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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
3章 『焔の糸で未来を紡いで』
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『8』


「まずは…軽く戦闘訓練だよ!」


「え…いきなりでありますな…」



 話を聞いたのち、最初に始めるのは模擬戦闘である。場所を平原に移し、それをいつものメンバーが見守る。そしてその映えある対戦相手に選ばれた六花の手にはいつも使っている銃が握られていて、フランはそれに対してツッコミをいれる。



「いやいや、模擬戦闘なのに銃はヤバいでありますよ!」


「大丈夫だ。こいつは弾を出すことは出来ねぇよ。強いて言うなら直接叩くための武器だ。私は銃しか扱えないからな。そこは許してくれ」


「はぁ…撃たないのならいいでありますが…私は焔を出しても構わないので?」


「出力抑えてくれたら問題なし!」



 彼女の手に握られているのは火打ち石。汗で濡れていなくて、カチャカチャと手の中で鳴っているようだ。



「じゃあ…始めましょうか。降参を言うか、私が危険と判断したら止めるからね…いつでも始めていいよ〜」


「私は依頼で西紀城に行ったこともあるからあんたのことは聞いたことあるよ。『焔の魔女』フラン・フィアンマ。最近は前線に出てなかったらしいし、討伐依頼の時に見かけなかったがな」


「それは光栄でありますな。さて、こちらから…いかせてもらうであります!」



 勢いよく火打ち石を叩くと火花が散る。それを六花は警戒して回避体制に入るが、その判断は正しいようだ。



「まずは小手調べ…加減はしてあげますよ【増幅】!!」



 髪の先端が赤くなり霊力が火花を増幅させ、炎を作り出す。それを空中にばら撒くように手を横に振って飛ばしていく。火花から生まれた炎は横移動する六花に目掛けて放たれた。



「げっ…結構早いな。【結界術・甲】!」



 初撃を避けながら前進するが、それでも避けきれない炎が六花に襲い掛かる。それに対し【結界術】を用いて銃を中心に霊力の盾を発生させて受け流す。炎は滑るように六花の横を抜けて奥地に着火する。存外速度はあったのか紙一重でいなす形となったが、そこで隙を見せてはいけない。



「へっ、止まって見えるぜ、異国の嬢ちゃんよ」


「むむ…ならば火力を上げるとしましょうか。手始めに初級とも言えるこちらでありますよ!【増幅】【火炎渦潮】!」



 3回ほど火花を散らして上空へ放つ。それがやがて自然落下で戻ってくると3つの火の玉は螺旋を描いて降ってくる。



「だが…追尾性能は無いとみた!」


「なんと、打ち上げ過ぎたであります!?」


「普段は撃つことしか出来ねぇ私だが、銃を持たせりゃなんでも出来るってもんよ!」



 銃口を向けフランに照準を合わせるように身構える。照星がその身体を捉えるとフランは撃たれると思い身を構えてしまう。だが、実際には撃たない。それでも向けられるということはその可能性を頭でわかっても身体は否定しきれないものだ。咄嗟に火打ち石を鳴らして火花を散らすが、増幅の隙を与える間もなく銃身がこちらに迫ってくる。



「しまっ…!!」


「…ふぅ、刀じゃねぇが首元に突きつけられるのは嫌なもんだろ?」



 銃口は完全に首に向かれ、顎を上げて突かれないような格好になってしまうフラン。その姿を見て七海は手を上げて戦いの終結を告げる。



「そこまで〜。勝者六花さん!」



 そう告げると六花は銃を引いて手を差し出す。それをフランは笑みをこぼしながら手に取ってゆっくりと立ち上がった。



「はぁ…身のこなしというよりは判断の鬼でありますな。打ち上げ過ぎたとはいえ、それをみて前に進む胆力と、初手を結界…?のようなもので弾くとはなかなかやるであります」


「伊達に怪異狩りをやってねぇからよ。弾が切れたらこういう事も必要だしな。それにあれはマジモンの結界だよ。私は【巫女】ってのを生まれ故郷で授かってたからな。最初は煩わしいと思ったが、こうして戦うのに使えるのなら悪くはないわな」


「互いに珍しい職を持っているでありますな。…それにしても、弾を使われたら一瞬でこっちがやられていたでありますよ」


「ははは、こちとらそっちが本来の得物だからな。まぁ、本気でやるならどっちも遠距離だが、私は撃つことしか脳がない。術を交えたら結果はわからねぇよ」


「そう言われるといささか悪い気分ではないでありますな」



 そして互いに健闘を讃え、共に握手を交わす。それを見ていた外野の二人は感銘を受けたようだ。



「おぉ、六花が発砲なしで勝ちおったわ!それに巫女持ちとは聞いておったが、まじまじと結界を見たのは初めてじゃ」


「確か撃つ時も霊力を込めていたのにゃ。怪異に対して有効打になるってこの前言ってたにゃよ〜」


「ほう…何気に攻守共にいい働きじゃの、巫女ってやつは」


「あー、見てたらうずうずしてきたにゃ。次はにゃあがやりたいにゃ!…氷華やるかにゃ?」


「我は勘弁じゃ。懐に入られたらそこで終了。距離をとっても五分五分。ならばこそ、やるなら他の者とやった方がいいぞ?」



 そんな話をしていると六花が近づいてきて氷華の頭をくしゃりと撫でる。



「ただでさえうごいてないんだから、ちっとは戦ってみろよ。五分五分なんだろ?」


「げっ…六花」


「げっ…とはなんだぁ?よーし…。おい、七海!次は氷華がやるってよ」


「りょうかーい。じゃあ、氷華ちゃんいらっしゃ〜い」


「我はやらぬ!やらぬぞ〜!って、なんで2人して我の腕を掴むのだ?」


「それは…」


「楽しそうだからにゃよ〜」



 そう言い切ってずりずりと引きづられて行く氷華。駄々をこねるが、いざ七海達の前に出されると嫌とは言い切れない雰囲気が漂った。



「はぁ…我は動きたくないって言っておろうに。仕方ない、一手で詰みまで持って行くとしようかの」



 手を宙に出して顕現させる。その手には大幣が握られていて、かつて『薄氷』の社にて奉納されていたであろうその道具を携えて氷華は臨戦体制に入る。


「氷華ちゃんは問題なさそうだね。じゃあ早速始めるよ〜、って忘れてた。フランさんは霊力問題なさそう?」



 六花達が氷華を連れてくる前に渡しておいた、低級の霊水をごくごくと飲み干していたフラン。



「おお…、この霊水すごいであります。私は【増幅】を挟むため、霊力を多く使うでありますが、これがあればすぐに回復でき、なおかつ飲みやすいであります!」



 まだまだ戦えると言わんばかりに腕を振って合図する。両者が互いに向き合って距離を取ると一瞬の静寂に七海の声が響く。



「おっけ〜…じゃあいくよ…始め!」



 いきなり始まる号令に対してフランは火打ち石をカチリと鳴らそうとする。しかし、腹をくくり、一瞬で終わらせに入る氷華は発声の瞬間を聞き逃すことはなかった。



「遅い!【氷槍乱舞】!!」



 大幣をかざして霊力を爆発させる。今は12月。つまり…氷の作成においてこの上なく最適な季節。かつて『薄氷』で見せた氷の術とほぼ同じ条件下ならば氷華に軍配が上がる。己の霊力と周りのこの状況を利用した、氷華による氷華のための独壇場がそこにあった。


 手始めに自分の周りに氷槍を生成し、直ぐ様フランへと飛ばす。まずはフランの右足付近に着弾するような軌道を描くが、距離があるため左に躱せる。しかし、氷華の作り出した氷槍は7本であり、残り1本になるまで逃げ場を防ぐ形で槍が弧を描き飛んでくる。フランもようやく火打ち石の火花を増幅することで焔の壁を作り出した。



「結構霊力喰うでありますが…【増幅】【紅蓮弁慶】!!」



 前方を覆うように圧力の籠った焔の壁を打ち出して氷槍をシャットアウトする。そしてそうなれば左右から来るはずだと目を凝らし次の一手のために炎を出す準備を整えている。互いに遠距離型の術使い。初撃では氷華に譲ってしまったが、こうなれば勝てる算段もあるというわけだ。だが…氷華は想像の上をいく行動をした。



(なんでどちらにも姿を現さないでありますか…?そのまま次の氷を生成して焔の壁が切れるのを待っている?)



 それならばと前方の壁に霊力を注いで炎の弾を作り出そうとするフラン。しかし、相手からのリアクションがないために完全に次の手が読めていない。だからこそ隙が生まれる。前方、左右だけでは彼女に対して優位性を確保できない。それが氷華の狙い通りだと言うのも知る由がない。



「これで終わりじゃな」



 声が聞こえたのは真後ろ。氷槍の射出は囮。その事に気付いたのはヒヤリとした槍を突きつけられた瞬間だった。



「ははっ…今日は何かと首に突きつけられるでありますな…降参であります」


「そこまで!勝者は…氷華ちゃん!」


「にゃ〜氷華もやれば出来る子にゃ〜」


「全く…追い込まれねぇと力を出さねぇんだからよ」



 フランは知らない。尸解仙(仮)の彼女の本当のことを。そして、それだけではなく、彼女自身は空を飛べると言う事も。単純な話、氷槍で飛び道具に注意を寄せておき、彼女は普通に空を飛んで後ろに回った。ただそれだけのこと。焔の壁を作り出した事による次の動きに対する自分の脳内の動きを、予想を裏切ることがこの戦いの最善手というわけだ。


 ただ六花達に引きづられていただけではない。飛んで拒むことも可能であったが、あえてそうはしなかった。相手に情報を与える事に繋がるためだ。この模擬戦は氷華が練り上げそして昇華した作戦勝ちというわけだ。



「空を飛べるとは思わなかったであります…。これは視覚を狭くした私の失態でありますな」


「なぁに、先の戦いを見ていたのだから我の勝ちは必然じゃ。情報こそが戦いの真髄。まぁ、それを上回る武力があれば話は別じゃがの」


「考えが老師級…若くしてまるで軍師のようであります」


「軍師…ねぇ、我は働きたくないから考えているだけじゃ。癖髪も考えればもっと上手く立ち回れたと思うがの〜」


「癖髪って、私のことでありますか!?」


「ま、我に勝つと言うならもっと次の一手を有効に考えるのじゃぞ〜…よし、今じゃ!」



 そう言い残すと氷華は手の届かない位置にまで浮遊して1人で城下町の方まで飛んで行ったのであった。



「あ、逃げたにゃ」


「はぁ…勝ったからお咎めなしだが…次も模擬戦あるなら絶対に縛ってでも連れてきてやる」


「ははは…それにしても皆さん強いであります。前線から離れて時間は経ってても、私の焔の力はそれなりに自信があったであります…」


「初手が遅れるとね…多分小鈴ちゃんとやったらすぐに距離を詰められるよ」


「にゃす、実際にやってみるかにゃ?」


「うーん、七海殿の言う通りでありますよ。こんな媒体がないと私は焔を扱えないので、それこそ武闘家の小鈴殿とは一瞬が命取りでありますよ」


「残念にゃ…六花で我慢するにゃ」


「なら私は弾使用可能でよろしく」


「降参にゃ」



 女性陣はそんな感じで汗を流し、次はいよいよ儀式に向けて風呂へと向かうのであった。

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