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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『28』



 峯司秋吉は執政室にてそろばんを弾く。今後入る予定である税収や、最果城、美鶴城を攻め落とした時に出るおおよその簒奪の品々、そして鉱石資源の豊富な山脈から出る貿易品がお眼鏡にかなうものならば…と、ぐふぐふ言いながら試算を行う。



「東の奴らが『薄氷』を切り拓き、わしらの足を進めるには絶好の機会。そろそろ最果城あたりは落とせた頃じゃろうて、最短で2日もあればわしのものじゃな。金、金、金、世は金がモノを言う。それに気づかぬ前城主はその機会を逸して戦いばかり。今頃…『篝火』が首を持って帰ってくる頃か?全てはわしの手のひらの上よ!」



 と言うものの、そのことごとくを潰されていることに気づいていない。目先の富に目が眩みその可能性を消し去っている。これも含めて轟は小童と言ったのかもしれない。


 団扇を手に取り、悠長にあおぐ。だが、峯司は二重の意味で気づいてなかった。その背中にはとある怪異が取り憑いていたことに。


 煙のように後ろに憑いて、肌は青白く正気がない。伝承ではこう呼ばれているーーーーーー『貧乏神』と。


 人に取り憑き不幸を招く。金のためなら無心となりて、金のためならなんでも行う。しかし手には何も残らず。展望を望めば望むほど搾取されていく。それが神だと言うのだからなんと理不尽なのだろうか。


 魅入られるのにもそれなりの理由がある。それは『現状に不満のある者』『金にがめつい者』『味噌をよく食べる』。そういった人に取り憑かれやすいらしい。


 なぜ味噌なのかは…伝記に書かれているのを抜粋すれば、貧乏神は味噌が好きだからとのこと。



(金が欲しいか?富が欲しいか?利潤が欲しいか?主には才がある。それもこと稼ぐことに関しては。ならばこそ存分に発揮し、大金に塗れた強欲な生を掴むのだ。なに、民草はありがたく差し出すことだろう)



「おぉ、今啓示が降りてきた気がするぞ。足りぬもっとだ…わしは金を稼がねばならぬ。金銀財宝、世界の金をここに集めねば…!」



 もはや守銭奴と成り果てた男の姿がそこにあった。目は座り、金に目の眩んだ強欲の化身が鎮座しているだけだった。




 時同じくして西紀城、いわば本丸とも言える場所からやや離れた位置に4人は固まる。



「ここは私の城。ならば正面から大手を振って帰還すれば良いではないのか?口止めでもすれば問題などあるまい」


「大ありだよ!…俺がこじ開けてくるから、3人は裏門近くにて合図を待っててくれ」


「ほう、そんなに啖呵を切ったなら見せてもらおうか?お前の実力をな」


「…ねぇ、なんでこんなに自信満々なんだろうね」


「それは武神だからでありますよ…多分」



 西紀城は表門と裏門の2箇所に門兵を配置しており、それは轟が城主の時から変わらない。しかし、正面から行くべきだと言う轟をツッコミ、九十九が単独で道を切り開きに行く。



「さてと…上がり切ってから見つかるのも問題だからな…【隠密行動】【土竜潜航】」



 以前にも玉藻前との戦いで見せた土の中を泳ぐ技能。息、霊力の続く限り潜ることが可能であり、潜入に打ってつけである。死角になる位置から九十九は土へ、とっぷりと潜りゆったりと門兵の足元へと近づく。行動開始だ。



「ふぁ…やっぱり夜番は眠たいよな」


「まぁまぁ、あと1刻終われば夜明けまで寝れるんだから、もう少し頑張ろうぜ」


「それにしても裏門なんて誰も来ないよな。…しかも表に比べて暗いから怖さってもんがあるわ。今身体中がさぶいぼだらけだ」


「それは冬のせいだろうよ」


「いいや違うね。これは幽霊とか亡者の仕業だろう。西の廃城には未だに夜になれば怪異は現れるし…案外ここはそれのために守ってるのかもな」


「急に怖いこと言うなって。確かに賊が来てもこの砦のような城の壁を登れるような技能持ちがそうそういるわけないから、あながち間違いじゃなーーーーーー」



 急に途切れる声。眠気もあって初動に素早さのカケラもない。横を見るとずぶずぶと地面から浮き上がる気絶した門兵の姿があった。



「ひーーーーーー!」


「雇われだからな…すまない」



 口元に手拭いを押し当てられた門兵はしばらくして、白目を向いてその場に崩れるように倒れ込んだ。気化させた麻酔薬を4、5回ほど吸わせることにより呆気なく意識を飛ばす。



「これで、よし…!さて…門の中には誰もいないな」



 そして潜んでいる3人に対して手を振るとそろそろと門へと近づく。



「鮮やかだね〜、さすがマスター忍者」


「これが俺の適正だからな。夜ならば独壇場さ」


「ここまであっさりやられるとは…。私が返り咲いたら減給だな」


「いや…この人達も規格外でありますから…」


「まだだ、次は屯所を攻め落とす。さっきと同じように合図を送ったら近づいてきてくれないか?あ、そうだ轟…さん、人数が多くなれば怪我も避けられないが問題ないか?」


「構わん。そこまでやわな連中ではないからな」


「了解した。【睡眠耐性強化】…すぐに終わらせてくる」



 忍びの強み…と言うよりは九十九自身の強みーーーーーー真価は搦手にある。森に罠を設置したり、闇に紛れて暗殺、自身の耐性の強さを活かして毒や煙を撒き散らしていく。それに加えて対人戦闘においては攻撃力の低さは仕方ないことだが、急所を狙った一撃必殺の手立てもある。


【隠密行動】がまだ続いているため、気配を消して屯所に潜入することが容易だった。中では次の交代員が起きているだけで、あとは奥にて休んでいる。総数8人ほどで、表門警備も含めれば倍以上になるかもしれないが、夜ということもあり、眠ってくれているのは正直ありがたい。1人逃せば潜入も水の泡になるため、その可能性が低くなるに越したことはない。



「このまま眠っててもらおうかな…【爆睡眠玉】」



 先程も門兵相手に使用した麻酔薬が入っており、煙に混ぜることにより、錯乱状態の呼気の速さも相まって起きていたものは机や地面に倒れるように突っ伏してしまった。


 無論、現実世界でそんなことをしたことなど一度もないが、忍者の技能と言うものもあってか頭で思い描けばその通りに身体が動き、最適化する。七海のように幼少から剣術の心得があればなおのことだろう。


 それがこの世界で生きて、武に全振りをしたような存在がいたならば…いや、近くにいた。片腕をもがれてもなおも戦おうとする。狂人も真っ青な思考回路。九十九には到底辿り着くことはないだろう。


 奥に向かい、とどめの煙玉を破裂させて様子を見る。よく寝ているようで、これで問題なく次に進める。側から見れば黒光りするアレを駆除するための煙を撒き散らす奴に類似する。煙が漏れることによる他の人の察知の危険性もあったが、それも致し方ない。しっかりと戸を閉めて漏れないようにしたら外へと出て合図を送り、順当に潜入を開始した。


 場所についてはフランと轟がわかるため先行してもらう。もし気づく者がいたならば轟が話しをして、その隙に九十九や七海で峰打ちを行う。


 そんなことを2、3回し、階段を駆け上がりのうやく峯司のいるであろう執務室の前へとたどり着いた。



「ここからはどれだけ騒いでも構わん。討ち取れば我々の勝ちだ」


「よし…開けるぞ」



 襖を開き悠々と入る。そこには肘掛けに肘をつき胡座をかいた峯司の姿があった。こちらを一瞥すると仰天した表情でこちらを見る。



「ななな、なぜここに轟が!?む、その腕…村雨がやっただろうが、首を刈れぬとはなんたることか」


「さぁて、峯司よ。数多の策略ご苦労だった。お陰で血潮噴き出る戦いを用意してもらって、私も楽しめたぞ?だが…閉幕だ、お前だけだとつまらぬ。その首かっさいて、西紀城下町にて晒してやろう」



 かちりと左手一本で槍を構える。まさに絶体絶命の修羅場であるが、立ち上がった峯司は瞬時にカクリと首が落ちる。そして再び顔を上げると身体から異様な障気を漂わせる。



「せっかく…あと少しじゃったのに…。土台作りにあくせくしすぎて気を逸した。だが、こうして主要な輩が集まって来たのだ、ここで殺してしまえば万事問題ない」


「…!やばいよ九十九、こいつ何かに取り憑かれてる!」


「わかってる!身体から出ている瘴気、こいつはやばい、こんな禍々しさ…タテエボシが召喚された時以来だ!」


「なるほど…武神だけではないと。ここでは少し狭すぎるな、場所を変えさせてもらうぞ?」



 そう峯司…に乗り移った存在が話すと身体の障気が部屋全体を包み込み、一同が飲み込まれていく。


 暗闇に目の前が覆われたと思えば、そこは執務室とは全く違う、黒き世界に4人が立っていた。その上方には宙に浮いた峯司の姿があった。

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