表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
63/78

『25』



 夕刻、日が沈みつつあり、居食屋にそろそろ提灯の灯りが灯るころ。1人の門番が屯所の仮眠室へとそろりと入ってくる。



「と、殿。時間が来ました、起こしに来ました」



 その言葉だけでパチリと目を覚まし、身体をむくりと上げる。そして右腕の失血が完全に止まり、新たに皮膚が形成されている部分を見ると笑いが少しだけ溢れる。



「くくく…長年連れ添った夫婦のような我右腕がないのがこんなにも不便なものだとはな。幾人、多数の怪異を屠ってはきたものの、我身体は一つのみ。これが人間にやられるとは武神も落ちたものよ」


「…起き抜けに失礼します。何か食事などは…」


「そうだな、まだ血が足りぬ。体温も足りぬ。何かあるか?」


「そうと思い鹿肉と酒を用意してますが…」


「ふむ…。もし全てが終わればお主らを城の近衛兵として雇用してやろう。食べ終われば出る、あとの始末は任せたぞ。あとはそうだな…、何か大きな風呂敷などあればいいのだが。身体を包めるほどのな」


「はっ!ありがたき幸せ…!事情は何であれ、従わせていただきます。食事が終わるまでにはこちらに用意いたします」



 血の滴る肉にかぶりつき、酒を流し込み全てを平らげる。肉と酒により身体は熱を帯びて活力を与える。そして武具を携えて立ち上がりグッと身体に力を入れる。失った血、腕はあるものの、滾る心に曇りはない。


 出立の直前に大砲を包む大きな布を渡されるとそれを頭から羽織る。槍の存在感を消すことはできないが、それでも顔や骨格は隠れ、一瞬だけなら城主の姿を誤認させれるだろう。



「では参るとするか。私の席は堪能したか?次はその首を貰い受ける…!」



 轟は遠回りながら城へと向かう。暗く、人気のない路地を通り、音も極力抑えて夜道を進むのだった。




 一方の九十九は夕刻になり、城周りにぼんやりとした火が灯るのを確認して七海達の元へと向かった。



「さて、出発しよう。もしかしたら今日実行するわけではないかもしれないけれどな。それでも、ここで野宿するよりは城下町のどこかで寝るほうが寒さも凌げるし、何より情報がすぐにわかる」


「そうだね、私もそれには賛成だよ。ところでフランさんは城下町に家とかないのかな?」


「私の家でありますか…。普段は城で寝泊まりをしているので…。あ、そういえば城に雇用される前に使っていた民家がありますな。一年も前の話で、今は誰か住み着いている可能性は否定できませんが」


「よし、第一候補はそこで。無理ならば普通に宿に泊まろう。幸いフラン以外は顔が割れてない」


「え…それじゃ私は野宿でありますか!?」


「そんなことしないよ。うーむ、何か無かったかな…町民の服と頭巾は来てもらってるけれど、その髪色は一発でわかるよな」


「うーん、綺麗な髪色なんだけどね。あ、確か霊力を通せば髪色が変わるんだよね」


「そうでありますが、それは術を使った時だけでありますよ。常時展開するならば周りにも被害が出るかなと」


「それじゃあ仕方ないか…野宿でよろしく」


「そんな御無体な〜」


「まぁまぁ、そう言わず、これ使ってみてよ。『黒髪染色剤』、今は黒髪だから使わないけれど、以前は色々と髪色変えていたからね」


「へー…そんなものまで持っているでありますか。早速使います!…それにしても色んなものが虚空から現れるでありますな…」



 七海に手伝ってもらい染色剤をかけてもらう。服に着かないように上着だけはだけさせている姿を七海からは念入りに見ないように釘を刺されて辺りの警戒に努めた。


 やがて染色が終わると綺麗な銀髪は完全な黒色になっており、寧ろ黒すぎて違和感を覚えるが、今から夜になると言うことで暗闇に染まるのは都合が良い。



「これで…ひと目見ても分からないかな〜。…ゲームだと一瞬だからちょっと手間取ったけど」


「ほぇー、こんなものまであるんですな」


「うんうん、一瞬じゃわからないかな。そうだ、ちょっとだけ火を起こしてくれない?」


「わかったであります…【増幅】!」



 火打ち石を軽く打ち鳴らして前方に火の粉が展開される。その時にやはり髪は赤く光り、それだけでもフランの特徴が出てしまうようだ。



「どうでありますか?」


「やっぱり髪色変わっちゃうね。城に潜入するまでは使わないようにしないとね」


「わかったでありますが…使う機会などないかと…?」


「まぁ、万が一だよ。警戒するに越したことはないからさ…。よし、そろそろ向かおうか!」



 3人は城壁へと向かう。しかし、その道中に1つだけ問題があることに気づいた。



「あ…金剛どうしよう」



 それもそうだ、フランの顔が割れているならば、剛力の愛馬でもあった金剛も知られているかもしれない。



「フランと同じで目立つよなぁ…」


「じゃあさ、フランさんと同じようにしちゃおうか!金剛、動かないでよ〜」



 金剛は鳴いて渋る。この芦毛に自信を持ち、その巨体で戦場を駆けてきた。しかし、強者に従うのが世の理であり、それは馬の金剛でも例外でも無かった。


 七海が持っていた染色剤はまだまだあるみたいで、余裕を持って金剛を染め上げた。全身というわけではなく、人の膝にあたる部分から先はそのまま残して綺麗な白黒の馬が誕生した。



「よし!これなら金剛だってわからない…はず?」


「まぁ…大きいからなぁ」


「それでも色が違えばそうは思わないでありますよ」



 完全に日が暮れて闇夜に紛れる。染色剤がまたがったときに付くかと思ったが、そこは仮想世界、綺麗に染色できている。



「まぁ…お湯で流せば取れるからね、終わるまではそのままだよ金剛」



 馬ながら少々不服な様子を見せる金剛に九十九は『やっぱり中身オッサンだよなぁ』と感じる。


 そんなこともありながら九十九達は城壁に着いて先日行ったように壁を越える。しかし、巨体の金剛を持ち上げるのは叶わないため、七海のみが正面から入ることに決まった。


 お姫様抱っこをされながら【壁走】を使って一歩ずつ登っていく。慣れない垂直の状態でフランは口に手を添えながら絶叫を我慢していた。



「あーあいいなぁ。私もお姫様抱っこされてみたいよ」



 そんなことを言いながら門の前まで着くことが出来て中に入ろうとするが、やはり兵士にその巨体の馬を見られて中にはすんなり入れてもらえないようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ