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鳴神大戦記ー最果て城主の仮想現実ー  作者: 舞茸イノコ
1章 『この世界で生きるということ』
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『9』



「さて、内政の時間だ」



 そう一言呟くと九十九は霊脈玉に手を振れて税収等の見直しを実施する。田中にも言われて少しばかり小鈴や七海、田門丸にそれとなく民衆に税収はどうかという話を聞いてもらい、それを元に試算を組んだ。



「社奉行所は周りに他の城もないから人が集まってくるみたい。それもあって結構潤っているみたいだよ」


「にゃあは露天商とか聞き込みをしてきたにゃ。東にある美鶴城はそこまで遠くないから、行商も頻繁にきてるらしいにゃ」


「一方で食事処は客は来るものの、西にある魔獣の森の影響で、放牧している家畜や自然のものが取りづらくなっているようですね」


「あ、魔獣の森については社奉行所の人も言っていたよ。蝦蟇だったり、スネコスリだったり、普段奥の方にいるような怪異や妖も出てきてるみたい。大きいのだったら土蜘蛛とかも確認されたみたいだね」


「いずれ調査で出向くことにしようかな…。社奉行所と連携できればいいんだけど」



 そういうのはメンバーを集めて調査に乗り出した方が容易く解決するものだ。しかし、よほどの脅威がなければ動くことはないが、いずれにせよ難しい問題には違いない。



「うーん…全体的に潤ってはいるものの、危ういところがあるのか。累進課税でかけても良さそうだな」


「にゃあ、累進課税ってなんなのにゃ?」


「たくさん稼いでいる人からはそれなりに頂いて、少ない人は減らしていく考えだよ。けど、この時勢でできるかなぁってぎもんだけども」


「そこなんだよな…よし、とにかく累進課税はやめよう。定額で財政が貯蓄できる範囲でやってみよう」



 実際、高校生という立場で国の内政に関わったことがないため、やはり経験が乏しい。基盤を作り、統治内を維持することを念頭に進めるのが今の精一杯だ。



「あとは…私たちはどう言った仕事をすればよいのでしょうか?」


「あ…そうだった。手持ち無沙汰も悪いもんな…何か得意なことはあるか?」


「にゃあは武術にゃよ。でも…料理とか雑務はちょっと苦手にゃ…」


「私は力士でしたので、料理全般は問題ないかと。あとは力仕事ですかね」



 力士と言えばちゃんこ。田門丸には人員のさけてない調理員として配属してもらうとして、問題は小鈴だった。門番、雑務員、調理員の他にも頼みたい仕事があるからだ。



「じゃあ田門丸は基本的に調理員として従事してもらって、たまに力仕事を任せると思う。そして、戦いにも戦力になってもらいたい。あの戦いで実力の半分ほどしか見えてないけどな。今まで経験したことをこの城のために役に立てて欲しい。鍛錬は怠らないように」


「わかりました。腕によりをかけて美味しい料理を作り、士気高揚に努めます。…力士として生きることしか考えてなかった私にとって新たな道が開けたのは僥倖です」


「田門丸は決まりだな…そうしたら次に小鈴だけど…」



 少しだけ言葉に詰まる。実を言うと、今この国力では小鈴に適した職はあるのかと言われれば正直難しい。


 武闘家として今を生きている彼女は恐らく戦うことしかできなかったのだろう。それは先ほどの申告で大いにわかる。しっかりと適材適所で、ざっくばらんに決めてしまえば、小鈴に重荷を背負わせることになりかねない。ならばどうするか…。まずは最終目標から逆算して何が必要なのかを考える。


 自分と同じく敵を打ち倒すことしか出来ない者。内政に関して知識の深い者。田畑などの作物作りに適した者。強い武器や頑丈な防具を打つのに信念を持つ者。敵を観察し情報をまとめる者。色々と考えた結果、魔獣の森についてのことを思い出す。



「そうか…魔獣の森に行くにせよ判断材料が足りない。ーーーーーーこれから先は情報が必要だ。どの場所にどんな怪異が現れるのか。隣国は…敵対する城主もいてもおかしくない」



 だからこそ、最も小鈴に適した戦場というのもあるというものだ。頭の中でそれを見つけた。こほんと一呼吸おいて、小鈴に話しかける。



「…この城は生まれたばかりだ。だから、誰が敵なのか、害意をなす者、恩恵を与える者…。俺たちはまだまだこの世界のことを知らない。情報がこの最果城の行く末を決めると言っても過言ではないだろう。ーーーーーー小鈴には偵察の仕事をしてもらう。見て、まとめて、正確に伝えてほしい。今はまだ小鈴だけだけど、これから新しく偵察部隊を組みたいと思っているんだが、引き受けてくれないか?」



 言葉を噛み砕き、そして思案する小鈴。正直、今の自分にできることと言えばこの未熟な拳を振るうことだけだと思っていた。でも、それだけが武闘家の真髄ではない。相手を見て、虚をつき、どこを責めて崩すのか。それを大きな枠組みとして見れば簡単なことだった。この城が身体として考えれば、その相対する怪異や国もまた身体だ。だから相手の情報を見ることで、その弱点を適切に叩くことができるのだと。それを理解した瞬間に可能性の世界は広がり、腹もくくれた。



「わかったにゃ、にゃあに任せるにゃよ!どんとこいにゃ!」



 そこには屈託のない笑顔があった。最適解を見つけれて本当によかった。この2人にはこれから中核を担う力を期待して、早く不自由なく存分に奮えるように努めないと…。すると七海はトントンと肩を叩く。



「九十九、私は〜?」


「七海は…とりあえず修行…かなぁ」


「え〜、なんか幼馴染に塩対応じゃない!?…こうなったら抗議デモだ!私にも職を渡せ〜、ぶーぶー」



 実は七海にはやってもらいたいことがあるのだが、それを伝えるのは今ではないと勘が告げている。だけど、七海ほどの実力者を働かせていないというのは周りも疑問視してしまうかもしれない。…時が来るまでは自分の力を蓄えて欲しいと言うのは本音だが。



「七海は今まで通り、俺の補佐をしてくれたら助かる。でも、たまには小鈴と一緒に偵察に行ってもらいたいし、城下町でのやりとりとか代行をして欲しい。言うならば…そうだな、何でも屋さんかな」


「おーけー。はい、抗議デモ撤収しま〜す」


「随分あっさり引いてくれたな」


「まぁ、今はそれくらいしか出来ないからね。私は賢いのだ。褒めて遣わす」


「ははぁ〜」



 気の知れた仲だ。七海も色々と考えてくれているみたいで安心する。そんな寸劇をしていると小鈴は田門丸にひそひそと話していた。



「正直なところ、七海は姫で良いと思うのはにゃあだけかにゃ〜?」


「それは言わない約束です。まぁ…遅かれ早かれ皆もそう認識するでしょうが」


「おーい聞こえてるぞー。気配察知なめるなよ〜」


「おっとこれは失礼しました。では、これから調理室にでも挨拶してきますので、私はここらで」


「にゃ、にゃあは情報収集してくるにゃ〜」



 そそくさと捌けていく2人。それを見送ると九十九と七海は顔を見合わせて少しばかり照れてしまうのだった。


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