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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『27』



 ズオッ…!という擬音が聞こえそうな雰囲気を纏う男。フランに連れられて来たそれに九十九と七海はこの世界で初めてと言わんばかりの警戒感を示す。


 七海は腰の刀に手を当ていつでも抜けるようにして、九十九は虚空から短刀を現し、いつでも斬りかかれるような体勢だ。それを一瞥して男は左手を上げ、敵ではない意志を示す。



「なるほど…どこの城かは分からぬがフィアンマを手助けしてここまで来たということか。名も知らぬ御仁よ、話は聞いておるか?」


「一応…根掘り葉掘り」


「ならばよい。こちらとて目的遂行のために消耗したくはないし、何より民の集まるこの区画で暴れたくはない。ーーーーーー私は西紀城が城主、轟天一である。敵意はない、すまないが降ろしてもらえぬか?」


「この男が…轟天一。…まぁ、俺も争いたくないしな、七海、今は話を聞こう。なんでここに渦中の城主がいるのかを」



 その一声で刀を下げて改めて座り直す。男も入口に槍と剣を置けば一緒になり座る。そしめ圧迫感垂れ流しの空間にてフランは少し居心地が悪そうだ。


 そんな雰囲気を払拭するように轟から言葉がかけられる。



「先ほども聞いたが、全てを知っているということで話を進めさせてもらうぞ。現状、峯司秋吉により私は城主を追いやられ、亡き者にされたという情報が西紀城に駆け巡っておる。だが、こうして私は負傷はしたものの健在ではある。ならばこそ鉄槌を下さねば我が腹の虫も収まらぬというものよ」



 そして羽織から切断された右腕を見せるとフランは口に手を当てて絶句する。一体誰が…武神の腕を切り落とせようかと。



「ここに戻る前に私は峯司による刺客にやられたのだ。名は村雨、部下として懇意にしていたが、よもや二重間者とは思わなんだ」


「村雨に…」



『薄氷』ではその真意は分からなかった。純粋に轟天一に従い、剛力率いる大隊壊滅の一旦を担った者だと思っていたからだ。それが轟と対峙するために離脱したというのは九十九からしても疑問に思うことだった。



「俺は村雨と一時期行動を共にした。と言っても村雨自身、城主と共に城落としに協力するとそんな言い草だったが」


「ふははは!そんな訳あるまい。私を裏切ることは、以前から全ては知っていたことよ。それをあえて見逃しただけだ。む…フィアンマよ、なぜそんな怪訝そうな顔をしておるのだ?」


「だって…それならば、何故…あえてそうしたでありますか?」


「そりゃ、そっちの方が面白いだろう。読み通り、私と共に生命のやり取りをすることができ、とても満足なのだからな」


「腕を…切り落とされても…」


「腕を切り落とされても、だ」



 側から見れば狂っている。狂戦士だ、それ以外の言葉が見当たらない。しかし、九十九は先ほどの疑問を投げかけるのだった。



「話の途中にすまないが、それならなぜ…村雨は標的を変更し、確実に殺すために兵を集結させなかったのだろうか?」


「そりゃあ、私の首が欲しいのは峯司は勿論だが、村雨もそうだったんだろう。対面したならばわかるが、あいつ忍であるが武人でもある。十中八九、私との死闘を楽しむためだろうな。それに、峯司の指示は恐らく私の首よりも優先して最果城と美鶴城を落とすことにしたのだろうな」


「貴方も…村雨も…峯司も…みんなおかしいよ」



 腕を落とされても嬉々としている轟。味方を死なせてもなお、轟を討たんとした村雨。そもそもこの戦いに発展させた峯司も同類だろう。人を人とは思わない。命をそこらへんの塵紙と等しく扱っているような感覚に吐き気すら覚える。



「おかしいだろうな。私もそう思う。だが、それが武神だ。私が人の道を外したから武神になりえたのか、武神になったから人の道を外れたのかは今となってはどうでも良いことよ。だが、私とて民草のことは思っている。フィアンマには伝えたがな」


「はいであります」



 そう言いのける武神は歪むことなどない。真っ直ぐにただひたすらに、己の強さと信念の名の下に生きているのだ。


 しかし、九十九に疑念が生まれた。その信念は理解した。だが、その先の未来についてはまだ不透明だということに。



「すまないが、また聞きたいことができた。聞いても大丈夫だろうか?」


「よい、何か疑問に思うのなら聞くといい。こんな機会はまたとないからな」


「…未来が見えないんだ。戦いの果てに、あんたは何を見ている。その真意が聞きたい」


「あんた…とは不遜な態度だ。ここが執政室から首を落とすところだが」


「俺は…対等でいたいだけだ。だから、素性を明かす。本当は全てが終わるまでは伏せていたかった…。俺は最果城城主、五条九十九。隣にいるのは…うちの侍大将の一ノ瀬七海だ」



 ほぅ…と一息つける轟。ここまでフランを運んだのもこの者達の手腕だ。明らかに他と一線を画した警戒具合はそういう事かと納得させられた。



「そうか…そうであるか!ーーーーーー滾るぞ五条九十九!…だが、今は楽しみとして取っておこう。まずは目先の謀反を鎮圧せねばな」


「お眼鏡にかなったようで。…それで、さっきの返答を聞かせてもらいたい」


「そうであったな。そうであったが…うーむ」



 少し歯切れの悪い返事、絞り出すように唸り、ようやく答えを出した。



「すまん、ない」


「ない…?」


「私とて今回の騒動が終われば、古き風習でもある断絶を解いたり考えてはいる。しかし、その先はわからん。私が思い描く未来とは、怪異どもを根絶やしにする武装組織の確立。私自身が前線に立ち、そして血肉沸き踊る戦いがしたい。ただそれだけのこと」


「はー…そうだと思ったであります」



 フランも呆れているが、その答えを聞いた九十九達も言葉が出ない。



「逆に問おうか。五条九十九よ、お前はこの先の最果城の未来とは何を見据えているのか。…正直なところ私には政治のイロハというのがわからない、だからこそ下の者に丸投げにして今に至るのだ。私とて出来るなら生涯を戦いに染め上げ、戦いで死に、戦いの中で生きていきたい。城主になったのも功績が讃えられ、前任者が勝手に選んだ結果だからな」



 そこで気づく。轟天一は武人であるが、城主ではない。いわば、九十九と何も変わらない。そう思うと一連の行動に意味が見出せた。



「そう…か。俺と同じ半端者…」


「半端者…そうであるな。だが、道半ばてはいえど、お前はまだ若い。私の預かり知らぬところで勝手に城を作り、こうして他を排除するためにここまで来た。違うか?」


「…違うな」


「ほぉ…?ならば答えてみせよ」



 自身が思い描く未来。繁栄、侵略、統一。色々と形はあるが、やはり最終目標は決まっている。



「俺は…まがいなりにも城主だ。今は城下町しか治めてないけど、それでもみんなが大切だ。…俺のいた場所は、小さい争いはあったけど、紛争や国同士の戦争なんてない、人が人らしく当たり前に生きる世界だ」


「城主として甘いな」


「甘くて結構。だけど…その先がある」


「その先だと?」



 甘いと一言に表されるが、それが終着点だと思ったからだろう。その先があるとするならばと轟も興味が湧く。



「何を言っているか分からないだろうが、俺は…七海と共にこの世界から生きて帰るだけだ。だから、そのために周りを利用する、必要ならば他を滅ぼす、だけどそれじゃクリアとはならないんだ。俺の目的は確実に深淵城を攻略することだから」


「生きて帰る…?クリア?」



 この世界にて生きているフランには分からないことだ。七海だけが分かっている。小鈴も田門丸も、六花も、氷華もなんのこっちゃと思うだろう。だが、武神は違った。



「なるほどなーーーーーーくくく…はーっはっは!」


「な、何だよ急に」


「良い、良いぞ五条九十九。なんだ、甘いかと言ったが撤回する。お前には確固たる信念があるではないか。あの『魔境』深淵城に挑むなど、正気の沙汰ではないわ!」


(え、そんな認識なの?)



 深淵城攻略がそんな風に思われているのが初耳だった。と言うより、これが初出なのだからそうなるのは必然だった。



「あらゆる憎悪と悪意を煮詰め、魑魅魍魎が跋扈する禁足地とも言われる場所、それが深淵城だ。私ですら歯の立たない怪異が現存し、今でこそ被害はないものの、世界に散らばる怪異どもはそこから生まれたと聞く。そんなところに挑もうなど…お前も中々に狂っているな!」


「…あんたと一緒にーーーーーー」


「いや、同じ穴のむしろだぞ?戦いに愉悦を求めるイカれた奴しかそんなことを口にしないからな。だが、それもよし。そうだ、ここで1つ取り決め…いや、約束でもしないか?」


「それは構わないけど…」


「この騒動、全てが鎮圧すれば私はお前たちのその目標に連れて行け。なんなら文書として発行しても構わんぞ?」



 それは…願ったり叶ったりだ。わざわざ『魔境』とまで言われる場所に行くのだ、戦力はいればいるほどいい。それが武神とも言われる男ならなおさらだ。だが、それは個人の考え、今までの問答は民のことを聞いていた。だから即決することはできない。



「正直助けは欲しい。だが、それに町の人、臣下の意思がない。だから保留にしたい。ここは引けない、引いてはいけない線引きだ」


「ふむ…保留とあればそれも致し方ない。今はそれで妥協しよう。だが、面白い人物に出会えた、フィアンマよ感謝するぞ」


「はえ?あ、ありがとうございます?」



 急に感謝を述べられてフランは素っ頓狂な声を出してしまう。しかし、この問答は轟にも九十九にもある意味で答えが示された貴重な時間だ。


 そして、話の決着がついたと言わんばかりに轟は立ち上がる。



「さて…面白い話も聞けたことだ、そろそろ城を落としに行こう」


「あ、私も行くでありますよ!」


「フィアンマは無事だったのだ、何もまた死地に向かうことはないぞ?それとも何か、五条達と来るのか?これは内々のことで外の奴らの出る幕ではない」


「いや、それは違う。こちらも戦闘を仕掛けられたんだ、この騒動の脇役だけど権利はある。それに、あんたには死なれては困る。保留にするとは言ったけど、最終的な返事も交わさず死なれるのは話が違う。だから生きて返事をさせてくれ」


「それが断りの返事だとしてもか?」


「そうだ。それに、俺自身あんたに言いたいことはまだあるし、フランのことや今後のこともある。武神とあろうお方が簡単に死ぬとか他の人に申し訳が立たんだろう?」


「くくっ、そこで他の人と来たか。ならば生きねばならんな。そうだな…こう言っておこうか。ーーーーーー峯司など小童に私の首は取らせんよ」


「あぁ、そうでなくては俺たちも困る。さぁ行くか、夜も更けてきて俺も動きやすいからな。…朝までの勝負だ」



 4人は立ち上がり家をあとにする。金剛には悪いがそのまま繋がれたままにしておく。背中には松永さんとフランに名付けられた猫が太々しく乗っているのを見送って。


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