『17』
その後の手続きについてだ。社奉行所に戻り、どの部隊、隊員が負傷したこと、そして現状の説明。それを依頼主兼実施者である九十九が代表して管理者である大谷に話す。
「それがことの顛末ってことですか。なるほど…100年も西紀城と美鶴城は国交を絶っていたわけですから、致し方ありませんな。こうして最果城が構えるまでは碌に森に入ろうなどとは思いもしません」
「それでもゆくゆくは陸路として切り拓くなりすれば西紀城にいく手段も増えるでしょうし、行商がもっと発展するかと」
「…それがそうはいかないかもしれませんね。現状で西紀城から来る方もいらっしゃいます。今回の討伐隊に入ってもらった兄弟の2人もそうですが、それは怪異狩りとして海を経由して来られたもよう。行商の類は今のところ来ることはありません。そもそもこの城のことを知っているかも怪しいですね」
現在、ベテラン兄弟のように西紀城で怪異狩りとしての名を上げて、山脈などで戦い、たまたま最果城に留まることになったという経緯を除けば本当に数が少ない。
「それに…ここは結構重要な拠点です。美鶴城まで程近く、そして安全な平原に建っている。陸路、海路があるため素材や交易にも打ってつけです。これは悪い予感かもしれませんが、近々西紀城も何かしら仕掛けてくるかもしれません」
「たしか…武神・轟天一。俺も来た時に周りの状況確認で話を聞いたこともあるが、ここ最近は特に武力に力を入れているとか」
交易で懇意にしている美鶴城のことは話にも上がりやすく、九十九も色々な野菜などを輸入している。しかし、西紀城に関してはほとんど無知である。その実態は明らかになっておらず、武力による統治を進めているくらいしか分かってはいない。国力が整っていない今、最果城に攻められでもしたらそれこそ一貫の終わりかもしれない。
武神と呼ばれる轟天一は若くからその武力の才を見せつけ、成り上がりで城主にまで上り詰めた男だ。一騎当千、その肉体から放たれる槍の攻撃は何人も近寄らせず、至高の一撃として軍団すら壊滅に追いやるとか…。それはベテラン兄弟が帰りすがら話していたことだが。
「何にせよ注意は必要だな。『薄氷』が落ち着いたらこちらに偵察隊とか送ってくるかもだし…。とにかく目先のことを考えるなら色んな人材を雇って防衛力や糧食の運営に従事した方がいいだろうな」
「そうですね…また募集がありましたらこちらにも貼り出しますので。それと…もう一つ言いづらいことですが、今回の遠征で預けてもらった100万の大金の行き先についてです。先日も申した通り、1人辺り5万円の4組で80万。そして話を聞く限りで異変等の鎮圧は九十九様が行われたので報奨金として用意していた20万円は返金いたします。しかし、死者が出た分は返金になりますので、今回だと計12名分の60万円は返金いたします」
今回は前金や準備金としてお金を出してはいないため、必然的に殉死者についてはお金を与えることはできない。しかし、それについて九十九は提案をする。
「今回の殉死者についてだが…そのまま出そうと思う。家族や親しい仲の人だっているだろう。俺は今回の討伐で自身が拠点にいたり、実際に出撃したが、その範囲内で死なせてしまった責任もある。だから…その償いってほどでもないが供養として支払いたい」
「…珍しいお方ですね、本当に。…こちらでも調べてお渡ししますが、都合がつかなければ返金します。それが社奉行所としてあるべき姿ですから。ですが、これだけは申させてください。彼らは彼らのために出向き、そして死んだ。それは紛れもない事実で、怪異狩りとして生きた彼らも承知していたこと。それだけは努々分かっていただきたい」
その真っ直ぐな眼差しはこの世界においての真実を説いているようで、どのような設定が付与されているのかは分からないが、本当に年長者としてこちらを気遣いながらもあえて強い言葉で訴えかけている。
「それは…分かっているつもりだ。ただ、城主としては甘いかもしれませんが」
「ええ、それで大丈夫ですよ。さて…概ねの話は終わりましたし、今回の討伐隊で得た素材などは鑑定後に換金して各自にお渡ししておきます。もしまた、ご不明な点がありましたらお越しください」
「了解です。では、また依頼することもあるかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「依頼だけでなく、次は色々な物を持ってきてくださいね」
「はは…機会があれば…かな?」
大谷と今回の件で話し合い、遺族等がいればそのまま依頼時の報酬を渡すことで合致し九十九は退席する。社奉行所の広間には七海と六花、氷華だけがいた。
「ただいま。あれ?田門丸と小鈴は?」
「終わったみたいだね。田門丸さんは給仕として仕込み関係を、小鈴ちゃんは偵察隊と一緒に一旦帰ったよ。…それで話はついたの?」
「とりあえず全部終わりかな〜。って言ってもこれから内政の時間だし、気を抜いてはいられないけれど。これからは城として討伐隊を組んだり、各種人材を増やさないと」
「そうだね。で、六花さんから話があるみたいだよ〜」
今回の件の発端であり功労者でもある六花。そしてその元凶でもある氷華がこちらに近づき九十九に話を持ちかける。
「こんな時じゃねぇと落ち着いて話せないからな。単刀直入にお願いしたい。私を雇うつもりはないか?あと氷華も」
「え、我も?」
突然の申し出ではあったが、こちらからもお願いしたいことに九十九は少しばかり驚いてしまった。
「是非…!こちらこそよろしく」
「我も働くのか…?」
「当然だろ、居候なんだから。働かざる者食うべからず。それが世界の理だぞ」
「まだ右も左も分からないのに〜」
こうして魔獣の森『薄氷』を中心とした異変騒動は幕を下ろす。六花と氷華という新たな仲間を加え、最果城主として苦い結果を残しながらも依頼を完遂した。
そして後日談。あれから六花を中心とした自警団の発足。そして氷華にはその補佐を務めてもらうことになり、配置関係は済む。しかし、六花も表向きやっている花火職人としての仕事は疎かには出来ず、小鈴を中心とした偵察隊も加わることになった。だが、氷華には最も適材適所な仕事があったわけで。
「【氷壁作成】!!これで一通りは終わりかの?…あー疲れたのじゃ〜」
「ありがとうございます氷華さん。これでしばらくは氷室として活用することができます」
そう、保存問題の要でもある温度調整だ。氷を扱える尸解仙として、氷華はこの上なく優秀な人材である。
「夏までは保つじゃろうて、これで我の仕事は終わり!」
「いや、まだです」
「!?」
「六花さんから暇な時は雑務させてくれとのことでしたので、今日は掃除、洗濯、馬達の世話などをやっていただこうかと」
鬼だ。『薄氷』にもいたがこれは違う。人の形をした鬼がいる。それは…六花。これからぶらぶらと町を散策して小遣いを使ってのんべんだらりと過ごそうと思っていたのにこの始末。そう思った瞬間には背を向け、空を飛び城門から脱出を試みた。
「自警団が忙しいのじゃ〜!!ぐぬぬ…本当に六花のアホー!!」
そのまま町へと消えていった氷華を見送り、やれやれという顔で九十九が覗かせていた。
「また賑やかになりそうだな。それにしても六花さんも結構スパルタ…いや、厳しいというのか」
「ええ、全く。彼女も家業があるとはいえ暇な時にはこちらにも顔を出してくださいますし、何より顔が広いのか町でも評判なんですよ。買い出しの時に商人に聞きました。まぁ、掃除や洗濯等は私のお願いですが」
「え…田門丸もスパルタだなぁ」
意外な一面を見ることになった九十九。やっぱり元力士なのか、そこらへんは厳しいのかと考えてしまった。
内政を進め、活気ある城下町を目指す。そしてゆくゆくは深淵城というこの世界のエンドコンテンツ制覇に向けてゆっくりながらも九十九達は奮闘していくのだった。
そして日が経ち隣の美鶴城下町にて…。
「そういえば、何か新しい風を迎え入れたようじゃな…。商人の話からなかなか景気が良いのが伝わってくるわ。まぁ、まだまだ未熟者じゃがな」
「お待たせしました〜。日本酒の雪瑞季と湯がき枝豆です」
「お、これこれ。この世界でも酒とツマミは最高じゃて。…くぅ、中々に度数の効いた良い酒じゃ」
隣の美鶴城下町にて創造主の二神藤吉郎は酒を楽しみ、食を楽しんでいる姿があるとかないとかーーーーーー。




