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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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54. 母との会話

 次の日。


 ふたりはわかれて行動することになった。ピサリーは学園へミレイザはミッドラビッドへ。


 ミレイザはさっそくミッドラビッドへ出かけることにした。ダリティアの門を出るあたりでふと立ち止まった。ここを出るには冒険者を雇わなければいけない。周りを見ると冒険者を前にして歩いて行く者がちらほらといた。


 ミレイザは残高を確認した。3000リボンの表示がされている。その値段以下で雇える冒険者をリスト表でさがしてみるが、依頼料が高かったり、安くてもだまされたことを思い出してすなおに誰かを選ぶことができない。


 このままひとりで向かえばいいと考えたが、できるだけ普通の人がしているようなことをしなければ、誰かに見られたときに不自然に思われてしまう。盗賊があらわれて戦うことになったときに、この異常な力に気づき、鋭い人は自分をあやしんでしまうのでは。この力を抑えることができないことではないが、もし、それが暴走したら。


 ひとりか冒険者を雇っていくか、どちらにしても、異常な力を誰かに見られてしまったら。


 新聞に載ってしまったのは、その異常な力を見られてしまったから。あのままなにもせずにただ立っていればよかったかもしれない。でも、それはできなかった。ピサリーを助けるために。


 自分がゾンビでその力が人知を超えたものであるのは間違いない。いまさらそれを考えたところでもう遅い。こうして仮面をつけてフードを被っておけばその姿を隠しておける。でも、自分がゾンビという情報が外にもれないように小さなことでもやっておく必要があるとミレイザは考えた。


 普通の人は町から出るとき冒険者を雇う。だからそれに合わせて誰かを雇おうと決めた。わたしを見てもなんの疑いも見せない人物を……。


 そうだ、ラルドを雇おう。


 ラルドを調べてみると依頼料は変わらずに1000リボンだった。時計を見ると8時半を過ぎていた。そのため9:00の予約を入れる。場所はダリティアの門前。


 しばらく経つとラルドがやってきた。鎖かたびらに剣を背負ったいつもの格好をしている。


「アリッサさん、こんどはどこに向かうの?」

「ミッドラビッドに」

「ミッドラビッドね。わかった」


 ミレイザは1000コインを出してラルドに渡そうとしたが、ラルドはそれを断った。


「あ、まだいいよ。正式には目的の場所までアリッサさんを無事に届けてからだから、このまえはさきにもらっちゃったけど、本当はダメなんだよ」

「そう」


 ミレイザはコインを指輪にもどした。


「それじゃあ、ぼくのあとについてきて」

「ええ」


 こうしてふたりはミッドラビッドへ向かった。道中には誰もいなく平原が広がっている。行きかう人はいるが彼らも同様、冒険者がついている。モンスターがいなくなっても平和ではない。いつ誰に襲われるかわからないから、冒険者を雇わざる負えないのだ。


 ミレイザはいつか冒険者を雇わなくてもいいように、平和な世の中になってくれればと思っている。しかし、対象者がいないと平和を感じられなくなってしまうのではと考えてしまうことがある。


 モンスターがいなくなり平和になったはずなのに。まえより怖がらずに道を歩けるようになったのに、なぜそれを感謝できないのだろう。とミレイザは野に咲いている花を見ながらそう思うのだった。


「アリッサさん」

「なに?」

「ミッドラビッドって小さな町だよね。あそこになにしに行くの?」

「えーっと……」


 母のようすを見に行くとは言えなかった。ミレイザは適当にごまかすことにした。


「町のようすを見に」

「町のようす?」

「ええ、前に行ったことがあって、それで、その風景をまた見たいと思って」

「へぇー面白い趣味だね。ぼくも武器屋をめぐったりするんだ。お金がないから買えないけど。そこに並んでいる剣を見たりするのが好きなんだ」

「へぇー」


 ラルドは剣を抜いてその刃を見せてきた。その刃はところどころ刃こぼれをしていた。


「見て、刃がこんなになっているんだ。だから新しい剣がほしくてさ」

「昨日の戦いでついたの?」

「ううん、中古なんだ。でも昨日の戦いでもついたと思う。消耗品だからしょうがないよ」


 そう言って剣を鞘にしまうと前を向いて歩き出した。ミレイザは彼の背中を見ながら思った。こんな子どもが冒険者をしなければならないなんて、しかも昨日のような盗賊に襲われるかもしれないのに……。


 そう思えば思うほど、なにかあったら必ず護って見せると心に誓った。依頼をしておいてこんなことを思うなんて、とミレイザの自分勝手さにため息をついた。


 特になにごともなく、ミレイザたちはミッドラビッドに着いた。ミレイザは帰りもラルドにお願いすることにした。ひとりで道を歩かないため、なるべく目立つ行動をさけるために取った行動だった。ラルドは快く受け入れた。


「ぼくは武器屋を見てくるよ」と言い残してラルドは武器屋に向かった。


 ミレイザは自分の家に行こうとしたが、門の手前で足が止まっていた。以前起きたことが脳裏をよぎり、その先へ踏み出せないでいた。自分をモンスターと呼んでいた町の人たち、ここから先に行けばまた前と同じように罵声をあびせてくるのではないかと、ミレイザはなかなか前へと進めないでいた。


 もし中に入ってモンスターと言われてしまったら……でも、ラルドが自分を見てモンスターって言ってないから、きっと大丈夫。


 ミレイザは門をくぐった。


 懐かしい町の風景を見ながらミレイザは自分の家へと向かった。なるべく目立たないように道のはしを歩く。なにごともなく町の人たちと行き交うと、ミレイザはほっと胸をなでおろした。


 武器屋や防具屋などが建ち並ぶ通りを歩いて、噴水広場をとおりさらに先へと進んだ。花屋、本屋をとおり抜けて角を曲がるとミレイザの家が見えた。


 家は一階建てのレンガ造りの小さな家だった。

 ミレイザはそれを見てそこへ走ろうとしたがやめることにした。


 野菜屋を営んでいる家がもうすぐ目の前に。そこに母親のすがたを遠目から確認することができた。何人かの人だかりができていて店の商品を見ている。ミレイザはゆっくりと近寄りながら店の前に来た。


 母親がお客さんに商品を売っている。しばらくしてそのお客さんたちがいなくなると母親はミレイザに気づいて「いらっしゃいませ」と声をかけた。


 ミレイザは母親の顔を見つめた。その顔は笑顔を向けているがどこかやつれたような、元気がないようなそんな印象を一目見て感じた。


 母親はずっと見ているミレイザに首をかしげた。


「本日はボルリフがお安くなっております。とてもおいしいんですよ」

「あ、あ……」


 ミレイザは下を向いた。そこに並べられている野菜を見てみた。土を取ってきれいになった野菜がところせましとおかれている。


「あの……」

「はい」


 母親はいつも笑顔で対応している。ミレイザは母親をちらりと見てから野菜に指をさした。


「それと、それと、あと、ボルリフもください」

「おひとつずつでよろしいですか?」

「は、はい」

「ありがとうございます。全部で50リボンになります」


 ミレイザは50リボンコインを指輪から取り出した。


「では、これを」

「どうもありがとうございます。いま見繕いますので少々お待ちください」

「はい」


 ミレイザはなにか話しかけようとしたが、言葉がでてこずにただ口を結んだ。


「どうぞお持ちください」

「あ、ありがとうございます。お……」


 つい「お母さん」と言ってしまいそうになるのをこらえた。それから「また来ます」とミレイザは言い直した。


「はい、またいらしてください」


 ミレイザは名残惜しそうに振り返ると歩き出した。なにも言えなかった。こういうときになにも言えなくなる自分が情けないと感じた。母親を心から笑顔にさせる言葉を伝えたかったのだ。


 ミレイザは紙に包まれた野菜を抱きながら噴水広場にある長椅子に座った。


 早く家にもどりたい。早くこの体を治したい。ピサリーはいつわたしの体を治してくれるの? わたしはいつこの体から解放されるの? 待っているだけじゃだめだわ。


 そんな自問自答をしながら町の景色の移ろいゆくさまをただ見送った。


「そうだわ」


 ミレイザは花屋へ行くとそこで適当に見繕ってもらった花束を買った。それから誰にも見つからないように町を出ると、そのまま墓地へと向かった。


 ミレイザは父親の墓の前に着き、さっき買った花をそえた。


 お父さん、お母さんをお守りください……。


 となりにはまだ掘り起こされている自分の墓があった。ミレイザはそれを手で埋めてもとにもどすとその墓を眺めた。自分の名前が刻まれている墓。いつかこの墓がなくなる日が来ますようにと願った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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