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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
2章 『薄氷にひしめく』
24/78

『7』

 時間は過ぎていく。初日の3時間はあっという間に終わりを告げ、重装備部隊以外はようやく戻り、それぞれ報告をする。



「我々は開拓のため森に入りましたが、いささか情報不足で、怪異にも出会うことはありませんでした」


「俺のところは天狗や鬼を見かけたが、討伐まではいかなかったな。それにしても寒かった…」


「私どもは土蜘蛛の痕跡こそは見つけましたが出会うことはなかったです。明日はこれを使い、森の入り口付近で待機しようかと」


「それぞれ報告ありがとう…。元凶になった怪異や重装備の部隊については何かあるか」



 九十九は一通り聞き、今回の目標でもある怪異について聞いてみるが、誰も口を閉ざしたままだった。もしかしたら遭遇してやられてしまった可能性は否定できないからだ。しかし、御船が手を上げて進言する。



「重装備部隊…壊滅した」


「!?…それはどこでだ…?」


「入口から北西の地点…場所は洞穴…と思う。敵対勢力…鬼が集結している」


「その根拠は?」


「恐らく人間だった者の反応…血、盾、鎧を纏った鬼を探知することができた…。帰投寸前に…」


「私どもが探索していた付近です…。全く気付きませんでした」



 犠牲者が出た。鬼を専門に戦う集団であったが、小回りの効かない装備、洞穴、数の差、それらを統合すれば、自ずと見えてくるーーーーーーそれが死だ。



「でも、もしも狐の怪異だとしたら危ねぇんじゃねぇのか?ここからだと結構近いぞ?」



 ベテランの兄の方がそう聞いてくるが、それについては六花が否定する。



「いや…あの強大な霊力の波動を受けたから分かる…。今回は誰も遭遇していないだろうな。その証拠に霊脈は今朝来た時とほとんど変わっていない」


「六花さんはそういう探知ができるの?」


「あぁ、私は銃師としての職業の他に、【巫女】として育った経緯がある。昨晩生き残ったのも巫女の力で結界を張ることができたからだ」



 七海に対して六花はそう答える。確かに森の入り口で会った状態だと凍傷などはなく、著しい霊力の枯渇状態だった。



「だけど警戒は必要だ。今夜は火を絶やさず、まとまって暖を取ろう。…女性陣には悪いが馬車で寝てもらうけどいいかな?」


「私は構わない。男どもに囲まれて育ったから、むしろ歓迎だ。まぁーーーーーー不埒ものは銃弾の餌食にしてやったが」


「私も構わないよ〜。そうだねぇ…覗き魔は真っ二つにしちゃおうかな〜」


「にゃあは鉄拳をお見舞いするにゃ」


「私は…みんなに粛清してもらう」



 恐ろしすぎる女性陣。他のメンバーは少し萎縮しているようだ。かくいう自分もだが…。しばらくすると東の方で黄色の火花が上がる。


 今回、飛鷹に依頼していた信号弾である。黄色は作戦継続、しかし負傷者か殉死者が出た合図。緑は戦線異常なし、そして赤は…壊滅的状況、援軍、作戦の中止を意味する。そして、それら全てを破裂させた時、討伐は終了し今から帰還するという意味を込めた。


 最果城の門番だけではなく、社奉行所にも同じ意味を伝えているため、それを観測してもらい今後の対応を考えてもらう手はずだ。時間は夕刻の日が落ちた時に使用する。


 今は10月から11月にまたがる時期で、いつもより日が早く落ちる。ここからは…森からの冷風に耐えながらジッと朝を待つのみだ。



「では…朝まで待機してくれ。異変があれば知らせるように」



 そういうと各部隊は野営の準備を進め、中央に比較的大きめの焚き火をして、順次警戒に当たる。しばらくして九十九達の部隊に回ってきて、今回は小鈴と田門丸が火の番をするようだ。しかし九十九は、ほとんど動いていないからか眠れない様子。



「すまない。俺も加わってもいいか?眠れなくてな」


「にゃ?眠れないなら身体を温めるにゃよ」


「いや、小鈴。九十九殿は城主なのですからゆっくりしてもらいましょう」


「畏まらなくてもいいさ。…眠れないから少し話をしたくてな」



 少しだけ俯きがちになる九十九に田門丸は察したようで、それ以上は何も言わずに火を囲むように座らせる。



「…人が死んでしまったな」


「そうですね…。しかし、怪異狩りはそのような職種。身の危険は己が判断で守り抜かなければなりません。最悪の事象に対しても同じことです」



 この世界で手の届く範囲ではなかったが、指揮命令下にある人物が亡くなったのは初めてのことだ。ゲームの世界では誰かが死ぬとポップアップして知らせてくれるものだが、ここでは違う。誰にも気づかれず、ひっそりと死ぬ。拠点にて復活することもなく、そこにあるのはただの亡骸。



「にゃあも同じで、兄弟子が事故で死んだことがあるにゃ…。修行に行ったっきりそのまま谷底で死んでいたにゃよ。滑落したのか、怪異におそられたのか…。結局見つかった時には身体は食いちぎられていて、お師さんが言うには顔とかでかろうじて兄弟子だとわかったそうにゃ…」



「俺は…まだ近しい人を亡くしたことはないから、正直他人事だと思っていた。けれど…否が応でも感じるものだ。この世界では人は死ぬ。それもあっけなく…な」



 崖下で、怪異に襲われて、霊力に押し潰されて、そして…この手で。数多の命は生まれ、天寿を全うする者もいるが、多くは外的要因によって覆される。病気、怪我、そして他者の手。ぎゅっと握る手はじんわりと汗が滲んでいる。



「それこそが生きる…ということかと。私たちは若輩者ですが、みな生きている。こうして、火を囲み熱を感じている」


「今があるのは九十九のおかげにゃ。もし、あの浜で出会わなければ、にゃあは正直、田門丸を助けよう…でも…なんて弱々しいことを考えてたに違いないのにゃ」



 木が乾き、ぱちぱちと燃える。たまに木を投げ入れて火を絶やさぬようにする。カランという音だけが夜の平原に響いている。



「俺はわがままだ。それと甘い。この目の届く範囲で誰かが死ぬのは心が痛む、心が叫ぶ」


「そんな城主がいてもいいのではないでしょうか。民を駒としか見ない、私利私欲を肥やす者もいる。そう考えると私はほんの少しだけ運がよかったのかもしれませんね」


「…夜明け、俺も出る。そして、この異変を究明する。そしてそれが終わった後でもーーーーーーこんな俺だが、着いてきてくれないか?」



 真っ直ぐな瞳で2人を見る。勝手知ったる七海とこの2人は違う。言うならばこの世界の住人で、一歩引けばNPC。それでも、頼らざるを得ない。少しだけ間が空き、後ろから気配がする。そしてふんわりと抱きつかれる。



「な、七海…」


「私は何処へでも着いていくよ。この世界でも、そして帰ってからも私は九十九の幼馴染なんだもんね」



 小声で周りには聞こえないように七海は言う。それに対してこくりと頷く九十九。言葉少なくとも心は通っているようだと2人はその光景から感じとる。



「にゃあはここで強くなるって決めたにゃよ。だからいいえなんて答えは絶対にないのにゃ」


「私も同じく。どのみち私には戻る世界はありませんから。ですが、ここからは私の決めた道。同じ道の先に九十九殿、七海殿が歩いている。それに付き従うのが家臣の務めというものです」



 徐々に心は温かくなる。話せてよかった、この瞬間を共有できて本当によかった。しばらくは揺らめく火を見て静かな時間が過ぎていく。どれくらい経ったのかと月の位置を見ると、そろそろ交代の時間が迫っていた。話せた安心感から九十九は欠伸を一つしてゆっくりと立ち上がる。



「そろそろ交代だな。次は盗賊部隊が見張りか…、起こしてくるとしよう」


「いえ、私が…」


「うーん、とりあえず隣の猫娘の介抱をよろしく」



 うつらうつらと船を漕ぐ小鈴。夜目が利くとはいえ、眠たくならないのは別の話だ。田門丸は大きめの布地を小鈴に被せて起こさないように横にさせる。



「七海殿…どうしましょうか?」


「そうだねぇ…さっきあんな啖呵みたいなのを切った手前、難しいけど…田門丸さんは紳士だから問題なし!」


「じゃあ、俺は呼んでくる。その後は交代して休んでくれ」


「了解しました」



 月夜は輝く。それは日本でも見ることがあまりなかった月の光。粛々と降り注ぎ、平原を静かに照らしている。盗賊部隊が集まっているところに顔を出すと、隊長は起きていたみたいですぐに交代の手筈が整えられていた。後を託し、九十九は簡易的な寝所で瞼をゆっくりと閉じたのだった。

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