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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『17』


 森の入り口に立てた看板は無視され、ズカズカと音を立てて侵入する。とはいえ、入り口付近には何も設置はしていない。なぜなら、そこでかかって迂回でもされたら困るからだ。より中へ、深淵に進むほどに罠は牙を剥く。



「んぐっんぐっ、ぶはぁ!おーい、お前らも酒飲んで体温めとけよ。やっぱ冬はさみいが、酒さえありゃどうにでもなるな!」


「そんな薄手は剛力様だからですよ、俺は寒くて寒くて…」


「なんだぁ?城の兵士たるもんが情けねぇ、酒かっくらって戦えば身体も温まるってもんよ…っと、前方になんだ?死体か?」


「いえ、あれは天狗です。肩口から大きく裂かれています」


「どうせ鬼との抗争の結果だろう。このある程度開けた場所なら見せしめにもなるからな。たく、そんなことしないで直接どっちかが死ぬまで戦えばいいのによ」



 天狗の死体。それはある意味で目印として九十九が置いたもの。本当は刺突の一撃で仕留めたが、それだと鬼がやったか人がやったかある程度区別もついてしまう。だからわざと肩口からゴリゴリと削るように身体を開いて偽装をした。意図に気づかず、まずは第一関門突破。それを見届けて九十九は罠のストックを順に解放して、前を歩く者たちに気づかれないように茂みへと隠れて設置する。これで後方に逃げた敵を討つ。



「おっと、俺はしょんべんだ、先行ってくれ」


「わかりました」



 馬を降りてそばの茂みにて立ちションべんをする剛力。それを見ないようにして一行は森の中腹ほどへと進む。…ガン見して因縁をつけられるのも酷だからだ。ある程度進むと一つ目の罠が作動する。



「なーーーーーー」



 簡易的な落とし穴。しかし、底に竹槍を敷き詰め、糞便を塗りたくっている。毒草の類もあるのだが、実のところこれが最もお手軽な毒であるのだ。まずは傷をつけ、そこに衛生上最悪の糞便が付着すれば破傷風に期待ができるし、何より士気を削ぐことができる。そして、運が悪ければ竹槍の一撃で胸を貫ければ儲け物だ。


 1人が落ちればなだれ込む。長蛇の列は簡単に止まることはできない。伝達して止まるまでの間に10数人が落ちてくれて、下の方では息をしているのはいないだろう。糞便に塗れる最悪の死だ。


 ちなみに、これらはゲーム時代から手に入った文字通りの糞アイテムであり、売るにしろ罰金がかかってしまい、プレイヤーにとって取得したくないアイテムとなっていたが、こんな手軽な罠にも用いることができるので、処理しなかった自分に感謝だ。



「ん?なんだぁ?先がうるせぇな…」


「伝令!この先に落とし穴がありました!10数人が落ち、恐らく何名かは負傷もしくは死んだかと思われます」


「あー…天狗の仕業かもな。さっき無惨に殺されたやつの報復かもしれねぇな。…陣形を変えるぞ、俺は中央にて指揮するから、歩みを遅めて罠の探知に尽力してくれ」



 いい指示だ。敵ながらそう思う。だが、それは悪手かもしれないというのを剛力は分かっていなかった。落とし穴を迂回して道に戻ろうとするが、新たなる罠が発動される。


 蜘蛛の糸によって抑えられたそれを踏むと、少し後方にて針付きの丸太が行軍者を襲う。巻き込まれて吹き飛ばされる者、針の餌食になる者、そしてそれは敵を錯乱させるのに充分な仕掛けだ。



「な、なんだよここ…!」


「ありえねえよ!ここから離脱……ぐふっ…」



 後方に逃げようものなら容赦しない。木は倒れてきて、幹の周りには、かつて盗賊のカシラ相手にも使った毒煙玉をくくりつけており、倒れたと同時に毒が散布される。後方に近寄っていた者たちはそれを大きく吸ってしまい、やがて身体が麻痺して倒れてしまう。


 ならば横へと向かえば…!と思うのも当然だ。だからそこにはくす玉の要領で爆発する火薬を置いておいた。



「あづッ!!燃える!!!」


「ぐぁぁあ!!!」



 側面は燃え、後方は毒煙。そして前方に未知の罠。さすがの剛力も焦りを感じ始め、全体に指示を達する。



「こいつは…怪異の仕業じゃねぇ!オメェらッ!!!前進だ!一目散に森の外へ走れ!!」



 5000人規模の列は森の外へ近づくたびに戦闘不能者を出し続け、遂には五体満足で森を抜ける者は全体の半分にも満たなかった。


 前をゆく者は罠にて狩られ、逃げればその音を聞きつけたのか怪異が幾人か襲来する。そして遅れた者は九十九が後方から煙玉やその闇に乗じて確実に一人ずつ殺傷していったのだった。



「見えた、外だーーーーーーッ!?」



 外へ逃げ延びた者たちへ絶望のお知らせだ。七海を先頭にして最果城及び美鶴城からの応援しめて約500人にも満たないが、それでも横へと伸びれば威圧感を与えることができる。



「な…!?これは一体どういうこった!?」


「ふふふ…私を生き延びさせたのが運の尽きでありますな、剛力殿。情報はこっち側に渡したでありますよ!」


「うわぁ…めちゃくちゃ調子乗ってるね〜」


「元より癖髪はこんな感じじゃったぞ?寝る時も寝言が五月蝿いのじゃ」


「えっ…それは初耳であります」


「こほん!…静かにしてくれないかな?」



 ピシリと一瞬の殺気を発して2人を黙らせると、七海は口上を述べる。



「我ら、最果城下を守る武士もののふなれば、命を賭して眼前の敵を討たんとす!武器を掲げ、士気を上げ、いずれ来る勝鬨に備えて己が魂で敵を喰らえ!!人修羅と罵られてもそれこそが誉れなり!!!さぁ、いくぞーーーーーー全員…迎え討て!!!!」



 500の兵で約2000余を討つ。無謀と思う勿れ、士気の差は相手を遥かに凌駕している…!



「銀髪のクソ野郎が…この俺に歯向かうならば一人たりとも生かしはせん!!…来い、金剛ォ!!」



 先程まで剛力を乗せていた芦毛の馬。それが金剛と呼ばれ、森の中から剛力の元へと颯爽と飛び出す。傷はあれど、それは今しがた負った訳ではなく、歴戦の爪痕である。


 金剛の通った道を後方の兵達が幾ばくかの傷を負いながらも這い出ると、眼前に迫り来る敵に向かって必死の覚悟で突っ込んでくる。



「そうやろなぁ…そうくると思ったからこっちも準備してるんやで?初撃…放て!」



 だが…それは静流子の計算の内だ。後方の足軽達は弓を携え森の入り口目掛けて放つと、やっとの思いで出てきた兵士たちの心を折るように突き刺さる。



「さてと…私らも行くか…【精密射撃】【炸裂弾】!!」


「さっさと終わらせて帰りたいからの…【氷縛大地】!!」


「左方は任せるであります!【増幅】…もひとつ【増幅】…そして、【烈火彼岸華】!!」



 六花の霊力を込めた撃鉄の一撃は発射されてから無数に分かれ、前から攻める兵士達に無差別に貫いていく。


 氷華の冬で蓄えられた霊力は地面を走って後方から走ってくる兵士たちの足元へと忍び寄り、その足元から瞬時に凍結させると相手をその場から動けなくすることができる。


 そして…その動かぬ標的に対してフランの増幅された魔力は空気中を漂って遂には花咲き、巻き込むようにして爆発を起こし、相手を焦熱地獄へと誘う。



「にゃー、さすが遠距離型は違うにゃよ」


「私たちも負けてられませんね…【剛体】【ぶちかまし】!!」


「そうにゃ!にゃあ達も出来るところを魅せてやるにゃよ〜【縮地】【蛇喰双撃】!!」


「私は空から狙いますので、宗左衛門は御船を頼みましたよ!」


「わーったよ!って…お前何もできないんだからここまで出るなよな…」


「出来るだけ…森に近づいて索敵…これ重要」



 近接戦ならば各々の対応力が試される。相手からの飛び道具については美鶴城からの重装備兵が前に立ってシャットアウトし、その隙間を縫うようにして小鈴達が飛び出していった。七海はというと、金剛に乗った剛力と対峙している。



「…このでかい人は私がやるから、みんなはそっちを頼んだよ!!」


「まずはフランを殺そうと思ったが、中々届きそうにない。だから、まずは首級をとらせてもらうぜーーーーーー我が名は剛力!!さっきの口上は中々のもんだったぜ?ってことで、俺の女になれよッ!!!」


「そんな甘い女に見えた?残念、私は心に決めた人がいるから無理ッ!!」



 馬上から振り下ろされる巨大な斧と、真っ向から受け止める七海の刀。完全に力の上では剛力に軍配が上がるようで、すんでのところで刀を逸らして空振らせることに成功するが、それをものともせずに連撃を加えてくる剛力であった。


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