51. 魔女の強さ
魔女の存在。
生徒たちはみな、その言葉に息をのんだ。さっきまで自分たちが話題にしていたことが、先生の口から出てくるとは思わなかった。生徒のほとんどが驚いているなか、ひとりだけ笑みを見せていた者がいた。ピサリーだ。
「魔女って、最近流行っている人ですよね」とヨチリオが言った。
「わたしたち、さっきまでその話をしていたんです」とミマリがつづけた。
「そうそう、ピサリーが魔女退治したいとか言ってさ」とリタメリーがピサリーに不敵な笑みを見せながら言った。
ローゼリスはピサリーを見て一瞬しぶい表情をしたがすぐに話し出した。
「そうですか、それならその魔女の話をしましょう」
魔女は強い冒険者を集めて国をつくろうとしていること、その冒険者を稼がせるために特殊な魔法を彼らに与えて庶民を襲わせていること、魔女の魔法は妖精が使う魔法とは種類が違うこと、そして、このダリティア王国を乗っ取ろうとしていること。
「ですから、みなさんには『流星』と『護身』を身に着けていただきます」
するとスタープリルが手を上げた。
「スタープリル」
「先生、それは本当のことなのですか? ただのうわさではなのいですか?」
「そうですね。ただのうわさかもしれません。魔女は偽物かもしれません。ですが、そのうわさのうちに手を打っておくのです」
「まだよくわからないのですが、魔女はわたしたちになにかしてくるのでしょうか?」
「おそらくですけど、わたしたち妖精は狙われる可能性が高いでしょう。なぜなら、魔法が使えるからです。まず、相手にとって都合の悪い者たちが先に狙われるでしょうね」
スタープリルはそれ以上の質問をやめた。みなが固唾をのんでいるなか、ピサリーが珍しく意見を言った。
「先生が魔女と戦えばいいじゃん。強いんだし」
「そうですね。わたしが勝てればの話です」
「え?」
「わたしは以前、大魔王を仕留めるため、勇者御一行とともに魔王城へとおもむきました。あらゆるモンスターを仕留めていきながら、ついに大魔王の目の前まで迫ったのです。しかし、その手前には魔女がいたのです」
ローゼリスは自分がここを引き受けると言って、勇者たちを先にいかせた。魔女は誰にもここは通さないと言わんばかりに、強力な魔法を放ってきた。それは物を生み出す力だった。剣、槍、鎌とさまざまなものを生み出し、攻撃をしかけてきたのだ。
「ぶき?」
「武器だけではありません。睡眠や混乱。引力や斥力など、ほかにもまだあるでしょう」
「ふうん、それで」
「わたしは魔女と戦いました」
ローゼリスが先に攻撃をしかけた。杖を振りさまざまな魔法を放っていった。火の玉、氷のつぶて、噴水など。それらはすべて三段階目まで上げたものを使っていった。
魔女はよけようともせず手を前に出し、なにかを放った。するとローゼリスの放った魔法はすべて宙に止まったままになった。それから、その魔法は向きを変えてローゼリスめがけて飛んできた。
ローゼリスは刹那でよけて魔女の後ろへと回り、火の玉を放った。魔女の背中にそれがぶち当たると燃えながら吹き飛んだ。だが、燃えていたものはその手前の空間が燃えているだけだった。
魔女の体を囲うようにオレンジ色が覆っていた。それからゆっくりと振り返り手を前に出すと火は消えて、無数の剣が魔女の周りを囲った。その刃の向きはすべてローゼリスに向いている。
魔女が念じるとその無数の剣は、いっせいにローゼリスをめがけて飛んでいった。ローゼリスはふたたび刹那を使い魔女の後ろへと回り込んだ。だが、そこには魔女ではなく代わりに魔女に似た身代わり人形が置かれていた。
その身代わり人形は剣を手に持つと振り向きざまになぎ払った。
ローゼリスはその剣を杖で受け止めた。その瞬間、魔女本体がどこにいるのかを確認しようとした。が、身代わり人形の手から衝撃波が放たれてローゼリスは吹き飛ばされた。
壁に背中を打ち一瞬身動きが取れなくなると、身代わり人形はローゼリスに迫り剣で彼女を突き刺そうとした。ローゼリスは護身の魔法を使い、杖でその剣をはじき返し火の玉で身代わり人形を吹き飛ばした。
ふっと魔女があらわれた。宙に浮きながらローゼリスを眺めている。ローゼリスは杖をかまえて魔女のでかたをうかがった。
魔女は両手を広げて巨大な岩を出現させた。そして、そのまま投げる動作をおこなった。岩は勢いよくローゼリスめがけて飛んでいく。ローゼリスは大きな風を起こし、その岩を跳ね返した。
今度はローゼリスが攻撃をしかけた。氷のつぶてを放つと、巨大なつららが何本も魔女をめがけて飛んでいく。魔女はよけようともせずに、巨大な鎌を出現させつららをなぎ払った。そして、すぐに鎌を消して槍を投げた。そのあと魔女は手でなにかを引く動作をした。
すると、ローゼリスはなにかに引き寄せらるように槍に向かっていった。体の自由が利かない。見ると護身の魔法が消えかかっていた。ローゼリスは槍とその奥にいる魔女に流星を放つと、槍はかき消え魔女の体に穴を開けた。
魔女の体が砕け散るなか、ローゼリスは勝を感じ、一瞬の安堵を見せた。その瞬間、槍が彼女の背中から突き出てきた。そしてそのまま、その体を貫いた。
ローゼリスは腹と背中から大量に血を出して倒れそうになった。回復魔法をかけたが半分ほどしか回復しなかった。いつの間にかかけられていた結界によって魔法を封じられていた。その中でも、ローゼリスは多少の魔法は使えたが、深手を負っているためその力は弱くなっていた。
魔女はそれ以降あらわれなかった。
それから、ローゼリスはその結界から抜け出して刹那を使い大魔王のところへと向かった。だが、その手前までしか行けなかった。大魔王の魔力がその一帯を支配していたのだ。その力はローゼリスの力をうばい、歩けないようにさせた。魔女との戦闘がなければそこをくぐれることができたが。いまの彼女にはとてもそこを通れるものではなかった。
その場にへたり込み勇者たちが大魔王を倒してくれるのを祈りながら待つことにした。
「それから大魔王の叫びがとどろき、その魔力が消えると、勇者たちは傷だらけになりながらもどってきました」
生徒たちはその話を聞き、険しい顔をしたりほっとしたりした。ただ、ピサリーは笑みを見せながら質問をする。
「大魔王は倒したけど、魔女は倒せなかったんだ」
「ええ、まさか魔女という言葉を耳にするとは思いませんでした。たとえうわさでも、本物かもしれないというほうで行動しほうがいいでしょう」
「それで、あたしたちに流星と護身の魔法を教えようってわけだ」
「わたしからの、せめてもの贈り物です」
「先生のしりぬぐいをしないといけな……」
「ピサリー!」とスタープリルはそれ以上彼女が言わないように話を制した。
「先生は、わたくしたちに魔女と対峙したときのために強力な魔法を教えてくださるのよ。わたくしたちが戦えるように。魔女を完全に仕留められなかったことは仕方のないことですわ」
「じゃあ、教えるっていう面倒なことをしないで、直接授ければいいじゃん」
ピサリーはローゼリスを見た。彼女はなにを言われても堂々としていてどんな意見も聞こうとしていた。
「先生さ、前にあたしに透明と回復を授けたように、その流星と護身も授けてよ。早いほうがいいでしょ?」
それを聞いた生徒たちの一部から不服な声が上がる。
「それはできません、この魔法は授けてどうにかなるものではないからです。少しずつ身に着けるものなのです」
「少しずつ?」
「ただの魔法ではないからです。どこまでも強力になり、それは自分自身の体を滅ぼしてしまうこともあるでしょう」
生徒たちはその魔法の力を聞いてそわそわとし出した。ローゼリスは生徒たちを落ち着かせるため話を先へ進めた。
「今日中に覚えなさいとはいいません、少しずつというのが重要なのです。よって今日は護身魔法のほうを覚えてもらいます」
こうして、生徒たちは護身を身につけるべく、その練習がはじまった。
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