『10』
轟天一は肉を貪り喰って腹を満たす。道中で狩った兎を焼いて廃城にて時を過ごす。城の所々には戦いの痕が刻まれており、塀は瓦解し、城も殆どが剥き出しとなっている。さらには様々な怪異も徘徊しており、のっぺらぼう、化け提灯、百目、そして…元々この城の兵であった者たちが意識なく黄泉帰りをし、侵入者を排除せんとする。しかし、そうなったのには訳があった。
かつてこの城に豪傑な城主がおり、西紀城と戦いを繰り広げていた。ことの発端は至ってシンプルである。はたして…どちらの城が強いのか、ただそれだけであった。
結論からすれば西紀城は生き残り、吸収して今の城を形作った。そのことを轟天一は考えている。
「栄枯盛衰。この廃墟と同じく朽ちていくのか、それとも私の考える結果となるのか。はてさて、やはり戦いはたぎるな」
血を流し、それを啜ることで人は強くなる…と本気で考える戦闘狂い。いかんせんこの時代は自分にとって平和である。だが、民のことを考えるとそれが正しい。平穏を享受してこそ生きる意味があるのだから。
だが、頭で考えても身体は欲する。戦いを、命を張った賭け事を。
「単騎特攻上等である。が、戦いとは一方的になぶられる…そんなものではいかんのだ。だから疲弊させて五分五分の状況にしてこそ華と言うこと。そのためには私はどんな手を使ってでもこの機会を逃すわけにはいかない」
兎肉を食べ終わり、口を拭って身体についた埃を払う。傍に置いてある身の丈以上の戦槍を手に取ると、徘徊する怪異の一体を真っ二つに両断する。
「さて、腹ごなしだ。このまま雲隠れというのもつまらん。時が来るまで、私の渇きを癒してくれよ?…この城に生きる亡者どもよ」
キシキシと動く亡者たち。轟天一を侵入者と見做して襲いかかってくるが、それを笑みを浮かべながらも戦いに身を投じていく。事が動くまで残り2日。轟天一は緊張感を感じながら精神を研いでいったのだった。
時同じくして最果城。模擬戦闘を行った七海達は殿の間にて田門丸の作った食事を囲んでいる。戦いによる程よい疲労感と風呂場にて整うように身体を清め、冬ながら身体はぽかぽかとしていて、目の前にはとても美味しそうな食事が並んでいる。
「ほわぁ…美味しそうでありますな〜」
「今回は客人も来られて、小さいながらも懐石料理を用意しました。心いくまで堪能してください」
お盆に並べられたのはさながらミニ懐石である。『玉菜と茸の寄せ』『高野豆腐と枝豆の煮物』『お刺身』『鰆田楽』『海老のお吸い物』『鶏肉山椒焼き』『白米』『香の物』。七海監修したものもあるが、殆どが田門丸が指導して作ったものだ。
「うにゃ〜匂いがすでに美味しいのにゃ」
「じゃあ冷めないうちに食べようか。いただきまーす!」
食卓を囲んで食べ始める彼女たち。
玉菜と茸は昆布出汁から炊き合わせ色鮮やかに。煮物は鰹節香る薄い出汁ながらもガツンとした旨味が鼻を突き抜け、刺身は言わずもがな冬の魚は脂も乗って醤油が弾かれるほどだ。
田楽についても甘めにすることで他の食事に負けない存在感を放ち、鶏肉についても清涼感ある山椒が食欲をそそる。
そして漬物をかじり、白米をかっこみ米の旨味や甘みを感じれば、最後に海老の吸い物をすすることで脳は快楽物質を出して旨味に支配されるのだ。
食べるほどにとろける顔。押し寄せる旨味の波に飲まれ、フランは何も言えなくなっている。
他にもそれぞれのリアクションの違いがあって、側から見ていればとても面白い。
「こんな美味しいもの、私は初めて食べたでありますよ」
「食文化の違いはあるだろうけど、ここまで美味しいのは田門丸さんの腕だからじゃないかな」
「いやはや恐縮ですね。なにぶん急でしたからこのような膳として出しましたが、次は機会があれば懐石でもしてみましょうか」
「いいね。落ち着いたら静流子さんを呼んでみようかな〜?」
「私らもご相伴に預かりたいもんだが、立場上難しいよな。七海は姫さんだからまた食べれるし、こっちは…こいつの作ったよくわからない雑炊だしな」
「ん?なんか言ったか〜?」
「…何もねぇよ。そのまま食べとけ」
「なんだか女子力の差が顕著でありますな…」
堪能する彼女らはあっという間に平らげ、時間をそこそこに食事を楽しんだ。
そうなればあとは、今回の本題でもある未来予知である。話を聞くため寝室にいるのはフランと七海、それと…
「なぜ我?」
「もふもふ尻尾枠でーす」
「確かに…抱き心地は最高でありますな」
「聞いとらんぞ!」
まぁまぁと七海は宥め、フランは落ち着いた様子で話を始めるのだった。




