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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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66. ピサリーの願い

「どうだ?」


 そう言って女王は笑みを浮かべた。

 ピサリーはなによりも女王の手にひらで転がされていたことに腹が立っていた。いますぐにでも彼女のその顔面に火の玉をぶつけてやりたかった。


「指輪の盗聴機能はあたしに渡したものだけか?」

「いや、もう大体の指輪にはその機能が送られた。わたしが聞こうとすればその指輪をしている者の声が聞こえてくるようになる。裏ではなにを企んでいるかわからんからな」

「人のプライベートを勝手にのぞく女王がこの国を治めているとわかったら、国民はあんたを……」

「ふふふ、それはない。さっきも話しただろ、わたしの権限でどうとでもなると」


 女王の権限。どこまでが本当か嘘か。もし、すべてのことを彼女が仕組んでいたとしたら……。


 ピサリーはここで女王に戦いを挑んでも意味がないと思った。だから、どうにかしてここから逃げだせる方法を考えた。それには……。


 ピサリーは杖を出して女王に向けた。彼女の行動に女王は顔色を変えた。


「ピサリー」


 ミレイザは小声で彼女を止めようとしたが、その鬼気迫るような表情にそれ以上声をかけることができなかった。


「わたしを倒そうというのか?」


 女王は不敵な笑みを見せると小さなため息をついた。

 ピサリーは構わずに火の玉を放った。女王めがけて勢いよく火の玉は飛んでいく。すると、黒い影が女王の前に現れて火の玉を防いだ。ピサリーはそれを見ても驚きもしなかった。


「ネモーネ、彼女はわたしを倒したいらしい。すこし遊んでやりなさい」

「はい」


 ピサリーはネモーネを見て思い出した。謁見の間で女王のとなりにいた者だ。指輪を持ってきて渡した人物。


「ふん、やっぱりあんたひとりじゃなかったんだな」


 ピサリーが言うと女王はうなずいて答えた。


「当たり前だ。わたしはなにもできない。だから優秀な部下を近くに置いているのだ」


 ネモーネはアメズイスの杖を構えてピサリーの前に立ちはだかる。


「待ってください! 女王陛下」


 ミレイザはこの状況にいたたまれず彼女たちを止めた。


「わたしはなにも悪いことはしてません。お願いです、どうかお見逃しください」


 ゾンビが話している姿を見て女王は顔をしかめる。それから重い口調で言った。


「おまえになんの権限もない。モンスターはモンスターそれ以上も以下もない」

「そんな」


 ミレイザのそんな言い分を聞き、ラルドは彼女とのことを思い返していた。自分をかばってくれたこと、瀕死の状況を助けてくれたこと。それらのことはラルドにとって彼女の本当のやさしさだと感じていた。


 だから、絶対に悪者ではないと思っている。ラルドは目の前に座る女王に震えながら伝えた。


「じょ、女王陛下、ぼくには信じられません。アリッサさんがゾンビだなんて。彼女はやさしい人です」

「信じられないか? ラルド。だったらそいつの仮面を取ってみろ」


 女王が言うとラルドはミレイザの顔を見た。彼女は仮面にふれてラルドを恐る恐る確認する。


「ほら、ふつう自分がゾンビじゃなかったらすぐにでも仮面を取って素顔を見せるだろ。なぜそうしないんだ?」


 ラルドはミレイザの行動に彼女がゾンビであることを確信せざる負えなかった。それでも、助けてくれたこと、やさしくされたことは消えない。そのはざまでラルドはどうすればいいのかわからなかった。


「アリッサさん。どうして」


 ピサリーはネモーネ目掛けて3段階目の火の玉を放った。空気が焼けるように大きな火の玉がネモーネを襲う、だが、彼女は杖を振ると透明な壁を出現させてそれを防いだ。


 今度はネモーネのほうから攻撃を仕掛けた。


 杖から雷撃の魔法が飛び出した。ピサリーはとっさに護身の魔法を使うと刹那で間一髪避けることができた。ネモーネはいつのまにかピサリーの真後ろにいて、彼女の背中を杖で殴りつけた。


 ピサリーは吹き飛ばされて壁にぶち当たる。


「ピサリー!」


 ミレイザはピサリーを助けようと飛び出したそのとき、目の前に剣を持った女剣士が現れた。


「クラレット、そのモンスターを仕留めなさい」

「はい、女王陛下」


 女王はそう命令すると、彼女は剣を構えてミレイザを攻撃してきた。ミレイザはクラレットの剣技をかわしていく、そのすきをついて攻撃を仕掛けようとしたができなかった。さっき女王に言ってしまったことが頭をよぎる、『わたしはなにも悪いことはしてません』という言葉が偽りのないことだとしなければならないからだ。


「どうした? そう避けてばかりではクラレットを倒せんぞ」


 女王は待っているのだ。ミレイザが本気を出して攻撃をしかけるところを。それを確認すれば彼女がゾンビであり凶暴なモンスターだと判断できる。女王はミレイザを盗聴しながら彼女がやさしい心を持っている者だと思ってしまった。その感情をなくすために、クラレットには仕留めろと命じたが、じつはミレイザに攻撃をさせるように言ってあるのだ。


 ラルドはピサリーとミレイザを交互に見ながらどうしようか迷っていた。それに気づいた女王は彼に言った。


「助けに行かないのか? ラルド、ピサリーはやられてしまったが、アリッサはまだ助けられるかもしれないぞ」

「女王陛下! これにはなにかわけがあるんです。お願いです。どうか部下を止めてください」

「それはできない。なぜなら彼女はモンスターだからだ」


 ラルドは女王に剣を向けて構える。だが、その手元は震えていた。


「やめてください、女王陛下」

「ラルド、本気でわたしに剣を向けるのか? わたしが女王だと知っていながら」

「女王陛下、あなたは女王として……」


 そのとき、氷の塊がラルドめがけて飛んできた。ラルドはとっさに剣でそれを防いだが弾き飛ばされて剣も手から離れた落ちた。それは、ネモーネが氷の魔法を放ちラルドに向けたものだった。


 ネモーネは倒れているラルドの目の前に立ち杖を向けた。そのとき後方から冷気を感じてネモーネは振り返った。そこには巨大なつららが彼女めがけて飛んできていた。


 ネモーネは透明な壁で防ごうとしたがその威力と勢いに壁が破壊されて、彼女の体を貫こうとしていた。ネモーネは刹那を使い避けたが腕に傷を負った。


 辺りを確認するとピサリーの姿がなかった。すると今度は火の玉がネモーネを襲う。急に現れたそれは巨大で辺りを燃えつくすかのように火の粉を飛び散らせている。


 ネモーネは刹那を使いかわしたが、その熱によってローブを焦げ付かせた。


「ピサリーは透明の魔法を使っておるぞ」


 女王の言葉にネモーネはピサリーの鼓動を探った。ピサリーはできるだけ息を殺しながら彼女の背中に張り付き攻撃を仕掛けようとした。だが、ネモーネはそれを感じて自分の周りに雷撃を放った。


 ピサリーは避けることができずに雷撃をくらってしまった。吹き飛ばされながら透明な魔法が消える。ピサリーが姿を見せると、ネモーネはさらに追い打ちをかける。


 氷の塊がピサリーに飛んでいきそのまま彼女を押しつぶした。


「ピサリー!」

「ピサリーさん!」


 ミレイザとラルドが声を上げる。そのときミレイザの中に眠る魔物が目を覚ましだした。 


 クラレットの剣をミレイザは手で止めた。それからその剣をつかみながらクラレットに蹴りを入れた。その瞬間、女王、ネモーネ、クラレットの3人はミレイザを仕留める条件を満たす。


 クラレットは剣をつかんでいられずに体を吹き飛ばされたが、上空で体勢を立て直し着地した。


 ミレイザとラルドはその間にピサリーを助けようと駆け出した。


 ネモーネはそれを止めるため氷の魔法を放った。巨大な氷の塊がミレイザを襲う。ミレイザはそれを手刀で破壊しピサリーのもとへ近寄った。


 それから、ミレイザは氷の塊をどかすとそこにはピサリーが横たわっていた。見ると足から血を流して痛みをこらえている。


「ピサリー!」

「アリッサ、あたしたちを連れてここから逃げだせ。早く」

「えっ? うん、わかったわ」


 ミレイザは振り向くとクラレットが槍を彼女に突き刺そうとしていた。ミレイザはそれをつかんで止め、そのまま投げた。


 ネモーネの雷撃が走ると、ミレイザはピサリーとラルドを抱えて駆け出した。


「逃がすな。モンスターを仕留めるのだ!」


 女王の命令でクラレットとネモーネは全力でミレイザを仕留めにいった。ピサリーはミレイザの背中越しから攻撃を仕掛けようとした。それは女王とその部下たちが一列に並んだ時を狙っていた。護身の魔法でピサリーの周りに赤いオーラがまとう。それから3段階目の流星をためはじめる。


 クラレットが槍を投げる。それをラルドが短剣を投げてはじき返す。クラレットは聖なる剣を取り出し、ネモーネは竜巻を放った。


 ミレイザの行く先に地面から天井まで伸びる竜巻が出現する。それはそこから先へ行かせないように壁になっていた。


 ミレイザは一瞬ためらったが足に力を入れてわずかな隙間を抜けようと試みた。ネモーネはさらに閃光を放ち3人の目をくらませた。だが、ミレイザは瞬間的に回復し竜巻の中に足を踏み入れる。ピサリーとラルドはその勢いに吹き飛ばされそうになるが、ミレイザがしっかりとつかんでいるため飛ばされることはなかった。


 クラレットは聖なる剣を振りかざした。剣からは相手の動きを封じる光が放たれた。


 ミレイザたちはその光に動きを封じられた。足を動かそうとしても前に進まない。


 ネモーネは雷撃をミレイザだけに狙いを定めて解き放つ。ミレイザにぶち当たるがその痛みはなかった。吹きすさぶ風の中、ミレイザは抱えているふたりを絶対に離さないことを誓った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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