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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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50. レベル外の魔法

「ピサリー、本当なの? 魔女を退治するって……」


 声のするほうへ目を向けると、そこにはミマリ、リリーメル、ロジリッチが立っていた。ピサリーはほぼほぼ話しかけてこない彼女たちを見上げながら、気に入らなそうな顔をする。


「聞いてる?」


 ミマリは言った。黄色の制服の彼女は茶色のツインテールを風に揺らせながら腕を組んだ。自分に興味のあることはとことん調べたくなる性格で、今日も獲物のにおいをかぎつけてはそれに絡んでいく。それはメモ帳を持ちながらぐいぐいと突っ込んでいく。


 ピサリーは彼女をキリッとにらんだあと興味なさげにまた寝ころんだ。だが、ミマリはめげずに話をつづけた。


「そういえば、スタープリルが聞いていたけど、魔女の居場所ってどこだかわかるの? 魔女って超強力な魔法を使うって聞いたことあるけど……あれ? そうだったかな」


 ピサリーはその言葉に反応して、寝返りを打ち彼女たちに背中を見せながら目を開けた。


「魔女に勝つ自信は? なにか策でも?」

「ミマリ、ほっときましょう」


 ミマリの他人の懐に入り込んでいくのを妨げようとして、リリーメルは彼女の背中に手をそえる。それでも知りたいという衝動にかられピサリーに近づこうとする。が、背中にある手を感じて一歩後ろに下がった。


 リリーメルはほっと息をつく。それと同時に緑の制服が風に揺れた。乱れた紫色のミディアムヘアーを手で直しながら興味をなくしますようにと念を送る。


 ミマリが暴走しないように、いつでもそばにいて止める役目を彼女はしている。


「そ、そうね……ピサリー、なにかニュースになることがあったらわたしに言ってよね」


 そう言い残して、ミマリとリリーメルが離れようとしたとき、緑の制服を着たロジリッチはまだピサリーを見下ろしていた。ぼーっとなにかをピサリーの奥底に眠るものをただじっと見つめている。


「ロジリッチ行くよ」


 ミマリの言葉になんの反応も示さないまま、黙って下を向いていた。

 ロジリッチは無口な性格だが、ときおり他人の中に眠るものを見ることがある。それは、なにか強い感情がその人を囲っているときに見えてしまうのだ。


 海老茶色のウェーブヘアに隠れた目がなにかをとらえている。


「もうすぐ、あなたに降りかかる」


 ロジリッチがそう言うとピサリーはなにかが引っかかり「あ?」と声をもらした。寝転がりながらロジリッチを見ると、澄んだ目がピサリーの目に飛び込んできた。


「それを早く手放したほうがいい。でないと……」

「でないとなんだ?」


 じーっと彼女は見ていたが、ミマリが来て彼女をさらっていった。さりぎわにミマリが言った。


「ロジリッチはいつもこうなんだ。だから、なにも気にしないで」


 ロジリッチはじっと後ろを振り向きながらピサリーを見つづける。ピサリーは上体を起こして離れていく彼女の目をじっとにらみ返した。


「なんのことだか」


 ピサリーはポツリとつぶやき、この状況をつくった張本人に目をやった。ヨチリオはアヤリと楽しそうに話をしている。どうせ昨日のことだろと思いながら杖を出して彼女に向けた。


 それに気がついたルダリスがぱっとピサリーの目の前にあわれた。杖を体で受け止めるような格好で、どうどうと立ちはだかった。


「ピサリー、学園内では魔法は禁止ですよ」


 黄色の制服を着た亜麻色のショートヘアを風になびかせ、ピサリーを見下ろしている。ピサリーは杖を防がれたことに苛立ちを見せると、ルダリスをにらみつけた。


「スタープリルが杖を出しても止めなかったのに、あたしが出せば止めるんだ」

「ええ、そうですよ。彼女は魔法を放たないけど、あなたは放ちそうだから」

「ふん、どうだか。そんなことより、今日はずいぶんと客人が多いな」

「客人?」

「あたしになにかと突っかかってくる連中だ」

「魔女のことを聞いて、あなたに興味を持ったんでしょう。それより杖を消しなさい」

「偉そうに」


 ピサリーはしぶしぶと杖を消した。それを確認したルダリスはピサリーから離れていった。


「なあ、魔女を倒すってうわさが立っただけで、なんでここの連中はあたしに言い寄ってくるだ?」


 ルダリスは振り返り言った。


「それは、誰も魔女を相手にしようとはしないから、それをするのは自殺行為に近い。だから、あなたがもし魔女と戦い、そしてやられたとしたら、妖精界全体が魔女に狙われるかもしれないって話。でも、誰も戦うのをやめなさいなんてあなたに言わないでしょう。なぜだかわかる? 言ったところでどうせ聞かないだろうと思っているからよ。まあ、あなたのことだから、なにを言われても関係ないんでしょうけれど」


 魔女と戦う? そいつの居場所がわからないんじゃ、手の出しようがない。


 ピサリーはそう思う反面、以前、魔物の魂に襲われたことや盗賊たちにだまされそうになったことが、だんだんと薄れていくのを感じていた。あのときの怒りみたいなものが消えてしまいそうになっていた。もうどうでもいいと感じながらも、その原因をつくったそいつを許さないと、こころの片隅ではその火だけは消さないようにしている。


 彼女の本当の願いは、ここにいる優等生のやつらを見返したいだけ。


 いま流行っている魔女を仕留めれば誰も文句を言わなくなるだろう。と、そんな考えがあり、ピサリーは魔女に関しての情報を欲しがるのだ。


 ローゼリスがあらわれて授業が開始された。


「それでは授業をはじめます」


 そう言って杖を振り映像を出す。そこに映っているのは、以前ローゼリスが合図のため放った流星の魔法だった。


「みなさんは、魔法がどういう原理でできているかご存じですか?」

「はい」

「スタープリル」

「大気の中にあるチリを使っています。それから、陽の光や空気の中にある水滴なども使います。それらに杖を使って刺激を与え魔法に変えます」

「ええ、そうね。それらには大抵なにが使われますか?」

「はい」

「ルダリス」

「風です」

「そう、風。風はさまざまな魔法に使われます。これからさきほどの映像にあった魔法をお見せしますので、よく見ていてください」


 ローゼリスは空へ杖を向けると杖の周りが一瞬暗くなりそのあと流星が放たれた。そのまぶしさのため生徒たちは一瞬目をつむった。流星を追うように光の帯が回転しながら勢いよく空のかなたへと飛んでいく。


 遠くで眺めていたミレイザはなにごとかと思いながら、その光輝く柱をただ眺めた。


「いまのが流星です。つまり小さな火の玉をためて、風で超高速に摩擦させそのまま上空に放つ。そのときおかしなほうへ行かないように風でコントロールします。みなさんにはこれから、いまの魔法を覚えていただきます」


 すると、生徒たちはざわついた。それはいままでそんなことはなかったからだ。普通はテスト前に与えられた項目を勉強をして、それからテストに挑み合格して魔法をもらうことができる。しかし、今回はそのテストがない。


「先生」

「なんですか? スタープリル」

「テストではないのですか? 魔法を覚えるときはいつもテストをして、それに合格した者だけが魔法をいただいていますから」

「これはテストではありません」


 それを聞いた生徒たちはざわざわとしだした。テストではないという言葉に寝ていたピサリーは目を覚ました。


「テストではない……どういうことですか?」

「個人テストをするには時間がかかります。それに、この魔法にはレベルは関係ありません」

「個人のレベルは関係ないって言われましても、いましてくださった魔法にはそれなりのレベルが必要では?」

「いままでの個人の総合力を使っておこないますのでレベルは関係ないのです。ですから誰でもこの魔法は使えます」


 すると、生徒たちはうれしそうにざわついた。


「そうですか、わかりました」


 スタープリルはどこか納得いかないように顔をしかめた。


「みなさんにはいまの魔法ともうひとつ……」


 ローゼリスはそこでいったん止めて杖を振ると、彼女の体の周りに薄く白いものが覆った。


「この魔法は防御の魔法であらゆるものを防いでくれます。痛み、暑さ、寒さ、熱、冷、毒など、ほかにもありますが、この魔法はこれだけではありません。見ていてください」


 ローゼリスは杖を空へ向けると火の玉を放った。自分の体を覆い隠すくらいのオレンジ色の玉が空へと勢いよく飛んでいく。


 その反動で周囲を燃やすような熱風が広がり、生徒たちはその熱さを感じた。


「いまのは火の玉の魔法です。どのくらいのものを放ったかわかりますか?」

「3段階目、ですか?」とリタメリーが言う。

「いえ、1段階目です。防御魔法をしている状態で魔法を放つと、その威力は何倍にもなります。そして、この魔法は護身と言います」


 ローゼリスは生徒たちを見まわした。困惑している者。うれしそうにしている者。驚いている者がいた。


「なぜ、いまやった魔法をみなさんに覚えてほしいかというと……魔女の存在です」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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