ったなんて、鉄心様は天才だったのかもな」
「カラクリなんて、歯車で動く玩具とかしかしらない俺たちからすれば、月とすっぽんだ。天才の考えることは天才にしか分からないんだよ。…さて、まだ1日目だから飯は潤沢だし、俺は食べに行ってくるよ。お前はこれから霊力補充か?」
「ほかの人形と違って、凛楓は沢山必要らしいからな。さっさと終わらして俺も飯食べないと!…補充ついでに申し訳ないんだけど」
その後は代わりながらの補給。この戦場においても、凛楓の相談室は開催されている。こう言ったことも士気の維持に必要であり、予想以上に人が集まったために、霊力は問題なく…いや、多めに補充ができたようだ。
「終。かつてないほどの霊力を確認。作戦遂行。凛楓出撃」
十全な補給ができ、凛楓はまたもや戦場へと駆け出す。人形達の活躍、1日目のまだ疲労が最大に溜まってない状態の兵士達は奮闘しており、予想以上に押し返しているようだ。怪異の骸を積み上げては燃やし、見通しさえ良くなれば数の上では上回る人間に部がある。
しかし、それは低級の怪異ならば…の話。強大な個がいれば雑兵など容易く蹴散らせる。それを危惧してるのか、華宮国の上級兵士は指示を与えて休憩などを促している。
それでも人造兵器達の活躍はそれに匹敵しているのか、体力の温存に回すだけの余裕があるみたいだ。
夜を凌ぎ、昼間出てきた怪異も混ざってくる。それを見た華宮国軍師は殲滅の指示を与える。
「雑魚は1匹残らず、最短ですり潰せ!!来るべき時に備えるのだ」
「応ーーーーーー!!!」
兵士の歩み、それは轟音が鳴り響き、地面を揺るがす。そして再び激突する。華宮国存亡のために、雌雄を決するために。昨日とは打って変わって怪異の数も多くなり、さながら最終決戦。死力を尽くして兵は剣を、槍を振るう。
「…滅。告げる。『我が元に集い一点突破する』」
「…?どうして集結ーーーーーーそういうことか、クソッタレ…!!」
怪異が半分を過ぎ、太陽が真上にある頃。凛楓は人造兵器達を集め、何かに備えている。それは兵士達にも分かっていたこと。ーーーーーー最強の個がいたならば戦況は容易く変容する。
「おいおい…これはまずいな。どうする、軍師様?」
「減らせるだけ減らし、拠点を捨てねばならぬだろうな…。早馬を出し、華宮国から援軍や弾薬を集めるのだ!…やってくれるか?」
「兵士長でもある俺が抜けるのは忍びないが仕方ない…。必ず、生きて戻って来い!」
北西から現れるのは紅と黒を混ぜた球体。名を空亡と言う。『空しく亡くなる』と言われるそれは、速度はゆっくりとしているものの、地面に生えた草すら無に帰していく。
それは絶望。かつて『怪異狂乱』が起きた時には決まって最後の方に強大な怪異が存在した。大きさ、強さ、それらはバラバラで、それこそがこの戦いの終息を意味している。
「しかし…前回は形天という巨人であったが、これは規格外すぎる。空亡…全てを無にする正真正銘の最強格の怪異…か」
だが、それは人のみならず、怪異すらも無。歩みと共に無差別に周りの怪異を吸収しているため、こちらから手を下さずとも、勝手に怪異は消滅していく。抵抗する怪異もいるため、側から見れば、人間と怪異が空亡と戦っている図にも見える。
「だが…打つ手はないのか?空亡なんて、伝承にしかいないと思っていたが」
「解。空亡の出力を超える力をぶつける」
「り、凛楓。しかし、それをするにもどれだけの火薬、霊力が必要なのだ?もはや、人の力を超えている…」
「集。幸い。敵は殲滅されている。山に寄せて一気に破壊する」
「国を、民を守るためならば山の1つくれてやるさ。よし、それでいく他なさそうだ。ーーーーーー総員退避!!拠点を捨て、華宮国へと戻るのだ!!」
放棄する。最後の戦いに備えて。その決断こそが、現代の華宮国に繋がっていくことを今はまだ知らない。




