59. 更なる事件
「そうは言ってもなぁ、このことに対して下手に首を突っ込むと危険な目にあってしまうかもしれないし、それに、もうこのことには関わらないほうがいいよ。わたしも気をつけるからさ」
「……はあ、そうですか」
「まさか、ここに書いてある報酬に目がくらんだんじゃないだろうね」
「え? いいえ」
「犯人をさがしだして、プンプガラス店まで連れてきたら5万リボンを報酬としてさしあげます。お願いです。どうか主人を殺した犯人を見つけてくださいって書いてあるからさ」
「いえ、そういうわけでは」
ミレイザは話を変えようとして仕事の話をした。
「あの、すみません。また、なにか仕事をさがしてもらえませんか?」
「仕事? いいよ、じゃあここで働かない?」
「えっ? ここですか?」
「そう、いま模様替えしたいと思っててさ。ひとりで店やったりしていると大変で」
「ほかに雇っている人とかはいないんですか?」
「ああ、いないよ。わたしひとりでやっているんだ」
「そうなんですか」
「まあ、やるかやらないかはアリッサが決めればいいからさ。ここが嫌だったらほかをさがしてあげるから」
「はあ」
「で、どう。やる? 接客じゃなく、掃除とかだけどさ」
「はあ、そうですね。考えてみます」
「そう、じゃあ働きたくなったらここに来てよ。いつでもやっているからさ」
「はい」
ミレイザは骨董屋を出てどうするか考えることにした。考えようとしたが、考えるまでもなかった。ミレイザはマビポットにいろいろと世話になったことを思い出した。人さがしや食事に誘われたこと。
彼女の頼みを断るわけにはいかない、と思い。ミレイザは明日また骨董屋へ行こうと決めた。
まだ日が明けたばかりだったため、ミレイザは本屋へ行こうとした。ふと、ガラス店に集まっている人だかりを思い出して、ようすを見てみようと遠くからのぞくことにした。
ガラス店の周りにはあいかわらず人だかりができていた。その中に新聞屋がいて遺族らしき人物に聞き込みをしている。
ミレイザは関わらないようにするため、その場から離れた。
これでいい、これでいいんだ。と自分に言い聞かせて締めつけるような胸騒ぎを抑えながら本屋へと急いだ。
次の日、ミレイザは骨董屋で働くことを決めてそこへと向かった。そこへ向かう途中で、また昨日と同じような紙があちこちと散らかっていた。ミレイザは昨日、新聞屋が新しい情報でも得たのかと思い、何気なく拾って読んでみた。
その瞬間、ミレイザは目を見開いた。
『今日未明、骨董屋が襲撃される』という見出しがあった。
えっ!? どうして? ミレイザは駆け出した。骨董屋に近づくにつれて、人だかりができているのがわかった。だが、骨董屋の建物が破壊され、なくなっていた。
ミレイザは野次馬をかき分けて中に入っていった。
骨董屋には衛兵が数人いて辺りを囲っていた。マビポットの近くには新聞屋がいた。彼はあれこれと質問をしている。
ミレイザは構わずにマビポットに近寄った。マビポットはミレイザに気がつくと、その場を適当に切り上げて声をかけてきた。
「あ、アリッサ、ごめん、今日は休業日になっちまったよ。働きに来たんだろ?」
「ええ、でもいったい、これは……」
「ああ、朝来たらさ、こうなってた」
「どうして、こんなひどいことに」
「たぶん、ガラス店を襲ったやつのしわざだと思う」
「ガラス店て、昨日そこの店主が殺されたって」
「アメズイスの杖をうばったやつが、今度はわたしの持っている虹色の羽を欲しがったんだろ」
「虹色の羽って、なぜそれをここにあるって……あっ!」
「そう、ガラス店の店主にむりやり聞き出したんだろ。それでこの場所を突き止めた」
「では、虹色の羽はもう」
「いいや、それは持っていかれてないよ」
「え?」
「虹色の羽はね、隠しておいたんだ」
マビポットは懐から虹色の羽を取り出してみせた。
「こいつはべつの場所にしまっておいたんだよ。念のためにね」
「でも、それを持っているかぎりマビポットさんが危険に」
「かもしれない。でもね、こいつは渡せないんだ、絶対にね」
「それって……」
なにかに気づきマビポットはすばやく虹色の羽を懐にもどした。
「うわーずいぶんと派手にやられましたね」
近くでがれきと化した骨董屋に目を向けながら若者が言った。そこには青いローブをまといフードを被った男が立っていた。ミレイザは彼を見た瞬間、はっとした。それは勇者リーブスだったからだ。
リーブスはマビポットに近寄り自己紹介をした。
「女王陛下から仰せつかりまして来ました。ストロクと申します」
「女王様から?」
「ええ、モンスターが消えてからいままで、こういったことは起こったことがなかったですから。早急に調べてくるようにと言われまして」
「御覧のとおりだよ。それより、どっかで見た顔だね。あんた」
「え? そうですか? それは他人の空似でしょう。よくある顔です」
「そうかなぁ?」
マビポットは首をかしげながらその人物を思い出そうとしていた。リーブスはフードをめぶかにかぶり話をつづけた。
「それより、これはひどい」
リーブスはがれきからその店のと思われる、大きな銅貨を拾い上げた。
「それはヒメイラの鏡かな。黒く煤汚れているからなんとも言えないけど」
「ふーん、結構高そうなものだね」
「そりゃそうさ、そこらへんじゃ買えないようなものばかりあったからね」
「もったいない」
リーブスはそーっとその鏡をもとあった場所にもどした。それからマビポットにたずねた。
「少し聞きたいことがあるんだけど」
マビポットは多少の疲れを見せながら返答した。
「なに?」
「骨董屋がこうなる前に、なにか変わったことはなかったかな」
「変わったこと?」
「たとえば、いつもとは違った人物がおとずれたとか?」
「違う人物? さあ、骨董屋に来る客は知り合いもいるし、ふらっと立ち寄った人も来たりするよ。違う人物ならいつも来ているよ」
「そう、いつもとは違って、その見知らぬ誰かがあなたにいろいろと聞いたりしてこなかったかな?」
「……そういえば、ずっと帰らずにケースの中の物をずっと見ていた人物がいたな。閉店時間になっても帰らなかった」
「ほう、男だった? それとも女?」
「あれは男だな」
「男……どんな格好だったの?」
「白い鎧に白のローブを着ていたな。なにをさがしているのか聞いたんだけど、無視してさ」
「なるほど、そいつはあやしいね」
「まあ、それ以外はべつに何事もなく終わったけど」
マビポットはそこでため息をついた。リーブスはそんな彼女を見て目を細めた。
「そして朝来たら、こうなってたってわけ」
「ぼくが思うには、その男は、今話題になっている魔女の手下かもしれないね」
「ふうん、証拠は?」
「いや、証拠なんてないよ。ただ、この状況と今話題とされている魔女の存在はなにか関係していると思うんだ」
「そう」
「ガラス店の店主が殺害されたこと、そのあとに起きた骨董屋の破壊も魔女が関係していると思う。そうじゃないと変だ」
「だけど、もうこれっきりかもしれないじゃない」
「……それはちがうな、もし魔女に関係していたら、あなたの命が危なくなる」
「えっ? わたし?」
マビポットはわざととぼけたふりをした。大事なことを悟られないようにこの場を切り抜けようと考えた。
「うん」
「じゃあどうしろっていうのさ」
リーブスは手を差し出した。
「なにか拾ったはずだ、それを見せてほしんだ」
マビポットは感じた。このストロクという男はどこか隙がなく、底知れぬ洞察力を持っている。破壊された骨董屋を見て、魔女とのつながりを言い当てた。それに……。
「わたしが、そのなにかを持っているっていうんなら。それを言い当ててみてよ」
リーブスはふっと笑みをこぼした。
「いいですよ。ただし、当てたらそれを見せてくださいね」
マビポットはうなずいた。リーブスは人差し指を立てて自分の鼻の手前に持っていき、集中するようにマビポットの胸辺りをじっと見つめた。
「紙を持っている。それは、骨董屋を破壊した犯人からのメッセージ」
にらみつけるようにマビポットはリーブスの顔を見つめた。それからふっと笑みをこぼすと懐に手を入れた。
「わかったよ……」
懐から出したものは汚れた紙だった。
「これが落ちていたんだ」
「これは……」
リーブスはその紙を取り上げて読んだ。
『明日までにギリスキング城へ虹色の羽をもってこい。さもないともっとひどいことになる』
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