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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『21』



 被害については、美鶴城の斉射援護もあり、ほぼほぼ被害がないように思える。死者は何名か出たが、この軍勢を相手にして耐え切ったのは各々の胆力と剛力を戦場から引き離した七海の功績とも言える。


 さらには相手を殲滅する力を持つフランや氷華という術師が居たのがこの戦線を持ち堪える要因でもある。


 各所では田門丸の防御力、撹乱する小鈴ら偵察隊、防御を貫通する六花が囲まれないように立ち回っていたのも大きい。


 ある程度の被害算出が出来たようで、静流子と九十九の元に報告が挙げられる。そして選択の時間。この後の動向についても協議しなければならないからだ。



「被害については軽微で、このまま進軍しても問題はないとは思うけど…あくまでこの戦いは防衛戦だ、こっちから攻めるつもりはない」


「それについてはうちも同感やな。聞けば…武神はこれから西紀城に乗り込んで城主の座を取り返すらしいやん?正直なところ、うちらの出る幕じゃ無いと思うわ」


「そうだな。これは西紀城の謀反から起こったことで、俺たちがどうこうできる立場にはない…が、行く末は見届けないとな」



 仮に峯司が武神を討つ…ということがあっても、今回の被害だと向こう数ヶ月はこちらに手出しは出来ないだろう。それに、人同士で争うのは九十九にとってもいい気味ではない。怪異ならまだしも、生身の人間を殺す感覚というのはなれないものだ。これが仮想世界に置いても同じことである。


 しかし、懸念点は存在する。今回の戦いにおいて西紀城の兵士は壊滅的ながらも生存者はいる。だからこそ、戦後の処理は必ず付き纏う。



「…捕虜として最果城で匿うことになるな。田門丸、もしこの数を受け入れたとして、冬は越せるか?」


「そうですね…今までは数人から数十人という規模で移住したりしてましたからね。正直なところ…厳しいと言うのが現状でしょうか。住居の問題、糧食の問題、治療の問題等山積みになるかと」


「だよな…はぁ、また内政の時間がやってくるのか」


「あ、うちにええ案あるけど聞く?早乙女、紙と筆!」


「…そうと思って持ってきてます」



 突然の静流子からの申し出。隣にいる巨漢の男…早乙女に伝え、筆にしたためる。出来上がったのは所謂友好条約のようなものだ。それに目を通すと、糧食品等の輸出やこれからの敗残兵の処遇などが盛り込まれていて、城主見習いの九十九からすれば有難い助け舟だった。



「ふむ…流石に城主代行とはいえ、即断即決でここまで提示されたら頷くしかないな。それで…ここまでするんだ、打算というか何か見返りが欲しいと思うんだが」


「話が早くて助かるわ〜。…この貿易に際して、うちらの条件として提示するのは、そっちの戦闘能力を借りたいってところや。うちらは多種多様の人種が集まって城の運営をしとる。やけど、それは危険と隣り合わせ…。特に飛石山脈から採れる鉱石は貿易の要や。大半は華宮国に卸して利益を確保してるんやけど、いかんせん怪異の存在は侮れん。そこでこの条約や!相互協力して怪異討伐、そして貿易でがっぽり稼ぐってわけやな」


「こちらとしてもありがたいが…ここ、小さく書かれてるけど…『なお、飛石山脈の資源については美鶴城に帰属する』って…抜け目ないなぁ」



 少しだけ目が泳ぐ静流子は弁明を述べるようだ。



「あはは…そりゃ慈善事業で城主代行なんて出来んからな。1割…いや、2割は最果城が利益持ってってもええから!あの手付かずの資源が眠ってるのをなんとかしたいんや…」


「よし…それで手を打とう。だけど、相互で手伝うということで。そこは譲れないな。それでも…助かった、正直なところ俺の手に余るから」



 頭を下げて感謝を述べる九十九。頬をカリッとかいて少しだけ照れ臭そうにする静流子。和やかな雰囲気が漂い、やがて二人してほくそ笑む。そして、それを見てニコニコと目だけ笑ってない七海。



「うにゃあ…七海怖いにゃ」


「これは私でも分かるでありますよ…。殺気がビンビンくるであります」


「な、に、か、言ったかな〜?」


「なんでもないであります!」


「右に同じにゃ!」



 こうして戦後処理は滞りなく進む。それぞれに治癒を施し、各々の準備が整う。そして西紀城の捕虜たちを連れて平原を歩む一行だが、やはり頭の片隅には轟天一の行く末がよぎる。金剛に乗る七海と横には九十九。幼馴染ゆえの気づきなのか九十九の表情を汲み取って言葉をかける。



「九十九、本当は…西紀城に行きたいんじゃないの?」


「ははっ…顔に出てた?」


「そりゃあね、幼馴染して何年経つと思ってるの?浮かない顔だな〜とか、疲れてるな〜とかすぐに分かるよ」


「うん…轟天一について考えてた。この一連の流れが彼の手の上だとして、恐らくこの謀反を収束させることも可能だろうなって。だからこそ1人で潜伏して、こっちに戦いを仕掛けて…。でも、その先が不透明なんだ。内部を暴くにしても大掛かりすぎるんだ。まるで、機を図ってるとでも言いたげな、そんな感じ」


「確かに…沢山の兵を失って…でも、それは結果論だよ。もしかしたら城から人を出すこと事態に意味があるのかも」


「そうだな…。もし、自分ならって考えれば、ここまでするなら単騎で峯司を討つってのが大目標だと思うんだ。でも…それだけで終わらない気がする。もっとさ…単純なことだと思うんだ。複雑そうに見えるけど、轟天一の狙いは別のことなのかもしれない」


「じゃあさ、確かめに行く?ちょうどもう1人くらいなら乗せれると思うんだけど…。金剛いける?」



 ブルルと一声する。ほんの少し触れ合っただけで金剛と会話しているような。騎乗スキルはそんなことが出来るのかと考える九十九。



「よし…このまま戻っても真相はわからない。だったら思うがままやってみるよ。せっかく仮想世界に来たんだからさ、たまにはやりたいようにやっても良いよな…!」


「そうそう、棍を詰めすぎなんだよ九十九は。みんな!ちょっと待って!」



 方針は決まった。だったらすぐに行動するのみ。ここから先は我が儘に行く。そう思うと心の底では昂る自分がいて、それを共有する幼馴染もいる。それだけでこの世界は面白くなる…なんて浪漫なことを考えてしまう。


 やれやれ…と、九十九を知る者は思うものの、みな快く了承する。事後処理を静流子含め、最果城の臣下に任せることになるが、大部分はいずれしよう…時間は沢山あるから。


 そして翻し西紀城へと向かおうとする2人の目の前に彼女が躍り出た。



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