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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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58. 仕事を終えて

「指から血が出ているわ……カシユリさん、ちょっと来て」

「はーい」


 カシユリは明るく返事をするとそそくさとラズミーのもとへやってきた。彼女は小麦色の肌をしている妖精で桃色の短い髪を手で整えながらにっこりとした。


「なんでしょうか?」

「カシユリさん、アリッサさん指を怪我したから回復魔法をお願い」

「はーい」


 カシユリは杖を出してミレイザの指に回復かけよとしたが止めた。それはミレイザの指から血が出ていなかったからだ。


「あれれ、血が出てないわよ」

「えっ?」


 ラズミーはミレイザの指に目を向けると、その指には血の跡はあるが傷は消えていた。


「あれ? ほんとだ、おかしいわね……まあ、いいわ、じゃあ浄化の魔法でアリッサさんの指と血で汚れた布をきれいにしてあげて」

「はーい」


 ミレイザは指をカシユリに見せた。自分の指に針が刺さっていたのに気づかない。痛みを感じない体にミレイザはため息をついた。


 カシユリがミレイザの指に浄化の魔法をかけた。指についた血が消えていきそれと同時にゾンビの青白い肌が肌色に変わっていった。ミレイザはそれを見て「えっ」と声をもらしそうになったが、指はすぐにもとの色にもどっていた。目をぱちぱちさせてよく見てみたが、変わらずいつもの指のままだった。


 ミレイザは見間違いだと思いなおして仕事に集中することにした。


「これでいいわ。布もきれいになったわよ」


 カシユリは満足そうにそう言ってにっこりした。


「ありがとうカシユリさん。じゃあもどってつづきをおねがい」

「はーい」


「あっありがとうございます」とミレイザはカシユリに言った。彼女は振り返り笑顔でうなずいて答えた。


「それじゃあ、アリッサさんまたつづきを」

「はい」


 自分の指が一瞬ふつうの肌色になったのを気にしながら作業をすすめた。


 こうして時間が過ぎていき今日の仕事は終わった。それからロザネルが来てミレイザにお金を手渡した。


「今日の分よ」


 見ると5リボンのコインだった。


「ありがとうございます」

「また明日もお願いね」

「はい、よろしくお願いします」


 こうして、この日の仕事を終えるとミレイザはなんとなく充実感を覚えた。5リボンのコインを見ながら笑みをこぼす。額は少ないがそれよりももっとよいものを手に入れたような、そんな気持ちがうれしかったのだ。


 宿屋にもどるとピサリーがいた。ベッドに横たわり寝ている。ここの宿代を払っているのはピサリーだった。一日30リボン。彼女に頼っているぶん、なにかをやりたいとミレイザは思っていた。自分でお金を稼ぎ、自分でなにかを買う。


 そんなことを考えたのはゾンビの体になってからだった。


「働けたのか?」


 ピサリーは寝たまま聞いてきた。


「ええ」

「いくら稼いだ?」

「5リボン」


 ピサリーは驚きながら起き上がった。


「あっ!? ご、5リボン?」

「ええ」

「……まあ、そんなもんだろうな。普通に働いたんじゃ稼げない。大抵はもらえる額は5か10くらいだ。特別なものがないかぎりな」

「わたし、お金のために働いたんじゃないわ」

「はあ?」

「わたし、人の役に立ちたかったの」

「金のために働くんじゃないのか? あたしは働くなんてまっぴらだがな。そんなことをするくらいなら、誰かからだまし取ってやる」

「ピサリーそれはよくないわ」

「べつにそれをやろうって言っているわけじゃない。ただ、あたしだったらそうするって言っているだけだ。実行に移す話じゃない」

「でも、そう思ってるんでしょ」

「ああそうだよ。もっと効率よく稼ぎたいからな」

「わたし思ったんだ。お金のためじゃなく人のために行動を起こすことが大切なんだって。この体になってから、それがずっと強くなったの」

「だったら好きにやれば、あたしはあたしの道をすすむだけだから」


 そう言ってピサリーはベッドに潜った。ミレイザが本当に伝えたかったことはお金やなにかで働いていくことではなく、あなたに頼らなくても生きていけることを伝えたかったのだ。だが、言葉を交わすと、なかなか伝えられない。


 いつも誰かと言葉を交わすと、相手は自分の考えとは違うとらえ方をしてしまう。

言葉足らずなのはわかっているが、緊張や間違ってはいけないという思いが先走りうまく会話ができないのだ。それは、幼少のころからずっとつづいている。


 ミレイザはそんな自分にまだまだと言い聞かせて床に就くのだった。



 そうして次の日から、ミレイザは仕事に出かけるようになった。布を縫う仕事をやり、その日に5リボンもらう。それの繰り返し。


 気づけばすでに35リボン稼いでいた。全部で7日働いたのだ。


 夕方、ミレイザは一日の仕事を終えて片づけをしているとき、ラズミーが声をかけてきた。


「アリッサさん」

「はい」

「ずいぶんと上手になったね。これならどこでもやっていけるよ」

「そうですか」

「うん」

「見てごらん」


 ラズミーは仕事部屋の一角を指さした。そこには宝石をちりばめたドレスが飾ってあった。


「あのドレスにアリッサさんが縫った箇所もあるんだよ」

「え? あのドレスにですか?」

「そう、驚いた? あのドレスはお城へ届けるものなんだ。今度女王様の誕生日があって、そのパーティーがあるんだよ」

「へぇ」


 ミレイザはうれしさと達成感でほほえんだ。ロザネルが部屋に入ってきてミレイザに言った。


「ごくろうさま。今日でこの仕事はおしまいよ」

「おしまいですか?」

「そう、アリッサさんのおかげで目標数に達しましたから」

「そうなんですか」

「またなにかで忙しくなりましたら、アリッサさんに仕事を頼むかもしれないわ」

「は、はい! そのときはぜひ、よろしくお願いします」


 それから、今日の働いた分をもらうとミレイザは名残惜しそうに裁縫店の看板を見上げた。


 宿屋にもどると、ピサリーが寝ていた。働いてからというもの、ピサリーと食事をすることはなくなった。彼女は「時間が合わないなら一緒じゃなくてもいい」と言って、ひとりで適当な時間に食事をすることにした。ミレイザもそれを受け入れて、仕事終わりに酒場で水を飲むのだった。



 次の日、マビポットに仕事を紹介してもらったお礼を言うためにミレイザは骨董屋へと向かった。向かう途中、なにかの貼り紙が風に乗って地面をとおり過ぎていった。辺りを見るとそういった紙を持って、その内容を見ている人たちがいた。


 ミレイザもその紙を見てみようとして、壁の隅に落ちているその紙を拾い上げた。


『ガラス細工店の店主殺人事件』


 殺人? ミレイザはその切り抜きを読んでみた。


 今日未明、プンプガラス細工店で襲撃があり何者かに店主が殺された。遺族が見つけたとき、剣が背中から串刺しの状態で刺さっており、すでに死んでいたという。店主は最近、毎晩遅くまでガラス細工の新作を練っていたところだった。それは、ある杖を手に入れてからはじまったと遺族は言う。


 杖!? ミレイザは杖と聞いて『アメズイスの杖』を思い出した。


 ガラス細工店の店主はもしかしたらアメズイスの杖をマビポットさんから受け取った本人かもしれない。ミレイザはそう思い立つと足早に骨董屋へと向かった。


 骨董屋へ向かう途中、遠くのほうで人混みができているところがあった。普段そこは通らない場所だが、よく見ると看板にプンプガラス店と記されていた。


 今朝のできごとで町の人たちは興味津々に事件のあった場所に集まっている。


 ミレイザはそれから目をそらして骨董屋へと向かった。


 骨董屋へ着き勢いよくドアを開け中に入ると、ミレイザはあわてながらマビポットに話しかけた。


「マビポットさん」

「おう、ミレイザ。どうだった? 仕事は」

「あ、ええ、おかげさまで働けました」

「へえ、よかったじゃん」

「そうなんですが……」

「ん? どうした? 仕事で問題でもあった」

「いえ、そういうわけでははないんですが。仕事はもう終わりになりましたので」

「仕事が終わり? ああ、期限付きだったんだね」

「はあ、まあそんな感じです」

「じゃあ、次の仕事は……」

「マビポットさん、そうじゃないんです」

「え」

「今朝の号外の件なんですけど」

「……ああ、あーそうなんだよ。ガラス屋の店主だったんだよ。アメズイスの杖の依頼人はさ。まさか殺されるなんて」


 マビポットは申し訳なさそうな表情で肩の力を落とした。それから手元にあった例の切り抜きをミレイザに見せた。


「もとは大魔王の部下の私物だからね、それを狙っている者は少なくないんだよ。以前あんたがあの杖を取ってくるために戦ったやつらのしわざかもしれないし」

「わたしがその依頼を受けなければ……」


 マビポットは手を振ってそれ以上の言葉をさえぎった。


「あーいいって、そんなことを気にしなくても、あんたは依頼を受けてそれをやりとげた。だからそれはそれ」

「でも、わたしになにかできることはありませんか? わたし……」


 ミレイザは自分が関係していることに対して引きずってしまうのだ。それが解決するまで心の奥底にずっとはりついたままになってしまう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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