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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
4章 『絡繰の翼、灰の時を彩る』
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『3』


 時は数百年も前、鉄心が人造兵器達を作り出し、自らの意識を作成した人形に移す作業に難航している頃の話。脳死…というのには語弊があるが、公式発表という形ではそのように触れ回った。凛楓と呼ばれた人形は、主人を失ってもなお命を遂行するために動いている。


 そのことを知った国王は人造兵器達を回収して話を聞くことにする。…人形に応対が出来るのか?と不安になったが杞憂であった。



「…彼の功績は偉大なものだった。あと10年も生きていれば人形工学は更なる発展を迎えただろうに。…して、我々は君たち人造兵器に対して何をすればよいのか?」


「答。霊力の保持のため。定期的な供給を求める。例。人の平均的な霊力の20%。人形分集めれば3日事足りる」



 人形とは思えない返答に国王は驚く。しかし、その受け答えをするのは凛楓だけであり、他の4体は微動だにしない。


 それは使われた核の質、そして命令と共に霊力を注ぎ込むことで核は成長する。今では問いに対して返答する形ならば問題はないようで、初めの頃の機械音声に比べれば幾分か滑らかに話す。


 しかし、凛楓から話すという行為は目的がなければ行わないようで、国で預かっている間、全く話さない不気味な人形として認識されていた。


 それでも話しかければ答えが返ってくるので、日毎に霊力供給する人は相談をしたりしていた。それが人を呼び、相談室のような形で運用されていたのは国王も使っていたからだった。



「いつ起こるか分からない『怪異狂乱』に怯えながら過ごすのは精神が削れる…。凛楓よ、我はどうすれば良いのだろうか?」


「答。隠居。もしくは王座継承。しかし。『国王』を持った子息は小さい。今は耐え忍ぶのみ」


「そうであるな…。よし…子が苦労しないように午後から頑張るとするか…おっと、霊力を注がねばな」



 相談と言う名の労働…に近いことし、霊力を少しずつもらう。それを繰り返すことで、凛楓は力を蓄えて活動をしていた。


 そんな日々が続くからと思えば、5年も経った頃にあの兆候が見え始め、国王は腹を括った。



「華宮国に生きる民草よ…今まさに『怪異狂乱』が迫ってきている。四龍城下町、羅星街に華宮の全てが集まってきているのはその証だ。そして、騒動の終結までここを死守することになるだろう。しかし、全身全霊を持ってーーーーーー怪異を殲滅する。槍を持ち、弓を携え、我こそはと意気込む戦士達よ!!!傍にいる小さな生命、かけがえのない魂を、自らの手で守り抜くのだ!!!いざゆかん、我らの未来を、怪異共に食らわせてやるものか!!!」



 うぉぉぉ!!!!っと地響きが起こり、北西の火山地帯…ルーシェ王国との境目付近からぞろぞろと怪異達が流れてくる。一説にはルーシェ王国がけしかけているのではないか?等が囁かれていたが、それは間違いである。同じくルーシェ王国も被害を受けているのだった。


 しかし、決定的な違いといえば魔術の存在だ。彼らは火山地帯からルーシェの地を侵さんと駆け降りてくるが、自慢の魔術により押し返したりしているのだ。主に…王都に集められた光の力を持つ者を引き連れて。


 怪異は闇から生まれ、闇として溶けゆく。妬み、怒り、悲しみ、苦しみ、痛みーーーーーーそれらから闇を混ぜ込んで生まれるのが怪異だ。とはいえ、生まれてくる原因を完全な形で観測することは未だいないのが事実。どうして生まれたのか、目的は?そんなことを怪異専門の学者は考察しているようだが、中々真実には辿り着けそうにない。


 挙兵をし、北西からの侵攻に備える。火山地帯から見れば、山をひとつ超えた先が華宮国の首都。間に挟まれた村々は放棄されて、兵士達の屯所として活用される。詰まるところ、この山を越えられたらおしまいと言うことだ。



「ーーーーーー!!飛来する怪異を確認、恐らく斥候部隊だと思われます。地を這う怪異達よりもこちらに早く到着するかと!!」


「よし、我々の霊力は温存しつつ、大砲や投石機で撃ち落とすのだ!!」


「大砲装填よし!!投石機装填よし!!いつでも撃てます!!」


「了解ーーーーーーーーーーーー第一陣、放てぇぇ!!!」



 火薬の破裂する音、投石の跳ね上がる衝撃。空を飛ぶ天狗、小龍に向かって飛んでいく。投石は当たらずも、大砲に関してはひとつが当たればいい。破裂により周りを巻き込んでくれるからだ。


 実のところ、何度も何度も『怪異狂乱』を経験していることから、ある程度のマニュアルが出来ていて、それに基づいて行動することで被害を局限することに繋がるのだ。


 空で破裂する大砲の玉。周りを巻き込み次々とその滑空を妨げていく。怪異もそれを見兼ねてか、次々と大隊に向かって進行方向を下に向ける。



「第二陣、弓矢隊構えーーーーーー放て!!!」



 斉射される弓矢の雨。怪異と言えど半生物には変わりない。羽を打たれれば落とされるし、目を潰されたら地に落ちていく。あくまで空に向けて放ち、地上に影響を与えないようにすることで円滑に地上戦を行うことが可能となる。



「槍で突け!!天狗は腕をもいで扇を剥ぎ取り、小龍は反撃に備えて確実に顔を潰せ!!!」


「了解!!!」



 撃ち落としては刺す。突破したならば槍で突く。それを繰り返し、日が沈みかけたころに敵の地上部隊が雪崩れ込んでくる。


 華宮国兵はただでさえ緊張が続いているのに追撃の地上戦。しかし、この山を越えさせてはならぬと、その気合いだけで何とか持ち堪えるのだった。



「地上戦…ここからは人造兵器達も投入する!!凛楓、指揮をし、霊力が尽きそうになれば退避してくれ」


「了。告げる。『霊力を残しながら殲滅せよ』」



 4体の人造兵器達は颯爽と戦場を駆けていく。対怪異用の装備は無くとも、霊力を核とした攻撃は怪異にとって有効打になり得る。次々と薙ぎ倒し、切り倒し、風穴を開けるように突き進んでいく。


 しかし、欠点はいくつかある。そのうちの1つに『故障をしても替えが利かない』ことだ。作成者の鉄心は人形に意識を移し、未だ自らの工房にて起動の最中であり、他に完璧に直せる者はいないのだ。とは言え、人形工学…カラクリに精通するものは多少いるため、末端のパーツを作成することは可能ではあるが、本当の意味で完全修復は不可能なのだ。


 そして、それに付随するように胸元の核が破壊されればそこまでだと言うこと。40年の歳月をかけて生み出した自立制御型の人形を作れるのは存在しないからだ。それらに留意しながら戦闘をしなければならないが、いかんせん人形だ、痛みは無く、大命令でもある『華宮国に蔓延る怪異の殲滅』が人形の歩みを止めない要因でもある。仮に腕をもがれても、脚を飛ばされても、戦いの継続をしなければならない。


 それを制御するのが初号機でもある凛楓の仕事だ。戦況に応じて命令を下し、臨機応変に対応することで、猪突猛進の人形達を孤立させないように立ち振る舞う。


 核となった胸からは常人には見えない程度の糸がそれぞれに接続していて、霊力を消費しながら命令を送っていく。任意に切り離すことは出来るため、自身が戦闘に参加する時はギリギリまで繋げている。


 景色が見える。それぞれが怪異と対峙している、その光景が。仕込み刀で槍を持った河童夜叉の突きを受け流しながら左腕から霊力の弾丸を打ち出していく。貫通力はそこまでないものの、当たりどころが悪ければその場に沈めることが可能だ。怯みでもすれば仕込み刀の一閃をお見舞いする。


 怪異には作戦などない。あるのは闘争本能と、華宮国の崩壊…ただそれだけ。ある意味で人造兵器達と同じなのだ。


 何者かに操られているかもしれないし、湧き出して周りを潰そうとするだけかもしれない。本当のところは長い間戦ってきた華宮国、ルーシェ王国にすらわかっていない。


 空中を飛ぶ天狗、小龍。地上を攻める河童夜叉、僵尸キョンシー、水虎、獲猿。他は名にもならない妖怪の類が押し寄せる。


 侵攻が始まった朝方から昼を過ぎて、兵達も疲弊してくる。それでも、準備を怠ることはなかったために山の向こうに1匹たりとも通すことなく戦線を維持している。それも人造兵器、凛楓の活躍があってのことで、一度拠点にて霊力の補給を適宜行なっている。



「むむ……はぁ、はぁ。…人数がいて少しずつ

 とはいえ、持ってかれるのは身体に悪い」


「だが、人形達がいなければ、今頃突破されたかもしれん。そこは感謝せねばな」


「本当に、惜しい人を亡くしたもんだよ。これが20体…いや、もう10体もいればもっと楽になったってのに」


「嘆いても仕方ない。ん?お前で最後みたいだな、人形も動き出したぞ」



 霊力の補給が終わったのか、音もなく立ち上がり、無表情のまま戦線へと走っていった。それと入れ替えになるようにもう1体が補給しにくる。それを別の者が代わりながら霊力を入れていく。



「それにしても、これで4体とも2回目の補給か…。今のところ人形に破損箇所がないのが救いだな。しかし…凛楓って人形はずっと先陣で出突っ張り。無尽蔵かって思えてしまうよ」


「凛楓は鉄心様の最高傑作にして初号機らしい。他の人形と違って応答も出来るし、何よりその人形達を仕切っているのも彼女…でいいのか分からないが、兎にも角にも今回は思った以上に侵攻を食い止めているらしいから、このままいけば3日とかからないんじゃないか…なんて言われてるな」


「長ければ10日以上続いたらしいが、その頃に比べたら……今は恵まれていると思うぞ?ーーーーーーそう言えば…怪異を倒せば素材はがっぽりだから、商人の間では『怪異狂乱?怪異の恵みの間違いだろ』なんて言ってるのを聞いたが、ただの1人も戦いに参加しないから俺としては引きずり回したい気持ちだ」


「それには同意だな。まぁ…こうして武器を融資してくれるだけでも有難いが、本音を言えばもっと物量で押し切れるだけの兵力が欲しいものだ…」



 華宮国の兵士は総人口の1〜2割ほどで、おおよそ10万人くらい。怪異は起こる年によってまちまち。それでも戦える者を送り込まなければ華宮国は滅亡する。しかし、商人が言うように、この『怪異狂乱』が終われば素材の剥ぎ取りやどこから調達したか分からない武器を鹵獲することも出来るため、勝利さえすれば大きな利益になる。そんなことを繰り返して華宮国は大きくなったというわけだ。



「よし…俺は戻るよ。希望は見えているからな。早く終わらせて、家族の元に帰らないと」


「そうだったな…俺は嫁さんはいないけれど、付き合ったばかりの女の子もいる。これからの幸せのためにも負けられないな」



 男達は武器を手に取り、戦場へと戻っていく。戦況は華宮国が押していて、読み通り短期決戦が狙える状態だ。弾薬は尽きつつあるが、石については山が後方にあるため補充は可能だし、凛楓も判断したのか指示されたのか、人造兵器達には序盤よりは遠距離砲を使うようにしているみたいだった。

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