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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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56. なにもできない自分への不安

 護身の魔法を使うため杖を振った。するとピサリーのまわりに緩い風がまとい薄くだが赤い色がついた。


「ぐっ!」


 ピサリーは片膝をついた。ほぼほぼ尽きかけている魔法を無理に使っているため体への負担が限度を超えていたのだ。


 ピサリーは膝を引きずるようにして屋根のへりへ行くと杖をミレイザに向けた。そして浄化を放った。勢いよく浄化の魔法が飛んでいく。ミレイザは屋根の上にピサリーがいることに気がつくと、浄化をよけていっきに屋根の上へ駆け上がってきた。


 それからピサリーを見るなり、その首にかみつこうとしてきた。ピサリーはよけることもせずにそのまま受け入れてわざと首をかませた。痛みと息ができずに吐きそうになるのをこらえながら、浄化の魔法を至近距離で放つ。


 すると急激にミレイザの体の色が薄くなっていった。それと同時に首をかんでいる力も弱まっていった。


 70、60……。


 ピサリーは50パーセントの状態で止めようと、ミレイザの皮膚の色を見ながらなんとなく調節していった。そして、いつも見ている彼女の状態までもどし、浄化を止めた。そのときにはもうミレイザは完全に力を入れていなかった。


 ミレイザはがっくりとピサリーに抱き着くように体を預けていた。


「ミレイザ」


 ピサリーの声に反応しない彼女を見ると、ミレイザは気を失っていた。ピサリーはそれを見て深いため息をついた。



 次の日。


 ミレイザは目を覚ますとそこはいつも寝泊まりしている宿屋の中だった。壁に背を預けながら座っており、服は焼け焦げ湿っていた。


 どうして? なんで?


 困惑した表情を浮かべて辺りを見回すとベッドの上ではピサリーが寝ている。わけもわからずミレイザは体の汚れを落とすためミユウあびることにした。


 ミレイザは昨日のことを思い出そうとした。


 昨日はミッドラビッドへ行ってお母さんに会って、骨董屋でマビポットさんにモンスターを人間にする薬をたずねて……そのあと、ピサリーと会って食事をして……。


 なんかイライラしてきて……。


 ミレイザはそれ以上のことは思い出せなかった。記憶が途中で消えていたのだ。手を見てみるとそこには薄く赤いものがついていた。


 気味が悪くなりミレイザはそれをきれいに洗い落とす。それから、鏡を見てみると顔はいつもどおりだがどこか不気味さを放っていた。


 その原因は口もとの赤い汚れだった。ミレイザは思わずつばを飲み込んだ。すると鉄のような味がして顔をしかめた。


 ミユウを終えると着ていた服は指輪にしまい、代わりにマギルナアトリエで買った服を着ることにした。丈が長くミレイザの身長には合っていなかった。両親から買ってもらった服は着たくないため、仕方なくそれを着ることにした。


 ベッドに座り昨日のことを思い出そうとしていると、ピサリーが起きて話しかけてきた。


「起きてたのか」

「ええ」


 それからピサリーは疲れたようにふらふらと洗面台へと向かった。そのとき、首に包帯が巻いてあったのを目にした。ミレイザはそれを見て昨日ピサリーは包帯などしていたかと自分の記憶をさぐったが、思い出せなかった。なにかそれどころではないことで頭がいっぱいだったのを覚えている。


 ピサリーが顔を洗ってもどって来るなりミレイザはたずねた。


「ピサリーどうしたの? その包帯」

「あ? ああこれは魔法の練習中に首を打ったんだよ」

「……そう、わたし昨日、どうやって帰ったの? 食事してそのあと」

「おまえ、急に眠ったんだよ。だから、あたしがおまえを担いでここまで運んだんだ」

「え? そうなんだ。服が焼け焦げていたけど」

「ああそれな、雨に濡れてたから火の玉で乾かそうとしたんだけど、燃え移ってさ。だから」

「え? わたしに火の玉を?」

「火の玉って言っても。杖の先にためるだけだ。放ってない」

「……そう」

「急に眠ったからさ、驚いたよ。おまえミッドラビッドに行って疲れたんじゃないのか?」

「ミッドラビッド……」


 ミレイザは母親と会ったことを思い出した。


 ピサリーは本当のことを言わなかった。言えば彼女を不安にさせ、よけいに面倒なことになると思ったからだ。


 そうして、大した会話も交わさぬまま、ふたりは別れた。


 ピサリーは学園へ、ミレイザは考え事をしたかったためにどこかひとりになれる場所をさがした。


 昨日の雨でところどころ水たまりができていた。そこに映る光がミレイザの目をまぶしくさせる。


 ピサリーはいま、魔女が襲ってきたときのために魔法を覚えるので手いっぱい。だから、わたしの体を治すことを考えてくれるのは魔女がいなくなったあとになる。


 そうなると誰かが魔女を仕留めてくれるまで待っていなけばならない。それはいつになるの?


 ミレイザは広場にある長椅子に腰を下ろした。


 辺りを見ると、婦人たちの立ち話。地面にアクセサリーを並べて売っている商人。遊んでいる子どもたち、鎧を着て町の安全を護っている衛兵。みんななんの悩みもなく自分を演じているように見えた。


 そのとたんにミレイザは自分が急に恥ずかしくなった。『わたしはなにをしているのだろう?』と。このままゾンビの体が治らなかったら、わたしはなにをやって生きていけばいいのだろうと。


 そんな不安が急に襲ってきたのだ。ふいに指輪にふれて残高を確認する。1920リボンが表示されていた。それを見てますます不安になる。


 なにかして働かなきゃ……なにで?


 店や冒険者、どちらもミレイザにとっては苦手なものだった。まず、接客自体が苦手なのだ。人との何気ない会話ができないでいつも困ってしまうからだ。それはいつまでたってもなれることはなかった。自分の家で野菜を売っているときでも、ずっとドキドキして頭が真っ白になってしまう。


 お店は無理だわ。冒険者として働くのは?


 ミレイザはいままで盗賊や魔女の手下と戦ったときのことを思い返した。恐怖はなかった。ただ必死で戦っていた。護るために。でも、相手にけがを負わせてしまうのがつらいと感じていた。


 本当は人と争いたくない。もっとひっそりとしていたい。


 ミレイザはそこまで考えて、どうすればいいか頭を悩ませた。働かなければ生きていけない。なにかでお金を稼がないと……。


「はい、300リボンね」とアクセサリー屋が客に物を売っているのが聞こえてきた。ミレイザは何気なくアクセサリー屋の前に行った。


 地面に敷物を広げて、さまざまなアクセサリーを売っていた。売っていたのは男だった。布の服を細身にまとい、あぐらをかいてじっと下を見ていた。目元を仮面で隠して笑顔を見せずにいる。


 ミレイザが店の前に立っていても、まったく動かなかった。


 アクセサリーにはそれぞれ値札がついていた。100から500ぐらいのものが売られていた。ミレイザが品定めをしていると客がやってきた。若い女性が品物を見ている。


「これ、ください」

「200リボンね」


 店員はそう言ったあと、手を壺に向けた。それに納得した彼女は200リボンコインを取り出してその壺に入れた。それからまた店員は黙ってしまった。


 ミレイザはなぜ彼に興味をひかれるのか、なぜ、客がいないときはじっと下を見ているのか、そんな不思議な感覚が彼女のなかに芽生えはじめた。


「お客さん……」


 彼は一点を見つめながらミレイザに声をかけた。


「はい」


 ミレイザは思わず声を出した。


「あんた、ほかの人とは違う空気を感じるな」

「ちがう空気?」

「あんた、この世の者じゃないだろう」

「えっ?」

「においがしない。気配を感じない。ただ、足音がこっちに向かって来て、目の前で止まったからわかったものだが……おれは目が観えねーんだ」


 ミレイザは仮面の奥にある目をのぞいてみた。そこには傷がありそのまぶたが両目とも閉じていた。


「モンスターにやられてな、こうなっちまった。それから目以外の感覚で相手がわかるようになった、というか、むりやりそうなるようにした。でないと食っていけないんでな」

「それは、大変でしたね」

「で、さっきのつづきだ。あんた、まさかモンスターか? 肌に感じる感覚はそう言っているが」

「いえ、わたしは普通の人です」


 彼はしぶい表情をしてうなった。それから手をうしろへ持っていきそこに置いていある剣をつかんだ。


「本当か? モンスターの気配を感じたことは多々ある。あんた、それに近いにおいをしているんだ。大魔王がいなくなったとはいえ、モンスターがこっそりと生息しているかもしれないからな」

「本当にわたしは人間です。こうして話していますし、襲ってません」

「じゃあ、なんでモンスターと同じ気配なんだ? こんな気配の人間には会ったことない」

「わたしはモンスターではありません」


 男は片手をのばしてきた。ミレイザは攻撃をされると思い後退した。


「そうか、人間っていうなら握手をしようじゃないか。仲直りに」

「ええ」


 ミレイザは手をのばして彼の手を握ろうとした。その手にふれそうになった瞬間、彼女は握るのをためらった。


 わたしの体は心臓が動いていない、だけど血は流れている。冷たい血が……。冷たい。つまり体が冷たいことになる? 氷のように冷たい体を知られてしまったら、どうやっていいわけをすれば。でも、このまま握手をせずにいたらますますモンスターだということに……。


 ミレイザは手を引っ込めた。


「どうした? さあ、握手を」

「す、すみません。ちょっと急用がありますので」


 ミレイザはその場から逃れるようにしながら離れた。それから自分の両手を見た。生気のない青白い手がある。ミレイザは祈るように手を合わせてみた。冷たい手どうしを重ねても温かくなることはなかった。


 手袋が必要だわ。


 ミレイザは手袋を売っている店をさがそうとしたが、またマギルナのときのように口車に乗せられてしまうかもしれないと思った。そのため、指輪を使って買ってみることにした。


 ミレイザはなるべく安い手袋を購入しようと考えた。


 さまざまな手袋が並ぶなか、一番安いものでも2000リボンはする。麻の手袋を購入しようと思ったが、それより安い手袋はなかった。


 店なら安く売っているものだが、指輪で購入する場合は普通の値段の10倍の値がつけられる。


 ミレイザは購入するのをやめた。だが、できるだけ早く手を隠せるものを手に入れようと思った。やはりどこかの店に入って購入しようと考えたが、それよりも、ほかに方法はないかさぐることにした。


 お金があれば買えるのに。なにかして働かないと……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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