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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『23』



 時は来た。西紀城からの出奔、そして東でのかち合い。条件は整い、廃城から1人の漢が出陣する。


 腰には亡者から得た刀…『天ノ流星』。命名者は轟天一。他に名があったかもしれないが、それは瑣末なことだ。今は彼が名付けて手中に収める。しかし、彼に剣の心得はないのだった。


 そして肩に担ぐは巨大な槍。まるで青龍刀がついたかのような槍であり、斬ると言うより叩き割ると言う方が正しいのだろう。それを先の戦いでは重さを感じさせず縦横無尽に操った。


 齢50でありながら、昔は名を馳せた怪異狩りであり、今でも鍛錬を怠ることなく『槍闘士』の職を極めんとする。


 そんな彼が目指すのは単独での城落とし。それができるか否かは未知数ではあるが、戦いの匂いを感じ取り、不思議と笑みが溢れるのだった。



「さぁて…誰が相手だろうと私は負けん。此度の反乱、心躍る戦いができることを祈ろうか。…やはりお前がくるとは分かっていたが、今回はどっちの立場かな?」


「流石は城主殿…いや、戦に魅入られた武神というべきですかね?」



 廃城から離れた先、渓谷にて待っていたのは村雨である。周りにはお供を連れていて、彼の前の言葉の通りなら手助けをして西紀城の奪還に向かうのだろうが、轟の言う『どっちの立場』というのはこの場において違う意味を持つ。



「今回は…峯司様の方ですね。いや、これからもと言うべきでしょうか」


「そうか。…なら死合うのみ。おっと、先に私の願いだけ聞いてはくれないか?」


「どうぞ。ん…刀?」


「廃城にて手に入れた真に業物である。もし仮に私が息絶え絶えになったなら、これで首を落として峯司の元へ持っていくがいい」


「…承知した。では、その命…貰い受ける」



 村雨率いる『篝火』。その全員が『忍者』の職業についており、諜報活動や闇討に特化している。だが、それをあくまでしないで正面を切って対峙するのには訳がある。


 轟天一には隙がない。廃城で肉を貪り食っている時も、執務室で惰眠を貪っている時も、そこに一部の隙すら見当たらない。戦いに明け暮れて殺気を受け取ることに関しては緩めることは無かった。


 だから…村雨としてもこうせざるを得ないのだ。これではどちらが攻めているのか分からないほどに。


 クナイが飛び、それを容易く弾き、時折飛ぶ爆弾に対しては刃を横にして受け止めて宙へと押し出す。爆発に目もくれず、ただ歩み寄って命を削りきらんとする。



「私が足止めします。その隙に貴方達は私もろとも殺しなさい」


「御意」



 感情を感じさせず素直に従い散開する手下達。村雨は腰を少し低くして短刀に手を伸ばすと、自分にかけられるだけの技能を発揮する。



「【跳躍上昇】【思考加速】【敏捷上昇】【回避率・良】【物理耐性上昇】!!!」


「…整ったか?ならば行くぞ村雨!!【龍柳】!!」



 鎧亡者にも放った神速の一撃。空間を捻じ曲げ、防御不能のその技を一撃目から繰り出してくる。後ろ…横…上…逃げ場はない。ならばこそ、進むのは前だけ。



「その技は…何度も見ています【刀突・朧】!!」



 左から右へと狙い定めた短刀の突きは、村雨の心の臓を貫く直前に刃の部分へと突き立てられる。そのかち合いの反動を活かし、身体を一回転させて寸前の所で神がかりな回避を見せる。


 勢いを衰えさせず、槍の間合いを詰めて懐へと飛び込む。跳躍力、敏捷力、回避力の全てを結集させた村雨の詰め寄り。そして短刀を勢いのまま振り上げて武神の身体へと叩き込む。



「【甲殻切断刀】ーーーーーー!?」



 おかしい。完全に身体の中心点を狙ったはずだった。しかし、目の前には轟天一の右腕だけである。彼は何も身体強化をすることなく、その一連の攻撃を読んでいた。だが、止まることはできない。一瞬の迷いは死を招くのは村雨はよく知っている。だからこそ、目標を変え、その右腕をもぎ取る。槍を放った一瞬だからこそ利き手でもある右腕は引くのが遅れたのだ。


 筋肉隆々な右腕、肩関節からやや手の方をぶった斬られた少し褐色気味の腕は血を撒き散らしながら回転し飛んでいく。それを目の端で捉えた村雨は勝ちを確信する。しかし、それは驕りだ。


 武神はーーーーーー笑っている。



「よくやった、褒めてやろう。だが、やるのはそれだけだーーーーーー【龍撃】!!!」



 思考が加速し、ゆっくりと進む世界。それから目を離してはならなかった、轟天一は腕をもがれたぐらいでは止まることの知らない戦闘狂なのだから。


 轟の身体は村雨から距離を離していく。そして、逆手で浮いている槍を握りしめ持ち替えると、避ける身体に反して槍は近づいてくる。刃が腹を捉えて一瞬で上下を分ける。


 村雨からすればじんわりと刃が皮膚にあてがわれ、肉を裂き、内蔵、背骨と順番に切断されていく。そこに痛みなど感じない。あるのは…裂かれていく感覚だけだ。


 やがて全てを薙ぎ払って槍が通過すると村雨は世界を逆に見ることしかできないのだった。


 どちゃりと崩れる下半身。まるで潰れたトマトのように内臓が飛び出して、遅れて空中から意識の残った肉塊が落ちてくる。そして察するのだ。



(あぁ…斬られたのですね私は)



 それだけを思い残し、あらゆるところから鮮血を垂らすと村雨はその場で事きれる。


 一瞬の攻防に手下は引くタイミングを誤り、片翼を失った武神へと突っ込むしかない。しかし、利き手を失い、血を流している武神なら…!っと思うのはやはり油断だろうか。それだけで武神は止まらない。



「ちと遅かったな。お前達の敗因は…村雨に突撃と共に私に刃を突き立てなかったことだーーーーーー【風龍烈槍】!!!」



 ぐっと力を溜めた槍を身体の捻りと共に一回転させる。4人同時に飛び掛かろうともお構いなしだ。その全てを空中で停止させて横薙ぎが終わる頃には意識などなかった。


 轟を中心に無惨にも崩れ去る身体。土が血溜まりを吸収していくだけで、そこには亡骸しか残っていない。



「…戦いの後は物悲しいものであるな。そこに残るのは静寂と、いきりたった魂の鼓動のみ。だが…余韻が私に語るのだ、この戦いは愉しかったかーーーーーーと。…無論だ。50年もの間に与えたことのない我が無双の右腕を目をかけてきた部下に差し出したのだ、これが愉しくない、なんてことはあり得ないな」



 脳内から分泌される麻薬。その効力が切れる前に亡骸から衣服を剥ぎ取り、口と左手を器用に使い、血の滴る腕へと巻き付けていく。完全にせきとめることはないにしろ、血が滴らなくなるとようやく痛みが戻ってくる。


 武神はそれに苦笑いを浮かべながらも刀と槍を携えてまた渓谷を歩いていくのだった。

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