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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
69/78

『31』



 柴田に門前まで見送られ、3人は元フランの家に繋がれている金剛の元へと向かう。この数日で色は抜かれ、元々の白色に戻ったようだ。草を喰み、ゆったりとした面持ちで、猫の松永さんや小鳥の丹下さん(フラン命名)が背中で止まっていた。剛力の武の塊のような男と共にいたとは思えないほどにのほほんとしていて、背中に乗られても意に関せずと言った感じ。


 フランを見て、松永さんはにゃーと声を出して背中から離れていった。丹下さんも急に動き出して驚いたのかパタパタと飛んでいく。金剛も七海を見て顔を擦り寄せている。



「元々は剛力の馬だったのに、すっかり懐いたな」


「【騎乗】は馬の気持ちもちょっとは分かるみたいで、本当は戦いに駆り出されるよりも走ったり、草原でのんびりしたいんだってさ」


「ふーん…それ以外にもありそうだけどな」



 出るまでの間に民との交流もあったようで、その時に七海は子供たちを乗せたりしていたようだ。しかし、酔っ払いの男が近づいた時には自慢の脚で追い払ったり、女の子が乗る時よりも、男の子が乗ると途端に無の表情をしていたため、やはりオッサン説が浮上してくる。現に、七海やフランを乗せると頭を上下に動かしてご満悦そうだ。



「ほらほら暴れないで。…よいしょっと、こっちはOKだよ〜」


「あばばば…揺れたであります」


「……行くか」



 こうして西紀城での一悶着は終結し、半日をかけてゆったりと最果城へと向かうのだった。


 その道中、『薄氷』を抜ける際に群れからはぐれたであろう鬼と対峙したり、平原で餓鬼と戦ったりしたが、霊力が満タンの状態の3人の敵ではなかった。


 高速で撹乱する九十九、援護として退路を防いだりするフラン、馬上から剣戟を放つ七海。遠距離攻撃の手数が増え、戦闘に余裕を持ってあたることができる。そう考えると、フランの故郷でもあるルーチェ王国は魔術国家であり、ここの手助けを得られたのなら深淵城の攻略にも厚みが出る。つくづく元の世界とは違い、仮想世界なのだと認識する。


 それに、小鈴が師匠の元で生活していた華宮国。美鶴城とは交易もあり、比較的友好的なのかと思うが、実際に見てみなければ分からない。国を挙げて怪異と対峙したり、発展に余念がないようで、改めて国家の偉大さを知る。


 そうして時折休憩をしながら進めば、最果城下町が見えてきた。この数日はとても濃密で、息つく暇もなかったが、こうして自分の拠点を見ると安心感はひとしおだ。



「ようやく帰れた…。今回は巻き込まれる形にはなったけど、交易を結んだり出来たのは収穫だったな」


「そうだね〜。私たちの目的のためにも、地盤は固めないと!!…あっ、みんな来てるよ!」



 最果城には城壁はないが、町の切れ目には身体の大きな田門丸、その肩に小鈴が乗ってこちらに手を振ってくれている。その横には六花と無理やり連れてこられたのか氷華がこちらをちらっと見るだけでむすっとしている。


 こちらも手を振りかえして合流するとそれぞれから笑みが溢れているようだ。それを見てフランはぼそりと呟いた。



「これが…暖かさと言うことでありますな…。ルーシェ王国、西紀城では生きること、仕事をすることで精一杯でありました。…私の【未来予知】はここまでは見えなかったでありますよ」


「フランちゃん何してるの〜?」


「長旅で疲れているだろうけど、これから忙しくなるからな。不出来な城主の補佐を頼むよ」


「はい!であります!」



 そこには屈託のない笑顔。晴れて最果城にもう1人の仲間が加わり、芽吹きの春、豊穣の歴史が動いていくのだったーーーーーー。




今回で3章『焔の糸で未来を紡いで』は完結です。

次回は4章『絡繰の翼、灰の空を彩る』(仮題)を投稿する予定であります。


その前にキャラ設定、幕間の様子を投稿しますので、よろしければまだまだお付き合い願います。

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