65. 魔女の正体
そうしてギリスキング城に一行はたどり着いた。
大きな門は空いておりその先に城の入り口が見えていた。城へ向かう地面に石が敷かれている。城はどこも廃れていなくきれいな状態だった。
城壁の門をくぐり抜け奥へと進む。
3人は身構えながら進んでいくが誰もいなかった。がらんとした広場には強い風が吹き、そのよどんだ空気を消していく。上空を漂う黒い雲の流れは速く、いまにも大粒の雨が振ろうとしていた。
そんな通りを抜けて3人は城の中へと入った。
室内は灰色や黒色の石で造られている壁面や床。明かりなどはなく窓から射し込んでくる薄暗い光がその室内を照らしていた。
エントランスには長い階段があった。
「さっそく宝さがしを始めよう」
ラルドはウキウキとしながらあちこちと顔を向けた。ミレイザとピサリーは顔を見合わせた。ここに来た目的が虹色の羽を犯人に渡すため。しかし、誰も出てこない。
「……そうだな」
しびれを切らしたピサリーはついでに宝でも取って帰ろうと考えた。
「じゃあ、どっからさがそうか」
「そうだな、玉座に行ってみるか」
「そうすると、上かな」
「そうかもな」
そう決めてから、目の前にある階段を上っていった。上にたどり着き廊下を歩いて両開きの扉の前で立ち止まった。ミレイザは何気なく振り返ったが、そこにはエントランスが一望できるようになっており、廊下には手すりがついていた。それ以外はなにもなかった。
「たぶん、この先が玉座の間だよ」
そう言ってラルドはその扉を開けた。その瞬間、ミレイザはラルドを手で退かした。退かしたというよりはじいた。
ラルドは吹っ飛びながら地面に倒れた。なにが起きたのかわからずに彼は目をぱちぱちとさせる。
「危なかったな」
ピサリーがラルドに言った。それは、ドアの前の手すりに槍が突き刺さっていたからだ。
「えっ!? 槍が」
「おまえ、アリッサがそうしなかったら死んでたぞ」
「……あ、ありがとうアリッサさん」
ミレイザはうなずくと「ごめん、痛かった?」と謝った。
「大丈夫。おかげで助かったよ」
3人は気を取り直してドアの前にたたずんだ。そのドアは閉まっていて誰かが開くのを待っていた。
「どうする?」
ラルドはこわごわと言う。さっきのことがまだ頭の中にあって震えだしそうな気持を必死で抑えるが、声は震えていた。
このドアの先にガラス店の店主を殺し、骨董屋を破壊した犯人がいるかもしれない。そうピサリーとミレイザは思った。
「あたしが開ける。ラルドは退いてろ」
「う、うん」
ピサリーはドアの取っ手に手をかけようとした。
「ピサリー」
ミレイザは不安そうな顔をしながら彼女に声をかけた。ピサリーは一瞬止まったが杖を出してそのドアを思い切り開けた。また、なにがが飛んでくると思い、3人はわきによけて身構えていたが何秒経ってもなにも起きなかった。
それから、中に入ると3人は暗がりのなか目を凝らしながら前方を確認する。薄暗さの先にあるものがゆっくりと浮かび上がってくる。そこで見たものにそれぞれが驚きを隠せなかった。それは、目の前にある玉座に座っていた人物を見たからである。
「女王陛下?」
ラルドの困惑した声にほかのふたりもその人物がダリティア女王だと確信した。女王は真顔が緩み笑みを見せた。
「どうして、女王陛下がこんなところにおられるのですか?」
ミレイザは彼女に質問した。さっきラルドを槍で刺そうとしたことを思い出し、それが彼女のやったことだとしたら、なぜそうしたのか、その答えがすぐにでもほしかったのだ。
「なぜわたしがここにいるのか不思議か? アリッサそれともミレイザ」
「……えっ!?」
「どうして知っているのかっていう顔をしているな。そうだね、最初に城を訪れたことを覚えているか? あのとき渡した指輪はとある仕掛けがしてある試作品だったのさ……」
女王は人差し指を上に向けてクロバーの指輪を見せた。
「この指輪に新たな機能が加わったんだ。それは、相手の会話を盗み聞きできる機能。それで試しにゾンビ退治したピサリーのことを調べてみようとしたのさ。あのときから気になっていたからな……」
女王はそこで話をいったん止めるとピサリーを眺めた。ピサリーは目の前で偉そうにふんぞり返っている彼女をにらみ返す。
「それでわかったんだよ、彼女がゾンビだってことがな!」
女王はミレイザを指さして言い放った。ラルドはそれを聞いて驚きと疑い挟んだ表情でミレイザを見つめた。
「嘘だ! アリッサさんがゾンビだなんて」
「嘘ではない。その証拠に彼女の仮面の下にはゾンビの顔が隠れているはずだ」
女王は笑みを見せるが目はにらんでいた。ミレイザは不意に仮面に手をふれるとそれを外すのをこらえた。
「うそだよね!」
ラルドは必死に信じたくないと訴えているがその動揺は隠せなかった。ミレイザはラルドに顔は向けるが目を合わせることができなかった。
「ラルド……」
そこで、いままで黙って話を聞いていたピサリーが前に出て言った。
「最初からなにもかも知られていたってことか。こんな指輪で盗聴されてちゃ、秘密もクソもないな」
「ふふふ、盗聴されたくないなら指輪を外せばよい。そこまで人のプライベートをのぞく趣味はない。だが、それはわたしの権限でどうにでもなる」
「一国の女王がそんなことしていいのか? おまえの息子が泣くぞ」
「あの子はまだこの事実を知らないし、教える気はない」
「全部おまえが仕組んだのか?」
「そうだ、ガルラムを知っているだろう。あの男に依頼をしたんだ内々にな。彼はよくやってくれた」
「あいつ、あんたの悪口言ってたぞ」
「依頼をするとき、わたしの仕組んでいることだと気づかれないようにゾンビを倒しなさいと命じたのだ、どんな手を使ってでもと。もちろん高額な報酬付きでな。ゾンビを倒せばさらに上乗せすると約束して。だからまあ、それくらいは大目に見ないとな」
「そんな回りくどいことしないで、部下なんかを使って直接やればよかったのに」
「それができないからそうしたんだ。おまえたちが謁見の間に来たとき、そこでは見破れなかった、まさか透明にしているとはな。一度逃したものに対して、またゾンビ退治の依頼を送ったらわたしへの信頼が下がるだろう。だからだ」
「霧の中で襲ってきたやつらは?」
「ああ、そういえばそんなやつらもいたな。忘れてた。彼らにも働いてもらった。ガルラムのときと同じ条件でな。あっさりとやられてしまったが。それから、ロズバーラとグレイブも同じだ」
ピサリーはミレイザをちらりと見た。彼女は黙ったままじっと立っている。
「腕の立つふたりだったがアリッサにやられてしまった。だから、彼らのどちらかにガラス店を襲撃させるように命じだんだ」
「なんのためにやった?」
「もちろん、アリッサをここへ来させるために」
「来なかったかもしれないだろ、誰も。それかあんたの息子が来ていたかも」
「そうなったらまた別の手を考えるさ。だが、あんなことをされたら来ずにはいられないだろう」
「……まさか、生きているのか?」
「ふふふ、そう、じつはガラス店の店主は死んでない。そうするように命じて偽装し演じさせた。もちろん高額な報酬と引き換えにな」
「マビポットは?」
「彼女はずいぶんと渋っていたな。彼女は凄腕の暗殺者だったんだ。いつでもいいから彼女を殺すようにと命じたが、もともと興味がなかったんだろ。アリッサがゾンビだと知っても関係ないと言っていた。店を破壊するならすれば。と、だから破壊してやった。まあ言われなくてもそうする予定だったからな」
「魔女ウィザティーヌというやつもこの世界には存在しないうわさだったてことか」
「そう、魔女のうわさを世間に流していれば、いつの間にかそいつが存在していると錯覚するようになる。そして、そいつを勝手に悪者だと思い込むようになる。存在しないそいつをな」
ピサリーは懐に入れていた虹色の羽を取り出した。
「この羽もなんの意味もないただの道具だったってことか」
「そう、すべてはアリッサいやミレイザをここへ来させるための道具だ」
ピサリーは虹色の羽をすてた。
「ローゼリスも知っていたのか?」
「彼女にはピサリーがゾンビをかくまっていることを伝えたが、彼女はそれを伝える前からすでに知っていた。ピサリーにとって必要なことならわたしは彼女を信じますと言ってな、本当はローゼリスがピサリーを問い詰めてゾンビのことを吐かせて仕留めてもらう予定だったが、うまくはいかなかった。ピサリーだけは許してほしいと言っていたがな」
「ピサリー」ミレイザは彼女に小さく声をかけたが、ピサリーは杖を強く握りしめてただ女王をにらんでいた。
「さあピサリー、そこにいるゾンビをこちらに渡してもらおうか。そうすれば、いままでかくまっていたことを大目に見よう、それで、もう自由だ」
ピサリーはミレイザをちらりと見た。
「あ、そうそう報酬も渡そう。今度はもっと高額なものだ」
ピサリーはその条件に目がくらみそうになったが、冷静になってよく考えてみた。ミレイザを渡したところで、はたして本当にその約束を女王が守るのだろうか、と。
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