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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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49. 魔女の目的とその可能性

 高級料理店ツキヨウからの帰り道、ほかの者たちと解散したあとピサリーは無言だった。ミレイザは彼女の背中を見ながら考えた。


 それは魔女の目的についてだった。マビポットから言われたことは大魔王をよみがえらせる計画だという。勇者一向にやられた大魔王の部下たちの持ち物、それと大魔王の私物。彼らの所持していたものを集めるのには意味があると彼女は語る。


 そこにいた彼女以外は、そんなことは絶対に起こらないだろうと思った。ピサリーはくだらないと舌打ちをする。


 ほかの者からは、物を売って金に換えるとか魔女の趣味で集めているとかくらいにしか思っていない。

 

 ピサリーは自分で情報を出した。「国をつくるらしい」彼女の言った言葉はある意味事実に近かった。魔女が冒険者のはみ出し者を集めているのはみな知っていた。理由が国づくりなら、大魔王の復活より真実みがある。


 盗賊ごっこをやっている元冒険者から魔女のこと、国づくりのことを聞き出した。とピサリーは言った。


 アヤリがピサリーにたずねた。「どうやって聞き出したの?」


 ピサリーは答えない。学園では戦うことを許可されていない。ここで本当のことを話したら、明日ヨチリオたちに学園で言いふらされてしまう。そう思った彼女は妥当なことを話した。


「アリッサが盗賊たちをやっつけたんだ。あたしを助けるために」


 みなが一斉にミレイザを注目した。驚きやうれしさなどの表情がそれぞれから放たれる。ミレイザはピサリーを見たが彼女はあさってのほうを向いていて、助けてはくれない。


 すべてはピサリーが言い出したことだった。新聞の切り抜きに盗賊たちの名前が載っていた。それからその盗賊たちの手がかりを追い。結果、元冒険者を名乗った盗賊たちを追い詰め自白させた。


 そして、彼らと戦うことになった。そこからはふたりで戦った。でも、それは最初だけ、あとからわたしが……。


 そう、そうよ、わたしが戦ったんだわ。


 ミレイザはそうやって考えてから打ち明けることにした。みなの顔が興味津々といった感じに彼女の言葉を待っていた。


「ええ、そうです」


 申し訳なさそうに小さく言う。すると、一瞬の沈黙のあと、それぞれから称賛された。「すごいじゃん」や「やっぱり強いんだね」などの言葉が交錯する。


 ミレイザは褒められるとかえって居心地が悪くなってしまうのだ。人に褒められるのが嫌いなわけじゃない。ただ、自分が決して褒められるような存在ではないと思っているために。


 ふたたびピサリーを横目で見るが、彼女はごきげんなようにほほえんでいるだけだった。


 それから、ミレイザはひとりでどうにか説明をした。ピサリーは戦ってはいないということを念頭に置きながら。そうやって嘘をつくたびにミレイザの心は沈んでいくのだ。本当のことを話せない。話したらピサリーからの信頼をなくしてしまう。


「そんなことより、どうなんだ? 国をつくるって話は」


 ピサリーはミレイザを絡んでいる者たちをさえぎった。それぞれが首をかしげながらうなるなかマビポットは答えた。


「魔女の手下がそう言ってたんだろ? だったらそうなんだろうな。だから、いまは人を集めている段階だろう。腕の立つやつをな」

「どんな国をつくるつもりかな」


 ラルドは興味津々と言ったように誰彼構わずにたずねた。


「強い国だろうな」とマビポットは答える。

「強い国?」

「ああ、これはわたしの予想だが、強い国をつくり、ほかの国を乗っ取る気だ。たぶんこのダリティアをまず狙って来るだろう」

「国どうしの戦いになるってこと?」

「まあ、そんな感じかな。あくまでもこれはわたしの予想だからな。気にすることはない」


 みながひとつ息ついた。もしからしたら本当にそうなるかもしれないという可能性があるからだ。誰の土地でもない場所が海の向こうにはたくさんある。


 大魔王の影響により住めなくなった土地。草ひとつ生えない。不毛な土地。


 そこを根城にしているかもしれない魔女。予想とマビポットは言うがもしかしたら、本当にそうなってしまうのではないか。


 ここに来ていた者たち、そのひとつひとつの心の中には、そのもしかしたらという不安が根付いてしまった。


 こうして食事会はお開きになった。ピサリーの背中はどこかイラついているような、つまんなそうな、そんな静けさが漂っていた。


 ミレイザは思った。彼女は本当に魔女退治などするのだろうか? ピサリーは言っていた、自分をだましたやつを許さないと。たしかに魔女が元締めだとしてその配下にいる元冒険者などを使って、人々からお金をうばったりしているのは事実。


 ピサリーもその罠に引っかかっていたかもしれない。その恨みが行きつく先は魔女になってしまうのかな。


 ミレイザはそんなことを考えながら夜空を見上げた。そこには星々がただ輝いていた。



 次の日の朝。


 ミレイザは目を覚ますとベッドから起き上がった。ピサリーは黙って腕組みをしながら立っていた。あれから彼女は一言も話していない。なにかを考えているようにときどきため息をつく。


 ピサリーはミレイザに気づくと今日の予定を話してきた。


「ミレイザ、おまえの指輪から5万抜いておいた。もう必要ないだろ?」

「え? ええ」

「あたしは学園に行く。おまえもついてこい」

「……ええ、わかったわ」

「安心しろ、おまえの服を服屋から取り返すことは忘れてない」

「うん」


 宿屋から外に出てみると曇り空が広がっていた。その雲の流れを見ながらミレイザは思った。


 いつ自分の体はもとにもどるのだろう。ピサリーを頼りに彼女のあとをついていくけど、これがいつまでつづくのか、どのくらいかかるのか、彼女が魔法のレベルを上げればわたしの体をもどせるようになるって言っていた。


 いまはまだ、ピサリーについていこう。


 いつもどおり刹那で学園付近まで行き、ピサリーはミレイザを隠して学園へ向かった。生徒たちはもうすでに集まっていて、なにやら楽しそうに話し合っていた。


 ピサリーが学園に足を踏み入れると、みなの視線が一斉に彼女に向けられた。ピサリーはなにも気にせずいつものところでごろりと寝そべった。


「魔女を倒すんだって?」


 そんな言葉がピサリーの耳に飛び込んできた。ある者は笑い、ある者はほほえみ、ある者は感心している。


 ピサリーは舌打ちした。朝からそんな話が学園に伝わっていると、抵抗するのも面倒だった。


 やっぱりチクリやがったか。ヨチリオかアヤリか……まあいい。そんなことを学園のやつらに言ったところで意味はない。

 

「せいぜいほざけ」


 ぼそりとつぶやき目を閉じた。するとピサリーの耳元で何者かが地面を思い切り踏みつけた。


「ピサリー、魔女を倒すって聞いたわよ。あんた本当にそんなことを思っているの?」


 この声はリタメリーだ。また、なにか理由をつけてピサリーをからかおうとしてる。だが、ピサリーは無視をした。


「ちょっと、聞こえてるの」


 ふたたび彼女の声だ。ピサリーは深い眠りについたようにいびきをかいた。耳のそばで彼女と誰かが入れ替わった。


「ピサリー、忠告だけしておくわ」


 どこか鼻につくような声が聞こえてきた。今度はスタープリルだ。


「魔女とやったところで、あなたに勝ち目はないわ。だってそうでしょう、魔法レベルがそれじゃ……ねぇ」

「そういうことよ、身の程を知りなさい」

「ピサリー、そもそも魔女の居場所はわかっているのかしら」


 ピサリーはその言葉に反応して聞き耳を立てた。


「なんとか言いなよ」

「そういえばお友達ができたそうじゃない。あなたをお友達にするって、お気の毒に」


 ちらりと目を開けてヨチリオを確認すると、笑顔で舌を出し、おどけていた。そのとなりではアヤリが本を片手にピサリーを見返す。


「……まあいいわ、あなたがどこでなにをしようと、わたしくしたちには関係ないんですもの。いきましょ」


 からかうのに飽きたのかふたりの足音が遠ざかっていく。ピサリーは目を開けて彼女たちを見た。その彼女たちの凛々しい背中をただ恨めしそうに見つめた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。



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