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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
4章 『絡繰の翼、灰の時を彩る』
72/78

『1』


 最果城から海を隔てて先にある国、華宮国。現代で言うならば古き良き中華の町々があり、鳴神国とは独自の文化がある。そこを越えた先にはルーシェ王国があり、時折加工品や芸術品を持った行商人たちが華宮国を目指してくる。


 怪異狩りも珍しい武器や職業の者が多く、暗器武器、鉄扇、拳法家、学者等…鳴神国に比べて鍛錬施設や学問が発達しており、武闘家専門の道場であったり、学者を多く輩出している学舎もあったりする。その多くがビジネスとして成り立っているため、怪異狩りをする者のみならず、先輩として学舎に残る選択肢もあるのが鳴神国との違いだ。


 しかし、どれだけ極めようともなれない職もある。それが王族だ。現在就任している麗しい女王も先代、先々代、そのまた先から受け継がれた存在である。多くの子を成して、その中から【国王】の技能を生まれ持った者のみが次代の国王となるのだ。


 それでも歴史が長ければ、戦いの歴史もあるものだ。【国王】を持った者が2人と現れることも珍しくはなく、そのほとんどが円満に解決したことはない。主に正室の子が持っていれば譲らねばならないが、側室のみが有していた場合が厄介だ。


 それに…現状もややこしいことに拍車をかける。元々、男子の9割が【国王】持ちで女子にあったとしても男子の方が国を治めてきた。それは、子を宿すか、孕ませるかの違いもあるのだが、それは置いておこう。


 問題は…現国王の兄達に誰一人として【国王】の技能を有している者がいなかったことだ。つまるところ、女王が子を孕まなければ華宮国は次代の国王を賄うことが出来ず、王族がいなくなる瀬戸際にあるのだ。


 ちなみに前国王の兄弟は不定期に起こる『怪異狂乱』といういわゆる怪異の大発生により命を落としてしまい、遠縁などに血筋として残ってはいるものの、【国王】なり得る人材がいなくなってしまった。


 そして…今日も今日とて見合いの話がやってきて、内政に勤しんでいる暇が無くなってしまうのに頭が痛むのだった。



「はぁ…まだ13歳ですのに、なぜこんなにも老人ばかりが写真を送ってくるのでしょうか?…私の身体が目当てなら、その財力を使って娼婦でも雇えばいいですのに。こんな貧相な身体を好きになるなんて、とんだ性癖の歪んだ方々ですわね」



 写真を一瞥し、ぐしゃりと潰してからぽいっとゴミ箱に投げ捨てる。そして山積みの書類を見てため息をついたのだった。



「…本当なら、今頃は煌びやかな服飾に目を通し、街に出歩き悠々自適に遊んでいるはずなのに。それもこれも父上と叔父上が『怪異狂乱』に巻き込まれて死んでしまわれたのが始まり…。必死にこの城に籠城していたのを今でも思い出せるのが辛いですわね」



 彼女は現華宮国の第24代国王の華宮可怜ファゴン・クォリェン。幼き時に親を亡くして、血の半分繋がった兄が2人いれど、可怜は内政を理由に接触を断っていた。


 それは父上の側室達が何か危害を加えるのではないかと言う保身のためで、本当なら【国王】の肩書きさえなくて、誰か変われるのなら今すぐにでも代わり、王族の身分にかまけて遊んでいたいのだった。当然、兄と遊んだり、勉強したり。家族ごっこというわけではないが…本当はそうして暮らしたい。


 兄2人は歳はさほど離れていないが、1番上の兄は怪異狩りになるために武道場にて鍛錬に勤しんでいて、2番目の兄は『機構学院』にて工学を学んでいる。たまに帰ってきても言葉を交わすことなく自分達の生活をしている。


 そんなことに憂いを抱きながら書類に目を通していると、1つ面白そうな報告書が目に入った。



「ん…。『狂乱の谷にてかつて使用されたであろう傀儡を発見。河川による侵食が発見の一因。発掘の許可を頂きたい』…か。あそこは数百年前の『怪異狂乱』で山が崩されて谷になったところ…だったはず?」



 後ろにある本棚から歴史書をめくって目を通していく。その中に『怪異狂乱』の際に使用された人造兵器の項目を見つけた。



 〜人造兵器作成者・鉄心ティエシン。彼の【人形技師】の技能の髄を集めて作成された人造兵器達は、初号機の玩偶ワンオウを司令塔にした計5体の対怪異兵器である。怪異から剥ぎ取られた核を利用することにより、鉄心の命令に従うことができ、これらは今後くる『怪異狂乱』においても有能な働きを見せることだろう。


 しかし、惜しむらくは作成者である鉄心は病により他界。我々は命令を聞かなくなることを危惧したが、生前に鉄心が残した命令『華宮国に蔓延る怪異の殲滅』を玩偶が核となる制御装置となり兵器として運用することが可能であった。


 普段は国の兵士と共に華宮国周辺の怪異殲滅に大きく寄与し、主な動力源である怪異の核や霊力を必要とするために社務業所と連携してかき集め、足りなければ国の財源を投資することになった。


 だが、『狂乱の谷』が形成されることにもなった『怪異狂乱』において、予想を遥かに上回る怪異の猛攻により、玩偶は戦線を維持するために殿に、その隙をついてありったけの霊力水や保持していた全ての核を用いて4体の人造兵器に投与することで、半ば自爆の特攻を見せて怪異の殲滅に貢献した。


 その際に山が削れ、出来たのが『狂乱の谷』であり、今でもかの兵器は埋もれてしまっていることだろう。華宮国の繁栄を持って、生みの親の鉄心、玩偶率いる人造兵器達への手向けとならんことを〜



 そこに書かれていることと、今回の発見は恐らく無関係ではないだろう。『怪異狂乱』兆候として、普段生息する怪異以外の出現や、活性化が主として挙げられていて、最近農村地帯などでの被害が多いことを思い出す。



「もしかしたら…またあの惨劇が起きるかもしれない。ならば…少しでも戦力の増強は必須。仮に古代の兵器だとしても、動力源が分かっているのなら直してしまえば動き出す可能性もある。…そういえば最近、『機構学院』で優秀な人形技師がいるって兄が言っていたかしら?まぁ、又聞きだけどね」



 とにかく善は急げと言わんばかりに発掘許可を出し、召使いを呼び寄せて機構学院に連絡を取ることにする可怜だった。

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