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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
2章 『薄氷にひしめく』
33/78

『15』


「勝てた…のか?はぁ…疲れた」



 その場に寝そべる九十九。疲労とアドレナリンの増幅により、全てが研ぎ澄まされ、そして切れる。すると血が噴出しているわけではないが、服の中に血溜まりができていたようで、その黒の衣装をより赤黒く染め上げていたのを今更ながら気づく。そうなると後は想像の通りだ。視認、認識すれば痛くなる。そういう風に人間はできている。



「あ…いたたたた…これは結構いってるなぁ」


「大丈夫、九十九?」


「だいじょばない…結構痛いわ」


「そんじゃ…ほれ」


「あぎゃぁぁ!!!」



 以前田門丸にしたことと同じ…つまり高治療水をぶっかけるということを九十九にもしてあげる七海。傍らでケタケタと笑いながら見守る七海と痛みに身体が飛び跳ねる九十九。それを見て小鈴と田門丸は戦々恐々としていた。



「あー、あれはすごく痛かったです。それはもう体組織の全てが全精力を発揮して身体を作り直しているも同然ですから」


「経験者は語る…にゃ」


「うへぇ、私は霊水だけだったから良かったけど、治療水ってあんなに飛び跳ねるんだなぁ」


「はぁ…はぁ…ぶっかけて笑うとか、サイコパスにも程があるぞ!」


「おー治った治った。良かったね〜軽傷で」


「にゃあ…サイコパスって何かにゃ?」


「とにかく罪悪感とか薄くて冷酷な奴…やばい奴だよ!」


「理解したにゃよ。たまに分からない単語を話すからにゃあは首を傾げるだけにゃ〜」


「はぁ…戦いが終わったばっかだってのに、なんて楽観的な連中なんだか」



 それぞれが多種多様な反応を示す。九十九は激怒なのかしばらくしたら笑みが溢れて、七海は笑ってはいたもののその姿に心配な様子が分かる。小鈴は首を傾げて訝しげにしていれば、田門丸はそんな彼らを見て優しく見守るだけだ。


 そして彼女はその様子をチラッと横目に見るとしばらくし、くつくつと笑う。しかし、玉藻前を討伐でき、森の脅威は収まったが、またこれから天狗や土蜘蛛、鬼が姿を現すだろう。


 安全なルートを開拓しようとしたベテラン部隊の探索員はもうすでに死んでいることを小鈴から聞き、逆に盗賊部隊の2人はこの場にて死んでしまったことを報告し合う。



「勝てたが…犠牲はあった。それは忘れてはいけない。この手の届く範囲ならみんなを助けたい。それが欺瞞であったとしても」


「だけど勝てた…と思いたいね。そうじゃなきゃ報われないから…」



 少しだけ憂う2人を他所に奥の方でカタカタと動く物体。六花が気になり近づいてみるとその置物は念波にて言葉を送る。



(赤髪、聞こえるか〜、我の声が聞こえるか〜?)


「!?お、お前あの時の狐耳…。ってか今討伐したんじゃねぇのかよ!?」


(あわわ!!我、操られてた!!何もしないから、何もしないで!!)



 ジャキっと銃を構えるが苔の生えた狐像は小刻みに震えて顔から突っ伏すように倒れる。



(ずべしゃ…。これ、我の誠意、土下座。分かってくれぇ…)


「はぁ…わかったよ、でもみんなには伝えるからな」


(構わぬ…せめて後生大事にして欲しいのじゃ)



 今にも泣きそうな声で縋ってくる狐像。そんな姿に情けをかけたのか、ため息一つで銃を下ろす六花。それを周りも見ていたのか近づいてくる。



「どうしたんだ?」


「あ…いや、なんで言えばいいか難しいんだが…」



 口籠る六花だが、狐の行動に嘘はないと判断してか意を決して告げることにする。



「今から聞くことで決して臨戦体制をとらないように。それだけは守ってくれ」


「?…わかった。みんなもそれでいいかな?」



 一同は頷き、六花の答えを待つ。少しだけ息を吐き、そして伝える。



「この倒れた狐像なんだけどさ…玉藻前が操っていた少女が封印されているんだ」



 少しだけヒューッと風が吹き抜け、しばしの静寂。対応を間違えたのか六花は少しだけ青ざめるが、それは杞憂に終わる。



「あぁ、確か巫女だったもんな。玉藻前を倒したから…ここに戻ってきたってことかな?」


「あ、あぁそういう事だ。現に何か聞こえるか?すまない、ちょっと念話してくれ」


(あー、あー、我、解放された、故に人畜無害)


「解放されて人畜無害って言ってるけど聞こえるか?」


「にゃあには何にも聞こえないにゃよ〜」


「俺も特には」


「私もかな〜」


「私もですね」



 首を横に振って聞こえないことを確認し、狐に対して六花は問いかける。



「で、私たちはどうすればいい?」


(我はさっきのでこの森から霊力の供給が止まってしまい、顕現するにも霊力が足りぬ。何か回復する道具はあったりするかの?この像にかけてくれたらそれでいい)


「あー、霊力足りなくて出てこれないらしい。九十九、霊水あるか?」


「そういうことなら…はい」



 懐から霊水を取り出して六花に渡す。そして、かける直前に念を押して問う。



「復活したら襲わないって約束できるか?もし反故にしたら即座に撃つからな」


(するする!!なんなら顕現した瞬間に土下座…いや、土下寝してもいい!)


「いや、そこまでは言ってないんだが…。そらよ、回復したら出てこいよ」



 霊力を振りかけ、それが狐像に浸透していく。そして気づけば青白い光を放っていて、そこから魂魄は飛び出して狐耳の少女が姿を現した。



「うわ、何これすっごい効く。正直、霊脈から貰わなくても充分すぎるぞ。…我復活!」


「あ、出てきた。それにしても結構饒舌だね」


「我は100年近く一人ぼっちじゃったからの。こうして人間と話すことができて良かったわい」


「人間…と?」



 少しだけ怪訝そうに九十九は見るが、まずいと思い六花がフォローに入る。



「あ、いや、こいつ人身御供!狐の獣人だよ。玉藻前がやられた後に生贄として出されたみたいで…さ」



 意図が伝わったのか狐も必死に取り繕う。



「我、人身御供!いやー外の空気は美味いなぁ〜」


「…まぁいいか。それで、君の名前は?俺は五条九十九。九十九でいいよ」


「我は…?むむむ、魂魄としか呼ばれたことが無かったから名は…。いや、忘れてしもうた、何せ昔のことじゃし」


「じゃあ名前から付けないとね〜狐だから…ゴンちゃん?」


「却下じゃ。間違いで撃たれそうな名前じゃし」



 なんでごんぎつね知ってるんだよとツッコミたくなるが、九十九は我慢する。かくいう自分も名付けというのは経験がないため、考えても中々難しいものだ。



「あー、俺は無理だ。良いのが思いつかないや」


「はいはい!」


「じゃ、小鈴」


「狐だから…天狐がいいにゃよ!」


「却下じゃ。天狐は1000年生きねばならん。あと10倍も生きなきゃならん」


「すみません、私も少し難しですね…」


「じゃあ、後は六花だけだな」


「へ、私?あー…えーと…ちょっと時間くれ」



 成り行きとはいえ、このまま名付け親になってしまうかもしれない。子供すらいない18歳には少しばかり酷だ。


 少しだけ時間をもらって考える。初めて会った時、そして対峙した時の印象を思い出して。



「氷華…」



 ボソリと呟くその名前。それを狐は聞き逃すことはなかった。うんうんと頷き言葉を刻み込んでいる。



「うむ、実に良い響きじゃ。我の扱った術にあやかってもそれがいい」


「それじゃ…氷華。これからどうするんだ?」


「むむむ…実のところ我もどうすれば良いのかわからん!しばらくは赤髪に世話になるぞ」


「赤髪言うなし。私は六花、丹童子六花だ。…って、私が世話するのかよ」


「なんだか名前も相まって姉妹みたいだね〜」


「はぁ…もういいや、どうにでもなれだ。ーーーーーーここにずっといても仕方ない。とりあえず拠点に戻らないか九十九?」


「そうだな。急ぎ戻るとしよう」



 新たに氷華を加えて森からの帰還を目指してこの場から去ろうとするが、氷華は一つだけお願いをする。



「あ、その狐像。それが我の依代なのじゃ。それがないと、またこうして顕現することが出来ぬ」


「依代ってことは、やられても復活できるということか」


「さしずめ…尸解仙ですな。物を依代とした仙人で刀などの腐敗しない物で尸解する仙人のことを指しますね」


「へー、仙人なんだすごいね〜」


「100年ちょっとでなれるものなんだな…まぁ、細かいことは置いといても凄いことじゃないか」


「我すごい!…多分」



 少しばかり、いや心なしか罪悪感が出てきたようだが、設定的には問題がなさそうで六花も安心する。狐像は田門丸が持ち上げて一行は森の外へと向かい行軍を進めることにした。

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