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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
2章 『薄氷にひしめく』
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『2』



 開始の朝が来る、夜明けを告げる太陽が東から登るころ、九十九達は食事を済ませ馬車に乗る。



「では田中さん、行ってくる。長くて1週間、その頃には兵站も尽きて戻ることになると思う。時折伝令として派出するから、こちらの状況は伝えるから…帰ってきたら出迎えてくれ」


「はっ!殿の帰りを心待ちにしておりますゆえ、どうか怪我などに気をつけてくださいませ」


「よし…七海、ちょっとばかり頼るよ」


「任せて〜。まぁ、騎乗スキル持ってるの私だけだしね」



 道中の御者を騎乗スキルのある七海にやってもらい、一行は森の入り口へと向かっていく。先行して途中からは陸路を宗左衛門が、飛鷹が空から偵察に向かい、小鈴が中継を、御船と九十九で気配察知を使って警戒を強める。



「まずは偵察隊からの報告次第だな…。社奉行所の人たちもそろそろ追従して出てくるはず。御船さん、今は問題なさそうだね」


「…なし」



 ほとんど喋らない御船だが、それは集中して周りを警戒しているからだ。彼女は広範囲の索敵ができ、なおかつ霊力も豊富なため長時間は耐えることができるそうだ。しかし、集中しないと範囲が狭まるらしい。その代償か、全く運動能力にリソースが割かれていないため、こうして安全圏からの索敵しかできない。それでも九十九でも届かない範囲の索敵能力は優秀だ。


 宗左衛門もある程度の戦闘能力と離脱能力があるため、深入りしても戻ってこれる安心感があり、元盗賊由来のものか、危険に対しての押し引きがきっちりとしている。


 飛鷹もこの世界での制空権を持っている点において唯一無二であり、彼自身が怪異狩りを生業としていただけあって、能力値は他の偵察班から秀でているものがある。


 しばらくして飛鷹が空から降りてきて、結果を報告する。



「九十九様、ただいま戻りました」


「状況は…?」



 そう問うと飛鷹は何やら怪訝そうな顔をしてゆっくりと話す。



「…私自身、魔獣の森での探索や討伐は行ったことがあるので、この目で見たことは真実だとは思えませんがーーーーーー今の魔獣の森は天変地異が起きたかのようにあり得ないことになっています。そして、森の入り口付近で宗左衛門が負傷者を察知し、救助に向かおうとしてましたが、今は土蜘蛛の集団に遭遇し、小鈴殿と共に足止めしているようです。では…私も加勢に!」


「待って…!…魔獣の森、南の外れ…敵…5体ほど…1体…とても強い」



 御船が察知した方向から鬼の軍勢が現れる。しかし、それだけではない。鬼に混じり、天狗が並走してこちらに向かってきているのだ。



「それは、いささかおかしいですな…。天狗と鬼は縄張り争いをしていて基本的に軍勢を組むことはないはず…?」


「田門丸に同意だ、社奉行所から聞いていたことと全く違う。これは…魔獣の森に何かあったのか」


「どうする九十九!?このまま走らせる?それともーーーーーー」



 二者択一の選択。左から鬼と天狗の軍勢。正面に負傷者と土蜘蛛。ならば…馬を止めて戦う他ない。もし突っ切っても挟撃される形になるため部が悪い。だからここは七海に任せることにする。



「七海!馬を止めて迎撃準備!飛鷹はここに残ってくれ!俺はーーーーーー負傷者の元に向かう!」


「そうだと思った!御船さん以外は馬車から降りて!ここで向かい撃つよ!」


「了解!!」


「待ってろ…【移動系スキル】全開放!!」



 馬車を飛び出す九十九はやがて風になり平原を爆走する。数秒もしないうちに背中が小さくなっていく。それを見届けて七海達は馬車を止めて迎撃体制をとる。



「みんな、死ぬのは許さないからね!」


「そうならないように…こちらも全力で参ります!」



 七海と鬼達の戦いは幕を開ける。咆哮がこだまするのを九十九は向きを変えずにただ突っ走るだけだった。



 一方で魔獣の森の入り口付近では宗左衛門と小鈴が背を向けあい土蜘蛛に対峙する。その傍らには意識なく亡骸となった2人の男と、赤黒い長い髪の女性が座り込んでいる。片手には銃を持って、2人の死角から飛んでくる土蜘蛛を撃退している。小鈴と宗左衛門は土蜘蛛から放たれる糸を器用に避けながらもヒットアンドアウェイで土蜘蛛の数を減らしていくが、それでもまだ6体ほどは傷もなくこちらの様子を伺っている。



「へへっ…どうします小鈴ちゃんよ」


「ちゃんってつけるにゃ!にゃあは隊長だにゃ!…軽口叩けるなら問題ないにゃよ」


「すまない猫の嬢ちゃん達…。悪いが、私の持ってきた弾数も残り少ない、チクショウが…2人やられてここで死ぬのか…」


「そんなのにゃあが許さないにゃ!!しのごの言わずに一撃必中!弾がなけりゃその銃で殴るにゃよ!!」


「そうだぜ姐さんよ、俺の初任務で死人が出ちゃ、元義賊として申し訳がたたねぇよ。はぁ…俺は戦う技能は持ってないから足止めしかできないけどな!」



 機を図っていた土蜘蛛は左右から鎌のような手を使い飛び掛かってくる。糸では拘束できないと踏んだのか直接的に削りにきた。



「それくらいお見通しにゃよ…くらうにゃ…!【魚図回天】【虎牙斬撃拳】!!」



 鎌を片手で陰陽太極図を模した回転で力をいなしてひらりとかわすと、身体を空中で2回転ほど回し腕を大きく振りかぶり切り裂くように土蜘蛛の胴体目掛けてその手を振り下ろす。ほとばしる深緑の液体を撒き散らして土蜘蛛は一撃両断でその身体を真っ二つに切り裂かれる。一撃では終わってはいけない、すぐに奥にいる土蜘蛛に狙いを定める。


 土蜘蛛は範囲的に糸をばら撒き足を止めようとするが、気配察知のお陰もあり、見えない範囲からの糸もすんでのところで避けることができる。小鈴はぐんっと近づきまずは足払いをして体制を崩させるものの、鎌の薙ぎ払いが近づいてくる。それをしゃがんでかわせば飛び上がる跳躍を活かして顎下からのアッパー決める。顔が潰され身体はひっくり返り、あたふたしているところに小鈴はトドメに踵落としで無防備な腹部を叩き潰す。


 一方の宗左衛門は一撃をかわし、持っている短剣で鎌を捌いてはいたものの、土蜘蛛の吐く糸に左足が固定されてしまう。それを狙っていたかのように土蜘蛛の袈裟斬りの一閃が繰り出される。しかし、後ろに控えていた女性が銃弾を発射して、足を根本から切り離す。


「助かったぜ姐さんよ!これで終いだ!うぉぉぉ!!」



 持っていた短刀を両手を使い頭の上から突き刺し、すぐさま右足で飛ばし距離を取る。すると女性の斜線上にいた蜘蛛は僅かにずれて腹まで一直線になる。



「死ね!【銀弾破魔】!!」



 撃鉄を起こし、火薬は爆発する。その火縄銃のように銃身の長い銃は硝煙を散らして弾丸を発射する。霊力が込められた銃から放たれた弾丸は周りを巻き込む。そして切り裂くように飛翔し、宗左衛門に潰された頭から腹部にかけて一瞬のうちに抜けていく。風穴を開けて液体を散らして土蜘蛛はどしゃりと崩れた。


 その一瞬で宗左衛門は糸を切り、また女性のそばに下がると、小鈴もジリジリと警戒しながら元の背合わせの状態に戻る。



「あぶねぇ…死を覚悟したぜ」


「悪いが弾はもうない、だが…猫の嬢ちゃんの言う通り最後まで粘ってやろうかね」


「いや終わりにゃ…」


「おいおい、さっき説教したのはどこの猫耳だよ!」


「そうじゃないにゃ、にゃあ達の勝利にゃよ」


「意味がわからーーーーーー」



 女性と宗左衛門は目を疑った。突然来た閃光は手前の土蜘蛛を真横に真っ二つにして駆け抜けた。それが切り返されると奥の2匹もほぼ同時に身体がズタズタに裂かれて宙を舞っている。それは刹那の攻撃。弾丸よりも早く、そして深緑の液体が地面につく前に男が1人、目の前に立っていた。



「【雷鳴疾走】…大丈夫かみんな!?」



 黒い装束に身を包み、腰には2つの小刀を差し戻す九十九。この男は…当たれば致命傷の戦闘を3人でギリギリ凌いだのにも関わらず、到着して瞬き一つで沈めてみせた。猫耳の勝利宣言を疑わない姿に女性は理解したようだ。



「なるほど…そう言う切り札があったわけだ…。はぁ、とにかく助かった…」



 霊力が大幅に消耗している様子で、再び地面にへたり込んだ。九十九は持ってきた霊水を渡し、ようやく周りを確認することになる。


 魔獣の森【薄氷】、それは幻想的で綺麗な森だと聞いていた。しかし…これは聞いていたのと全く違っていた。



「氷土…なのか?」



 樹々は凍りつき、凍てついた風が森から吹いてくる。太陽は上がり、森の上は蜃気楼のように霊脈の力が渦巻いていたのだ。



「九十九〜来るとわかっていたけど、にゃあは気が気じゃなかったにゃよ〜」


「やべぇな…うちの殿様は。そこらの城でも1人で落とせそうだ」


「と…殿様!?あんたが最近住み着いた城主様ってわけか」



 女性は霊水を飲み、少しばかり顔色も戻ってきたが、驚きは隠せてないようだった。


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