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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『20』


 生きると言うことは…他者の生命を奪うと言うこと。それが人であれ、怪異であれ、家畜であれ。そうして世界は回っている。


 剛力を屠り、自分の命を長らえたこともこの世界に生きる運命に他ならない。手指に伝わる気だるい痛みもまた生きると言うことなのだろう。



「はぁ…正直今までで1番命の危険を感じたよ。急に連れてきたから何かと思ったけれど、指揮官を倒せたのは良かったよ」


「私だけだと決め手に欠けたからね…。単純に力押しでやられるなんて初めてだったし、多分…小鈴や田門丸がいても攻略は難しかったかも」


「確かに…部下がこんなにも強いなら、武神はどれくらい強いのか…。正直、この世界を舐めていた節はあるかもしれない。職業や技能の多様性、パッシブとかそこらへんを加味しても敵う相手はそんなにいないと思ったけど…」


「ただの筋力と暴力で一時圧倒されかけたからね。私ももっと精進しなきゃ。うん、目標新しくできた、『侍大将』を極めるよ。まだ、『良』だからね」



 鳴神大戦記内では1日の時間は現実とは比較にならないほどの早さで進んでいる。だからこそ一つの職業を次の段階に鍛えるのも時間がかかるとはいえ、現実時間にすれば1ヶ月辺りと言ったところだろう。


 しかし、この仮想世界は寸分違わず現実と同じである。…痛みも、感情も。いつになるかは分からないがそれでも七海は目標として組み込んだのだった。



「すごく長い道のりだと思うけどな。まぁ…時間はたっぷりあるさ。…よし、痛みは完全に引いた。そろそろ戦況を見に行かないと」


「うん。優勢とはいえ、兵の多さは違うからね。早く行って終わらせないと…よいしょ」



 横たわる死体…。かつては剛力と名を持った屍に近づく七海。おもむろに刀を抜き、首元に当てて骨を切断するように何度か引くと、苦悶の表情は胴体から切り離される。それに手をかざすと虚空へと吸い込まれていく、どうやらアイテムとして入ったようだ。



「勝鬨…あげなきゃ止まらないと思う。だからこれは私が預かるね」


「嫌な役目だろう?俺がやるけれど」


「ううん。私が指揮してここまで来たからね。最後まで責任を果たさなきゃ。さて…早く森から…ってあなた、どうしたの?」



 剛力が乗っていた白馬、金剛が擦り寄ってくる。それは主人をやられた仇というわけではなく、強き者として認めたように。



「おいおい…最終的には俺がとどめを刺したって感じなんだけどな」


「まぁまぁ、九十九は『騎乗』持ってないしいいじゃない?…鹵獲って感じになるけど。私を乗せてくれるの?」



 構わないと言うように翻して横へと着く。これ以上は何も言わずに七海は金剛へと跨り、手綱を掴む。金剛はぶるると一鳴きして森の外へと走り出し、それに追従するように九十九も外へと駆け出すのだった。





 森を抜け、ひたすらに走り、目の前に光が見えてくるとまだ戦いは続いているようで怒号が飛び交っている。流石にこの中を突っ切るのは骨が折れる為、後方にて七海がアイテム欄から『金剛の亡骸』を選択して髪を持ち上へと掲げる。



「聞け、西紀城の民よ!お前たちの指揮者である剛力は私が討った!大人しく武器を下げ、降伏を示すがいい!!」


「ご…剛力様」



 戦いの最中、駆け抜ける情報。それは両軍の手を止めるには十分であり、飛び交う弓も、打ち合う剣戟も全てが音を潜めていく。もう士気など無い。そこにあるのは勝者と敗者の二分だけ。



「やりおったで!戦いを止めおったわ!」


「猪俣様、そんなに興奮しては敗残の兵が狙ってくるかもしれませんので、後ろに控えてください」


「あ、うん…すんまへん」


「ふぅ…どうにか決着が着いたみたいだな。氷華、下がるぞ」


「我はすでに引いとるぞ〜。今日は特段働いたから2万は硬いの〜」


「氷華は現金なやつにゃ。…にゃあも疲れたし下がるにゃ」


「ようやく終わりましたね…。まずは現存する人たちの容体を確認しましょう、拠点で治療を!」



 戦いの終結。西紀城の兵士は武器を捨て投降する。へたり込む様相の姿からは、武装を司った西紀城の面影はなく、罠と戦いに疲弊した姿が印象的だ。


 反対に最果城、美鶴城の連合はさほど死傷者がいるわけではなく、士気の高さ、疲労度の無さ、そして九十九のお膳立てによる削りが効いたのかそのまま押し切って耐え切ったのだった。


 塞ぐ西紀城の兵士の間を抜ける2人。英雄の凱旋かのように臣下は集まり、弔い合戦を起こさぬように見張るのだが、それは杞憂のようだ。すでに戦うだけの士気はなく、壊滅的な状況に陥ったことを鑑みても余力はないように見える。



「ただいま帰った、みんなお疲れ様」


「九十九殿!…怪我はありませんか?…いや、その手の傷を見たらわかりますね。お疲れ様でした」



 九十九の左手は確かに治っている。しかし、裂けた手から完全に治癒させたわけではなく、あくまでダメージを無くし、くっつけたと言うのが正しいのだろう。明らかに色が変わり、くっついた所が他人のようにも思える。



「ははは…まぁ、名誉の負傷ってことで。…本当に来てくれたんだな静流子」


「まぁな〜、あんな脅迫まがいの文を送られたら来ざるをえんわ。…にしてもこんな楽な戦は後にも先にもないやろな、あんたのお陰ってところか?」


「それは過大評価だよ。みんなよく耐えたから、この勝利に繋がったのさ。さて…まずは確認しよう、負傷者と死者はいるか?」


「うちらも確認せなな。早乙女、現状を教えて」


「うす…。今確認してきますお嬢」



 各々が戦後の処理に当たる。死んだ者、怪我をした者の把握は城主の務め。弔い、そして西紀城のことも考えなければならない。やることが山積みだ…。だが、武神・轟天一のことや、それに援護に行った村雨のことが頭をよぎるのだった。

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