『15』
「偵察隊、問題なく出たにゃ!」
「私は…いるけどね」
「まぁ…御船は運動能力を求めてないからにゃ〜。田門丸はどうにゃ?」
「後方支援部隊も荷積は終わっていつでも出れますよ」
「私達の自警団と怪異狩りから何人か借りれたのも問題なさそうだ」
「俺たち兄弟も参加するぜ!」
「兄者と共に西紀城のやつらを一捻りさ」
「我は無理やり連れてこられたがの…はぁ眠い」
早朝の最果城。空気は冷えて、白い息を吐く。日がひょっこりと顔を出す前に最果城の集めれるだけの戦力は城の前へと集合している。
「よし…!あとは静流子さんがいつ来てもいいように田中さん達は残ってくださいね」
「留守中は門番が城の警護と伝令を努めまするぞ!あとは町民の避難先としてここは死守します!」
馬車に荷物や人を乗せて一行は最果城下町を出る寸前だ。もし万が一突破されて最果城まで進軍を許したのなら緊急の避難先として城に留まってもらう手筈を整えた。
こちらの陣営は偵察隊4人、後方部隊6人、自警団2人、社奉行所から応援として怪異狩り16人ほど。そして指揮を取る七海と補佐としてフランが付いている。計30名と人数は少ないながらも森から出てきた一団を狙うため、一点集中で戦力を削ぎ落とすことは可能である。
「整ったね…よし!出発しよう!」
「ちょーっと待ちぃぃい!!!」
突然の怒号に振り向く一同。そこには静流子を先頭に部隊がずらりと並んでいる。およそ300名、軽装で速さを生かしてここまで来たようだ。
「静流子さん!本当に来るとは思ってなかったよ!」
「待たせたな〜。…あんな手紙渡されたら行くしかないやろ?つーことで足軽含めて早いやつだけ来てもろた。重装備の人は後で馬車と来るさかいな、とりあえずこんだけやで」
「本当に助かるよ…!でも、私が言うのもなんだけど、あの手紙で出ようと思ったね。出まかせかもしれないのに」
「出まかせならそれでええんや。問題は現実に起きた時に準備できてなかったら、それこそ美鶴城のおしまいや。遅かれ早かれそうなるんや、それが世の常やで」
先を見据えての行動。それは取引だけではなく、戦場においても有能である。九十九が単独で対処しに行ったことも、こうして静流子が挙兵してくれたことも、全ては先手を打って待ち構えるためである。
最果城に籠城戦や、防衛戦をする膂力はない。だからこそ、削れるだけ削るのが得策というわけだ。
「今から出るんやろ?どこまで行って拠点を築くんや?」
「場所は、『薄氷』の手前、私たちが切り開いた道の先。そこで抜け出してきた敵を討つよ」
「なるほど理にかなっとる。そうと決まれば集合地点を変えなあかんな〜。うーん…よし、じゃああんたとその隣の人は、後ろの重装備隊に場所の変更を伝えてきてほしい」
「御意に」
颯爽と走る姿を見送るともう憂いはない。これで全ての障壁はクリアされ、あとは対峙するのみとなった。
「よっしゃ、うちらのところを人数だけの木偶の坊やけど、己の未来を守るためや、一生懸命やったるで!」
「さぁ改めて…行こう!『薄氷』にて西紀の敵を討つよ!」
「応!!」
時同じく西紀城門前。峯司率いる軍勢は5000人と最果城、美鶴城を遥かに凌駕する数を揃えて戦いの時を迎える。激励の言葉を紡ぐため、峯司は矢面に立って演説をする。
「みな、この時が来た。今から始まる変革はこの城の、いや…この国を変える一手となる。ならばこそ、西紀の民が達成せねばなるまい。遠く離れた地にて亜人と結託し搾取せんとする美鶴城。新進気鋭で我が物顔でこの城を掠め取ろうとする最果城。みなはどう思う?ひどい蛮行だとは思わぬか!もしかすると華宮国の差金かもしれん、実のところは分からぬが。しかし、その兆候はあった!まずは古くから続く断交の歴史。それは意図しておらず、一方的な利益の独占による美鶴城の凶行だ。さらには『薄氷』を切り開き、今か今かと寝首を刈らんとする最果城の奇行。それが全てかの国の計略だとすれば辻褄が合おうと言うものだ。…わしは命が惜しい。それは我が身可愛さというわけではない。この城の忠臣達だけではない、民の命の危機でもあるからだ。奴隷として働かされ、まともな生活を送ることなく死んでいく。それが人の世だと言うのか、一生だと言うのか!わしは真っ平御免だ。ならばこそ戦おう。みなの未来を勝ち取るために。さらば与えられん、笑顔と幸福に満ちた人生を。さぁ行こうぞ、目標は城主の首とそれを支援する民。なお、これは無駄な殺生ではないと知れ。未来の足がかりとしての尊い犠牲なのだから。ーーーーーーこの時をもって我々は反逆する、理不尽な凶行の魔の手から!行け、勇敢なる西紀の民よ!!」
「ーーーーーーーーーーーーオォッ!!!!」
野太く力強い返事と共に大地は揺れる。早朝の西紀城下に響き渡れば士気を得る。『あらくれ』を先頭にして進む一団は西紀城を出て東へと向かう。先行する諜報部隊の『篝火』が『薄氷』での安全を確認して短期間で突入するという流れだ。
その『篝火』の長でもある村雨は『薄氷』の手前にて兵を固め単独の九十九と対峙しているようだ。




