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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
2章 『薄氷にひしめく』
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『14.5』狐視点のお話


「そんな…玉藻前…様」



 正直不思議な気持ちだった。それが彼女の本当の願い。君臨し、破滅させ、支配する。それこそが玉藻前が生前に心に誓ったことだった。


 確かに人間は多少なりとも憎い。しかし、時の流れの中でそれは緩やかに絆されて、実際に顕現してから初めて会った人間に好奇心を持って近づいた。結果は散々で、意識すら支配される結末となったが、それでも滅ぼそうという気はほとんどなく、打たれたら打ち返すという気持ち程度だ。


 そうなったのには訳がある。一つ、玉藻前の真意を知らずに顕現まで社の側にて狐像に憑依していたこと。一つ、成り行きだったとはいえ信仰の対象として崇められていたからだ。


 そういった経緯のもと、狐は人間に対して憎悪の気持ちをここまで昂らせることはなかった。だからこそ、それを知った時に本当に心が苦しくなってしまった。



「またこうして闇の中で1人呟くだけじゃ…もしもこのまま人間を滅ぼす姿を見ていれば気が触れて、我も玉藻前様のような思想を持つやもしれんな」



 空に向かって足蹴をかますが、そのまま一回転してぷかぷかと浮かんでいるだけ。


 そのまま幾分が過ぎて、目の前に人間が2人現れる。一方は侍の格好で、もう1人は忍者…というには顔を隠してはおらず、忍び装束だけに身を包んでいる。



「あぁ…第一号おめでとう…。じゃが、今まで会った人間の中では強そうに見えるの〜。賭け事に関しては我は運がいい。いつも仲間内で勝ち続けておるし、今回も玉藻前に賭けよう。…今は1人じゃが」



 やがてこう着状態を迎え、しばらくは同じような展開に狐は空間内で寝そべり、ただ漫然に観ているだけだった。しかし、一手が忍び装束に刺さる。そうすると齧り付くようにその光景を目に焼き付ける。



「ようやく動いた…!さて、ここからは玉藻前様の時間がやってくる!人間の足掻きもここまでじゃったか…」



 しかし、そこから大逆転が起こるとは露知らず、思わぬ形で盤面がひっくり返る様に驚愕する。



「あれは赤髪!?あの時の女子が生きておったとは…。よもやたった一つの転機がこの者たちに風向きを変えた…!」



 そこからの攻防は途轍もなく早く、どんな因果かこうして巡り合わせ、そして…遂には玉藻前を討伐するに至る。足場を失わせ、炎による継続的に霊力を削り、霊力の膜を剥がしたかと思えば、侍の一太刀で魂は分離、そして霊体である玉藻前に祓いの力を宿した弾丸の一撃で勝敗がついた。



「不完全とは言え、霊力の供給を絶やさず行える玉藻前様の討伐…いや、修祓に至るとは…。まっこと、人間とは下に恐ろしきものじゃの」



 そして身体が地面に伏し、霊体である身体が徐々に分解されていく。狐の眼前の闇は晴れ、光りの中へと姿を消すのであった。



「我は…これから消えるのじゃな…。顕現して100余年、いや…それ以前の信仰があった時から少しばかり長く留まり過ぎたようじゃ。玉藻前様…我もそちらに逝きますゆえ…」



 霊力が霧となり、狐の意識も消えていく。ただ、そこにあったのは自分が焦がれていた温かい思いだけだった。



「んぁ…?どうして消えてないんじゃ?って、我がまた像に憑依されておる!?」



 消えたのは六花の弾丸を受けた玉藻前だけで、【魂魄開放】された狐はその時には玉藻前との魂での繋がりは消えてしまったようだ。そこには呆気なく意識を戻し、心でパチクリと目を見開いた情けない狐の姿があった。



「ーーーーーー!!…わ、我の決意はどうなるのじゃ〜!!!」



 そして場面は九十九達が集まってきたところに移りゆく。

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