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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『19』



 単純な力技…というのは厄介である。いくら早くとも攻撃が当たれば先ほどのように苛烈な裂傷や…最悪胴体が切り離される。神速の一撃を叩き込もうにも、攻撃力が相手のあの鱗を貫通する他にはダメージを与えられない。



「生半可な攻撃じゃあの鱗に弾かれるだろうし、正直なところ相性悪いな…」


「そうだね…田門丸みたいに膂力がないと渡りあえなさそう」


「だけど…やるしかない。怪異だろうが、人間だろうが、化け物だろうが…倒さなければ元の世界にたどり着くことは出来ない!」


「さて…話は終わりかぁ?さっきは左手裂いたと思ったが、良い治癒薬だ、もう傷は塞がってやがる。だが…絶命すれば良いだけのこと。もういっちょ…やってやるぜ!!!【筋力上昇】!!!」



 そして…またあの構え。次は確実に身体をぶった切ろうとする殺気。多少は開けた場所とはいえ、足元にはまだ切り株や整地されてない地面。自分の想像をはるかに超える速度で距離を詰められでもして、こちらの回避が間に合わなければ…。



「ーーーーーーー死ぬ。だから…迎え討つ!!時間を稼いでくれ…七海!!」



 ただ頷くだけ。だが、それで十分だ。心は通じ合っている。



「【敏捷上昇・優】【視線誘導】!!」


「【精神統一】…!」


「臓物を撒き散らしやがれ!!【殺戮無双】!!うらァァァア!!!」



 筋繊維が悲鳴をあげるほどにパンプアップして限界まで身体を捻り振り上げる大斧。そして身体が一瞬沈み込んだと思うと、身体が前のめりになり、脚の筋肉から放たれる力の解放。土が舞い上がり、一直線にこちらに襲ってくる。相手の動きを見てからでも大斧の角度は決まる。


 だから…一撃目の角度の誘導は大事である。前に躍り出るのは…九十九、武器はクナイを1つだけ携える。



「ハッ!そんな武器なんぞで止められるとでも!?」


「出来るさ…いや、正確にはーーーーーーー俺には届かない【忍法・変わり身】【回避上昇】【煙玉】!!」



 視線はクナイに注目される。九十九のスキル【視線誘導】によりターゲットが固定されたも同然であり、まずは大斧を体の中心に構えたそこへとぶん回す。そして煙玉による白煙がその場を包む。大斧が切り裂くころには九十九は離脱する。


 切り裂く手応えがあれど、それは肉を切った手応えではない。視線の先には大木。なるほど…一撃目を躱してどこかから襲撃するのか。ならば…その起点を壊すのみ。目の前にいるはずの女が切り裂かれたならばどこからきてもこの【金剛鱗】の前では生半可な攻撃は通らないーーーーーーー!!



「ならば…死ねぇぇ女ァァ!!」



 煙を突っ切り巨体は七海に走り出す。狂気の大斧を携えながら。そして七海は目を開き、途端に霊力が溢れる。



「統一完了…【斬撃強化】【未来予知・可】【受け流し】!!」



 精神を研ぎ澄ますことによる達人の思考能力は、並列に相手の動きから斬撃の線を導き、それこそが…職業『侍大将』の真骨頂。とはいえ、それは1秒にも満たない瞬間の出来事であるが。


 だから最果陣営において、九十九が暗殺特化ならば、七海は対人戦特化と言える。


 引くのは右後方に半歩のみ。剛力の一撃目は左から右へ横薙ぎの移動をしていて、次に来るのは左から脇を抉り、首を刈ろうとしてくる動き。ならば…一点に狙いを定め、その線を歪めればいい。



「ーーーーーーー!!!」



 煌めく剣戟。持っていた刀はボロボロに崩壊して刀身は地面に散らばる。目論見通りに大斧は軌道を変えて七海の頭を超え、反対側へと通り過ぎる。だが、技能に頼らずとも攻撃力は圧倒的に剛力に軍配が上がる。アイテムストレージから替えの刀を出す為に持っている柄を剛力の顔面に投げつけて後ろへ下がる。


 剛力は選択する。この柄を弾くのか否か。弾けば隙になる、どこにいるか分からない忍者にそこを突かれる。ならば道は一つしかない。鱗と言えど張られたのは身体のみ。顔は覆ってはいない。


 だからあえて顔で受ける。首を傾けても頬へと残った刃が刺さり血を散らすが、それで止まる男ではない!!



「今度こそ最後だ!!死ねぇぇい!!」


「ーーーーーーーいや、終わりだ【格闘強化】!!」



 技能がなくとも力で捩じ伏せる。だが、攻撃一辺倒ならば手立てはある。九十九は…暗殺特化の忍であり、鳴神大戦記において様々な職業を修めてきた。…いわばこの世界においての異分子だ。


 通常この世界は1つを極めれば重畳、2つも持っているなら異才、3つともなれば九十九の知る限りではまだいない。伊達に農民、足軽、工作兵、大道芸、そして忍者。いや、忍者の職業にはそれらをある程度やらねばなれないだけなのだが。


 そしてここで発動するのは農民スキル…【格闘強化】。しかし、あなどるなかれ、敏捷を上昇させ、忍者としてのステータスの強化が合わされば並みの武闘家にも引けを取らない力を発揮する。



「【忍体術・影狼】!!」



 掌底にも似た手の形でまずは左の脇腹から鳩尾辺りを狙う。



「ハッハー!!鱗により無駄ーーーーーーーガッ、ゲボォ!!!」



 人間の身体にはすべからく内臓が存在する。一撃で心臓を貫く、首を刈る、脳を破壊する。それらは通常の人間に対してなら効果的だろう。だが、この剛力は身体を鱗で包み、唯一達成できそうなのは脳を破壊する…だが、身長差があり届きそうにない。宙に浮いて短刀などをブッ刺せばいいが、そうしているうちに大斧でぶった斬られるのがオチだ。だからこそ、身長差も関係ない脇腹付近を狙う。


 ならば…そこには何があるのか…それは肝臓。ボクシングならばレバーブローと呼ばれる技術。この世界が戦国時代付近ならばボクシングが渡来しているわけもない。もっとも…武闘家ならば周知しているかもしれないが。


 力の限り打ち込むそれは体内に取り込む動作を阻害させ、同時に呼吸が厳しくなる。剛力は大斧を地面に刺して膝をつく。大きく口を開けて酸素を取り込もうとするも肝臓の痛みは増幅して立ち上がれそうにない。



「ーーーーーーーカッ…ハァ!!」


「ようやく…隙ができたな!喰らえ…トリカブトを濃縮した毒玉だ」



 どうにかして吸おうとする。そこに九十九の追撃。まずは口に玉を突っ込む、そして…顎に目がけて蹴りをかますのだ。


 その巨体は一瞬だけ浮く。そして破裂し、紫色の煙を撒き散らしながら地面に沈む。息を吸う…命が削れる。意識を保つ…酸素が必要だ。だが、身体の循環に取り込まれるのは毒。つまり…人間ならばこれが1番手軽に殺せるというものだ。


 悶え、苦しみ、蠢き、金切り声が響く。首を掻きむしって徐々に動きが微細になる。そして、動かなくなるのだ。巨体に圧倒的な攻撃力の相手であろうと人には変わりない。



「あ、七海は耐性ないから…ってもう離れてるか」


「うわぁ…酷いね、流石はマスター忍者」


「え、それどこで聞いたの?」



 口に袴の袖を押さえて煙を吸わないようにして、戦いの後だというのに軽口を叩く余裕がある。


 九十九は毒に耐性があるため剛力に近づき、死んでいるかの確認をする。どんな敵でも絶命を確認しなければ戦いに勝利したとは言えない。



「…肌から鱗は消え去っている。だけど、生きているかもしれない」



 刃を立てて心臓に突き刺す。血が噴き出すことはない。心臓のポンプは止まっている為、じわじわと短刀の刺さった分だけ血が流れる。そして、確認して引き抜けばドロドロと血が流れるだけだ。



「任務完了。…仮想世界でも人の死は、慣れないものだな。って、痛ててて…!」



 実のところ左手はぐしゃぐしゃに折れていて、アドレナリンが出ているからか、そこまで痛くは無かった。ほっと胸を撫で下ろしたら痛みが襲ってきたと言うわけだ。風が通り、煙が晴れるとその声を聞いたのか七海が近寄ってくる。



「大丈夫…?ほれ」


「あっ…痛たたた!!!」



 この戦闘で2度も左手を負傷し、その傷を癒すための薬の激痛を食らう。流石に悶えてその場に転げる九十九だった。


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