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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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52. 預けた服を取り返す作戦

 ミレイザは妖精たちがなにかの魔法を使おうとしているのを目にした。杖を振り、体全体に風をまとっているかのような服のはためきと、しだいに色がついていくのを。


 ピサリーを見てみると風をまとってはいるが色がついていなかった。彼女は何度も何度も杖を振ったが、いっこうに色がつく気配はなかった。ほかのみんなはすでに薄いがそれぞれの色を見せていた。


 それを見たピサリーは寝転がってしまった。


 ローゼリスはすぐさま彼女に気がつくと、杖で起き上がらせた。それから練習をつづけるようにうながす。


 ある程度、生徒たちができるようになってきたところでローゼリスは止めた。


「今日はこのへんで終わりにしましょう。護身の魔法が身についた者から流星を覚えてもらいます。護身ができるようになるまでは流星は覚えられません。いいですね」


 生徒たちはそれぞれ返事をした。ピサリーだけは面白くなさそうにため息をつく。


「それでは解散」


 みなか帰るなか、ピサリーだけは残っていた。なにかを考えながら杖をじっと見つめている。ローゼリスはピサリーに言った。


「ピサリー、ゆっくりでいいのですよ。護身の魔法を覚える時間はあります」

「じかん? 時間なんてないだろ? いつ魔女が襲って来るかわからないのにさ」

「リタメリーが言っていたことですが、魔女退治をしたいと言ったのですか?」

「ああ、言った」

「それはいけません」

「なんで?」

「いまのあなたではすぐにやられてしまうでしょう。ほかの生徒たちもきっと同じでしょうね」

「そんなのわかってるよ」

「ピサリー、魔女と出くわしても戦わずにすぐに逃げるのですよ」


 ピサリーは返事をせずにあさってのほうを向いた。


「もし戦えば、命をなくすことになるかもしれません」


 その言葉がミレイザの耳に届き目を丸くさせた。命をなくすという言葉が彼女の不安をあおる。ピサリーは軽く笑い答えた。


「べつに、本気で戦おうなんて思ってねーし。こんな状態じゃなおさらだ」

「それでいいのですよ。いまは」


 そう言い残して、ローゼリスは刹那を使いどこかへと消えた。


 誰もいなくなった丘にピサリーだけが残された。ミレイザはそれを確認して彼女に近づこうとした。ピサリーは恨めしそうな目つきで天をにらみつけている。その表情に近づくのをためらわせたが、いつものことだと思い近づいた。


 ピサリーは天をにらむのをやめるとミレイザに振り向いた。


「帰るぞ……あ、そうだった。今日はおまえの服を預けている服屋に用があるんだ。案内しろ」

「え、ええ」

「どうした? そんなおどおどして」

「ピサリー、魔女の話だけど」

「ああ聞いてたのか。あたしたち妖精は狙われやすいって」

「ええ」

「上等だよ。それよりダリティアに向かうぞ」


 ダリティアに来ると、ピサリーはミレイザに服屋の場所を案内してもらい、マギルナアトリエの玄関の前で立ち止まった。


「ここか」


 ピサリーは建物のたたずまいを見上げながら言った。レンガ造りだがところどころ朽ち果てたように、壁は劣化したように削られている。窓は曇りガラスなのか汚れているだけなのか、中が見えず淡い明かりがかすかにもれていた。


「ええ、このお店に服を預けたわ」

「さっそく中に入るぞ」


 なんのためらいも見せずピサリーは玄関のドアを勢いよく開けて中に入った。ミレイザもあとにつづく。ピサリーは店内を適当に眺めまわしたあと、店の奥へ足を運んだ。


 カウンターにはマギルナがいた。頬杖をついて眠そうにしている。ピサリーたちに気がつくと「いらっしゃーい」と気だるそうにあいさつした。


「おい、おまえがマギルナか」


 ピサリーはカウンター前まで行き座っている彼女を見下ろした。マギルナは軽い笑みを見せて答えた。


「ええ、マギルナはわたしでございますが。なにかおさがしですか?」


 するとピサリーの後ろにいたミレイザに気がついた。


「あっ、これはアリッサさん。すみませんね、まだ直ってないんですよ」


 ミレイザはなにも答えずにピサリーにまかせた。


「おい、話がある」

「はい」

「ここに預けてある、こいつの服を返してもらいたい」

「えっ?」

「アリッサの服だよ」

「あーと、そうですか、困りましたねー。先ほども言ったようにまだ修繕の途中なんですよ。いま返したら、アリッサさんに悪いでしょ」

「もういいんだよ、そんなこと。さっさと返してもらおうか」

「お客さーん、本当にいいんですか? 中途半端なものを返したら、それなりの料金を支払ってもらうことになりますけど」

「なんだと?」

「はい、まだ完全に直ってないものをお客さまに返してしまうと、うちの店の評判に傷がつきますので」

「いくらだ?」

「いまの修繕途中のものですか?」

「ああ」

「うーん、そうですねー、7万ほどになりますね」

「7万だと!?」

「はい、完全に修繕を終えたものでしたら、そうですねー3万5000でしょうか」


 ミレイザはその値段を聞いて驚きを見せた。前に聞いたときより値段が上がっていたからだ。


「高いな」

「うちの店ではその値段は妥当かと」

「そんなの払えねーから、服を返してもらおうか」

「そう言われましても、うちに服を預けた時点でうちのものですから。いま提示した料金のほうを支払っていただければすぐにでもお返ししますが」

「もういいよ、来ねーよこんなところ。アリッサいくぞ」


 ピサリーは店を出て行った。ミレイザは「すみません」と小声でマギルナに言い一緒に出て行こうとした。


「アリッサさん、お友達は選んだほうがいいですよ」

「え? ああ、すみません」


 ミレイザはあわてるようにしながら店を出た。ピサリーの姿はなかった。どこへ行ったのか辺りを見回すと小声が聞こえてきた。


「おーい、ミレイザ」


 声のしたほうへ振り向くと、そこにはピサリーが物陰から手招きしている姿が見えた。ミレイザは辺りを見ながらこそこそと彼女に近寄った。


「ミレイザ、あたしはいまから魔法で自分を透明にするから、おまえはマギルナの気を引け」

「気を引く?」

「そうだ、おまえがマギルナの気を引いているあいだに、あたしがこっそり店の奥へ行っておまえの服を取ってきてやるよ」

「そんなことしたら、盗みになってしま」

「わない、盗むわけじゃない。取り返すだけだ」

「でも、マギルナさんの気を引くって言われても、わたし……」

「できないのか? それでもやるんだ。服を返してもらいたいんだろ?」

「ええ、うーん刹那を使って取ってはこれなの?」

「残念だが建物の中は入れない。禁止されているし危険だからだ」


 ミレイザはしぶしぶピサリーの意見に乗った。


 段取りを打ち合わせして、ふたたび彼女たちはマギルナアトリエに入ることになった。ふたりは同時に店に入り、ピサリーはできるだけ音を立てないようにし息をひそめた。


 店に入るなり「いらっしゃーい」といういつもの声が聞こえてくると、驚いたように軽い笑みを見せながらマギルナはミレイザに近寄ってきた。


「アリッサさん。どうしました? なにか忘れものでも?」

「あー、その、もうすこし服を見てみたくなって」


 そう言って周囲を見回した。それに気をよくしたマギルナは笑顔になり接客を積極的にはじめる。


「そうですかー、うちの服は特殊でしてーどれも手作りなんですよー、こちらの商品はですねー」


 ピサリーはマギルナがミレイザに気をそらしているあいだに店内の奥へと進んだ。ギギィという床の軋みが聞こえた瞬間、マギルナはそのほうへ振り向こうとした。だが、ミレイザは彼女の肩を叩いて、ほかの服のほうを指さした。


「あっ、あちらの服ですかー、その服もおすすめですよー、そこら辺の石を集めて縫い合わせた……」


 そうしてピサリーはようすを見つつ、店の奥へと入った。カーテンが仕切られてそこを通るときもマギルナに注意をしながらすばやく入った。


 奥の部屋は机がありその上に裁縫道具なども置いてあった。部屋全体に布が散らかっていて、途中まで縫い合わせたような服ばかりがあった。


 ピサリーはミレイザの服をさがすと、それはすぐに見つかった。テーブルの上に無造作にのせてあり、みるところ完全に直っているように見えた。


 ピサリーは透明の魔法を使い服を透明にさせると、その服を抱え部屋を出る。出るときもマギルナに気づかれないようにしてそっとカーテンをくぐり抜ける。


 ミレイザのところまで行き彼女の肩をふれた。ミレイザはそれに気づき後ろを振り向きそうになったがあわててもどし、この場から出ようとこころみた。


「そ、そうですか。でもわたし、やっぱり自分には似合わなそうなので、すみません」


 ミレイザはそう言って店から出ていこうとすると、マギルナはすばやく玄関前に行き彼女を妨げた。


「ちょっとぉ、アリッサさん、それはないでしょう。さっきまであんなに興味津々に服を見ていたのに、急に興味がなくなったみたいに帰るなんて」

「え?」

「アリッサさん、それはだめですよ。人として、そこまで興味をそそいだんだったらなにか買っていかないと、わたしがあれだけ商品の説明をした意味がなくなってしまうでしょ」

「いや、でも……」


 ピサリーはミレイザの断り切れない反応を見ると、眉間にしわを寄せながら握りこぶしをつくった。


「べつに悪いことじゃないんだからさー、商品のひとつでも買っていってもいいんじゃないかなぁ、ほら、さっきのお友達にでもさ」

「あの、お金がないので」

「お安くしますよ」

「でも……」

「さあさあ、どれになさいます」


 マギルナはミレイザの手を引っ張り店の奥へ移動させた。ミレイザはただ黙ってそこにある服を困ったように眺めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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