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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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62. 気休めな祈り

 すると突然、狂獣が襲いかかってきた。焚火が消えて、数匹の四つ足の大きな獣が低いうなり声を出しながら、3人にかみついてきた。


 ラルドは剣で対抗し、ミレイザはあたふたとしているが、気を取り直して平手打ちで対抗し、ピサリーは杖を出して刹那でよけてはようすを見た。


「おいラルド、おまえがこいつらを全部倒せ。アリッサは手を出すなよ」


 ピサリーの言葉に「えっ?」とミレイザは声をもらし、ラルドは狂獣たちの行動に目をやった。暗がりのなか目の光を頼りにそこへ剣を向ける。 


 狂獣たちはかくほうへ散らばり1匹はミレイザ、1匹はピサリーに襲いかかる。ラルドはそれに気を取られて目の前にいる狂獣から目を離してしまった。威嚇のような声を上げながらラルドを襲う。ラルドは剣を握り直して、いま襲ってきた狂獣に剣を振るった。


 手ごたえがあり、痛がるような鳴き声がした。その狂獣が怯んだように見え、ラルドはほかのふたりに気をとめた。


 ミレイザは狂獣の攻撃をよけながら、いざというときはラルドを護ろうと動くつもりだった。


 ピサリーは刹那でよけながら、狂獣が届かない高いところへと移動してその場で見物をはじめた。


 そこにいた狂獣は3匹だったが、1匹逃げて残り2匹になっていた。


 狂獣はラルドに襲いかかる。ラルドはその牙をどうにかよけながら剣で対抗していた。そんな彼にミレイザは助けてやりたい気持ちでいっぱいになった。それに気を取られているともう1匹の狂獣がミレイザを襲ってきた。彼女は反射的に平手打ちをくらわした。


 その勢いで狂獣は遠くのほうへ飛んでいき見えなくなった。


「手を出すな!」


 上で見物していたピサリーはミレイザの行動に怒りを表した。ミレイザはピサリーを見上げては不安な表情を見せる。それはラルドがいまにもやられそうな状況にいたからだ。


 狂獣が上になりラルドが地面に背中をつけている状態だった。彼は狂獣に食われそうになるのを剣でその口を押えていた。


「ラルド」


 ミレイザはどうしようもなく彼に呼びかけた。するとラルドは「大丈夫だよ、アリッサさん」と言って返した。それから、そのまま狂獣の腹を蹴り上げて起きあがり剣を構える。狂獣はふたたびラルドに飛びかかった。


 ガァァァ! という鳴き声が聞こえてくると剣は狂獣を貫き串刺しになっていた。狂獣の腹から血が流れ落ちる。


「や、やった」


 ラルドはほっとして声を出した。ピサリーはつまらなそうにその突き刺さっている狂獣をにらみつけた。


 ミレイザはラルドが無事で安堵するが、生き物を殺したという罪悪感や哀れみのようなものを感じた。


 狂獣とはいえ、彼らも彼らなりの生活をしているのではないか。と、そんなことをついついミレイザは考えてしまうのだ。狂獣を手のひらで突き飛ばしたときの感触が、不快さと同時に自分の残虐性を強く印象付けた。


「ラルド、そいつを外にすててこい。できるだけ遠くにだ」

「うん、わかった」


 ピサリーに言われてラルドは剣に突き刺さったままの狂獣を外へすてに行った。


「アリッサ、火をつけろ」

「うん」


 ミレイザは火の玉セットを取り出して薪にふたたび火をつけた。薄暗さからオレンジ色の光が辺りに広がる。


 ピサリーは高いところから刹那を使って降りてくると、ミレイザが手を見ながら物思いにふけっていた。


「どうした? ああ、あたしの言うことを聞かなかったことに落ち込んでいるのか」

「ねぇ、ピサリー」

「なんだ」

「生きとし生けるものがみんな幸せになることって、できないのかな」

「できるわけないだろ。むしろそれでいいんだ、うばいあって生きていくんだよっていうか、ずっとそうだろ」

「わたし、なんか……さっきの狂獣を叩いたとき、かわいそうに思って」

「あ? なんでおまえそんなことを気にするんだ。正当防衛だろ、反撃しなきゃとっくに食われているぞ」

「聞いた? ラルドの剣に刺さったときの鳴き声」

「だからなんだ? どうでもいい。そんなこと気にするなら人間以外を食料だと思えばいい、あたしはおまえに……なんでもない」


 それから「疲れた」とピサリーは言って、寝床へと歩いて行った。わたしがピサリーになにかしたの? ミレイザは彼女になにか嫌なことでもしたのかと思い返したが、迷惑をかけていたことは間違いないと感じた。


「すててきたよー」とそこへラルドが帰ってきた。


「おかえり、ラルド」

「ピサリーさんは?」

「もう寝たわ」

「じゃあ、ぼくも寝ようかな」


「おまえは寝るな、外を見張っとけ。冒険者なんだから当然だろ」とピサリーが眠そうに言った。


「……だってさ、そういうわけだから、ぼくは外を見張っているよ。アリッサさんも眠くなったらいつでも寝てもいいよ」

「うん、ありがとう」


 その晩、ミレイザはラルドにそっと近寄った。寒いだろうと布を持って声をかけたが返事がなかった。ラルドは座ったまま寝ていたのだ。ミレイザは布をラルドにかけて彼女がそこを見張ることにした。



 次の日の朝。


 割れた窓から差し込む光に反応してピサリーは目を開けた。あくびをしながら辺りを見てみると、ラルドは寝ていたがミレイザは起きていた。


 彼女は妖精の銅像の前にたたずんで祈っている。銅像は外の淡い光に照らされてきらきらと光っていた。


「なにをしている」


 ピサリーは眠そうにあくびをしながらたずねた。彼女の声にミレイザは振り向いて答えた。


「祈っていたの」

「そんなことしてもむだだ」

「どうして?」

「祈ったところでなにかが解決しているなら、犯罪なんか起きないだろう」

「それでも、この旅の無事くらいは祈りたいわ」


 そうして、布などを片して出発の準備をした。いまだに眠っているラルドを蹴り起こすと、ピサリーさっさと歩き出した。


「もう行くの?」


 ラルドの声に「ついてこないなら、こなくてもいいぞ」と言ってピサリーは返した。


「待ってよ」


 ラルドはあわてて立ち上がり走り出した。


 灰色の雲が朝焼けの空を隠そうとするが、地平線から出るまぶしいくらいの太陽の光でその雲は若干の紫を帯びた。


「今日中にギリスキング城へ行かないといけないからな。どっかではぐれても置いていくからな」


 ピサリーは指輪で行き先を見ながらラルドに言った。ラルドは彼女たちを守るために冒険者をしていることを肝に銘じた。


「わかったよ」


 ラルドはそう返して彼女たちより前へ出ると、堂々と背筋を伸ばして歩き出した。


 

 広い平原をひたすら歩いて行く。途中、どこかへ向かう旅人たちとすれ違いながら先を進んでいく。


 しばらく歩いて行くと遠くのほうに橋が見えてきた。その橋は黒い石でできた橋だった。


「たぶん、あの橋がギリスキング城へつづいている橋だろう」


 ピサリーがそう言うと「たぶん?」とミレイザは言い返した。


「指輪で見ている地図が橋の手前からどういうわけかぼやけているんだ」

「そう」

「ほかを見渡しても橋らしきものが見当たらない。ラルドはこの先へ行ったことはないのか?」


 ピサリーはほぼ期待していないように気だるそうに彼にたずねた。


「ないよ、だからさぁ、楽しみなんだよ」


 ラルドは振り向きながら笑顔で答える。彼はどんなことでも頼りにされるのがうれいしいのだ。


「とんだ冒険者だな」

「え?」


 一行は黒い橋を渡りはじめた。

 下は断崖絶壁になっており、底は暗くなにも見えなくなっている。


 黒い橋は幅が50メートル、長さが300メートルある石の橋。四角形の石を敷きつめた光沢のあるその橋は、両脇に黒い石を加工して作られた手すりがついており、半分ほど行ったところには鳥獣の像が建てられている。


 四つ足で耳がとがり、しっぽが体ほど大きく、それを丸めて寝ているような格好をしていた。鋭い両目はなにかをしでかそうとするような目つきをしている。


「この像ははなんの生き物なの?」


 ミレイザは誰彼構わずにたずねると、ラルドは答えた。


「この鳥獣はテンキュウという生き物だよ。いたずら好きで、出会えば人を惑わしてくるって聞いたことがある」

「惑わす?」


 そのとき、突風が吹き3人の自由をうばった。かき乱される髪の毛を押さえながらミレイザはなにが起こったのか空を見上げた。


 一陣の風がとおり過ぎる。それからその風は収まった。


「すごい風だったね」


 ラルドは明るく言うと話をつづけた。


「実際には、テンキュウに出会って貢物を出せば、その倍の量のものを返してくれるって話なんだけどね。でも、いまは生息しているのかはわからないけど」


 ピサリーはそれに目もくれず先へと進んでいった。


「そんなもん見てないでさっさと行くぞ」


 それにうながされて、テンキュウを見ていたふたりはあわてて歩き出した。


 一行は橋を渡り終えて次なる大地を踏みしめる。


 辺りには森が広がっていた。天まで届くような高さの木が幾重にも連なっている。だが、その木々には葉が1枚もついていなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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