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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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60. ギリスキング城へ向けて

「ギリス……」


 リーブスはそうつぶやいて眉間にしわを寄せた。


「ま、そういうことさ。だからどうすっかなーて思って」

「ギリスキングは大魔王の部下のひとり。いまはその城には誰もいない」

「大魔王を倒してその配下にいるモンスターどもはすべて消えた。それは、本当に本当のことなのか?」

「そう、だと思うが……なにか疑問でも」

「魔女はなんで生きている?」


 大魔王を倒したあと勇者一行はその戦いの記録を残した。その情報は世間に配られて知らされた。今後、このようなことが起きたときの対策と、その恐怖を忘れないために。


「魔女はローゼリスによって倒されたはずだ。いま世間を騒がせているのは偽物だろう」

「……そうかもしれないな。大魔王がいなくなってから6年経つ。魔女が本物だった場合もっと早く行動を起こしていてもおかしくない」

「なんにしても虹色の羽とやらをギリスキング城まで持っていかないと」


 マビポットは懐から虹色の羽を取り出した。リーブスは不思議そうに驚くと、その輝きに目を細めた。


「それが虹色の羽?」

「そうだ。だが、こいつは渡せない」

「どうして?」

「こいつをやつらに渡せば嫌なことが起きる気がする」

「嫌なこと?」

「わたしの想像だと、大魔王の復活に使われるかもしれない」


 大魔王と聞いてリーブスは真顔になった。それから険しい表情をしながら一点を見つめた。


「大魔王の復活だって」

「うん」

「では、こういうことかな。いま世間を騒がせている偽物の魔女は、アメズイスの杖と虹色の羽を欲しがっている。それはすべて大魔王を復活させるため」


 マビポットはこくりとうなずいた。


「たしかにないとも言い切れない話だね。でも、それでも、その羽は彼らが指定した場所まで持っていかないと」

「それで? 普通に渡すだけ?」


 リーブスは首を振った。


「渡さないさ。けど、それはたぶん通行書みたいなものだと思うんだ」

「通行書?」

「そう、それを持っていれば、少なくともここを襲った犯人に近づける。それと同時に偽物の魔女に近づける」

「うーん、魔女たちを止める自信は?」

「これでも、ぼくはもとゆ……」

「もと、ゆ?」

「元は優秀な冒険者だったんだ。ランク上位のね。いまは女王陛下のもとで働いている」

「まあ、女王様からの命令で来たならなにかそれなりの対策があるんだろう。わかったよ。ストロクだっけ? 虹色の羽はあんたに預けるよ」


 マビポットは虹色の羽をリーブスに渡そうとした。


「おい」


 その声にマビポット、リーブス、ミレイザは振り向いた。そこにいたのはピサリーだった。


「その羽、あたしが預かる」

「ピサリー」


 名前を口に出すと、ミレイザは彼女を見て驚きながらもどこかほっとした感情がわいた。


「ピサリーが?」


 マビポットは意味がわからないといったようにピサリーの顔を見つめた。


「ああ」

「なんで?」

「そいつをやつらのところへ持っていけばいいんだろ? だったらあたしがやる」

「……ピサリー、気持ちはうれしいけど、こちらにいるストロクさんがやってくれるっていうから、大丈夫だよ」

「すとろく? そいつは勇者りー……!」


 リーブスはすばやくピサリーに近づくと、彼女をマビポットの見えない場所へ移動させた。


「なんだよ」

「ピサリーちゃん、そのことはここでは内緒にしてほしいんだ」


 ピサリーは目を見開きながら強い剣幕でリーブスをにらみつけた。それでもめげずに彼女にわかってもらおうと言葉をつづける。


「ぼくがリーブスだと知られたら騒ぎになってしまうだろ? だから頼むよ」

「なんでここにいる?」

「母上の命令で。ほら、こんど城で母上の誕生日パーティーがあるだろう。そのまえにこの件を解決するように言われているんだよ」

「だったらなんの問題もないだろう」

「ぼくはそれが嫌なんだよ。周りの人に持ち上げられてあーだこーだと言われるのが」

「おまえ、それでも勇者か? それに酒臭いな」

「じつは朝まで飲んでて……」

「ふん、勇者が落ちぶれたものだな」

「そうなんだよ、本当のぼくは勇者なんかじゃないんだ。勇者なんかやりたくなかったよ。でも、この国の王子だから、しかたなく大魔王を倒しに行ったんだよ。いまはただの飲んだくれの冒険者だよ」


 ピサリーは少し考えてから話しだした。


「わかった、おまえを勇者リーブスとは言わない。その代わり虹色の羽はあたしが預かる」

「ええっ!? それは、ちょっと」

「できないのか? じゃあおまえが勇者だってことをそこら辺のやつらに言いふらすぞ」

「母上の命令があるから……」

「命令? そんなの嘘をつけばいいさ。あたしがこの問題を解決して、おまえがそれを自分がやったことにすればいい。報酬はもらうがな」

「でも、そのあいだぼくはどうしたら、このままだと城には帰れない」

「だから、犯人をさがしているふりをすればいいだろ」


 リーブスはいったん考えるとなにかを思いついたように言った。


「わかった。ぼくはぼくで魔女に関することを調べるよ」

「ふうん、好きにすれば」

「うん、それがいい」

「じゃあ、交渉成立だな」


 それから、ふたりはマビポットのところへもどった。

 マビポットはなにがあったのかわからないといったようにふたりを交互に見た。

 そんな困惑顔の彼女にリーブスは説明をする。


「さっきピサリーと相談したんだ。ぼくは魔女に関してのことを調べ、彼女は虹色の羽を持って約束の場所へ向かうことになった」

「ピサリーが? どうして? 女王様の命令は?」

「じつは、魔女に関してのことのほうが重要なんだ。そっちも調べてくるように仰せつかっている」

「うーん、さっきあなたが言っていたけど、虹色の羽を持っていたほうが魔女に近づけるんじゃ……」

「ぼくだけだとだめなんだよ。情報の分散てやつだ」

「……はあ」

「なんにしても骨董屋を襲った犯人をさがすのは、彼女になる」


 そう言ってリーブスはとなりにいるピサリーに手を向けた。ピサリーは堂々と胸を張ってほほえんだ。


「そうかぁ、じゃあよろしく頼むよ」


 マビポットはピサリーに虹色の羽を渡した。


「しかし、本当にいいのか? 相手は強敵かもしれない」

「ふふふ、上等だ。それよりギリスキング城の場所は知ってるか?」


 するとリーブスがそれに答えた。


「ギリスキング城はここからずっと南西に行ったところにある。途中、大きな橋を渡るとキワドの森があるがそこを抜ければ丘の上にその城があるはずだ」

「なるほど、わかった」

「ピサリー、気をつけろよ」


 ピサリーはうなずいてギリスキング城へと歩き出した。ミレイザはどうしていいのかわからずあたふたしながら、ピサリーのあとについていこうとした。

 

「あ、アリッサ」


 マビポットはミレイザを呼び止めると、困ったような笑顔であやまった。

 

「仕事ができなくなってごめんな。ここ、ちゃんともとにもどしておくからさ、そのときまたよろしく頼むよ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 ピサリーは出発前に食料や道具などを買うため雑貨屋へと向かった。ミレイザは彼女のあとにただついていった。その向かうなかで、ピサリーはミレイザに話しかけた。


「当分のあいだ学園は休みになった」

「え?」

「ローゼリスが魔女の一件が片付くまでお休みだってさ」

「そう」

「だから、そのあいだあたしは……」


 ピサリーは懐から虹色の羽を取り出した。


「こいつを片付ける」

「骨董屋を襲った犯人をつかまえるの?」

「そうだ、報酬が出るからな。おまえはどうする?」

「え?」


 ミレイザは考えた。


 骨董屋が襲われたのは結局、魔女が欲していたものをうばってしまったから。わたしが依頼を受けなければこんなことにはならなかった。お金が必要なために、後先考えずに依頼を受けてしまった。ただ預けた服を返してもらいたいために。


 そう、ガラス店の店主が殺されたことや骨董屋が壊されたことは全部わたしが原因だわ。


「わたしもピサリーについていくわ」

「おまえも一緒に行くのか?」

「ええ」

「べつに構わないが、報酬はあたしが全部もらうぞ」

「いいわ」

「……おまえって、金に興味ないのか?」

「へっ?」

「なんでもない」


 ふたりは雑貨屋に着き、旅で必要になるだろうと思うものを買うと、ダリティア門前へ向かった。


「刹那は使わないの?」


 ミレイザはピサリーがいつものように面倒くさがって刹那でいっきに飛んでいってくれるものだと思っていた。


「ああ、ギリスキング城へは行ったことないし、それに地図を見ると結構かかるしな、言っておくが、いつもおまえを学園まで運んでやっているのにも、結構疲れるんだ。あたしひとりならそうでもないがな」

「そう、じゃあ歩いて行くの?」

「そうだ、来たくなかったらついてこなくていいぞ。その分あたしは刹那を使って移動できる」

「行くわ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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