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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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47. 高級料理屋ツキヨウ

 骨董屋の階段を下りてすぐのところにミレイザがたたずんていた。陳列されている商品を見ながら、ときどきマビポットのほうへ顔を向けている。


「なにやってんだ?」


 ピサリーの声にミレイザは驚いた表情を見せた。


「ピサリー」

「あいつはいるな」

「ええ、ずっと骨董屋で働いていたわ」

「そうか。ところでおまえ、昼間にふたり組の男どもになにかされなかったか?」

「えっ!」

「さっきここへ来ようとしたとき、そいつらにつかまってさ」


 ミレイザは昼間、服屋をさがしに歩いていたとき男のふたり組に追いかけられたことを思い出した。


「なにかされたの?」

「いや、べつに。変な理由で金を取ろうとしてきたからさ、刹那で逃げてやった」

「そう」

「あいつら偽ルピネスと戦ったときの切り抜きを持ってやがったんだ。あたしとミレイザの顔が映っているものだ」

「わたし、服をさがして歩いていたらそのふたりに声をかけられて、切り抜きを見せられて……」


 そのあとマギルナアトリエで服を……。ミレイザはよけいなことだと思い、すべてを話そうとはしなかった。


「ふうん、そうか。そんなことより、おまえ今日来なくていいや」

「え?」

「高級料理屋にさ」

「えっ? でも」

「おまえが来なければ、面倒なことにはならないんだ」

「めんどう?」

「ゾンビの体をいちいち気にする必要はないし、それがバレる心配もないしな」

「それはそうだけど、でも……」

「でもなんだ?」

「ラルドに言ってしまったから」

「ラルド? 誰だそいつは」

「今日、冒険者を雇ったの。それで、彼がわたしをかばって傷ついたから、そのお返しで」

「はあ? 冒険者が依頼人をかばうのは当然だろ。っていうか、なんで冒険者なんか雇った」

「それは……」


 ミレイザはラルドを雇わざる負えなくなったことを話した。ピサリーはイライラしながら聞いている。ミレイザは説明することが苦手なのだ。人に説明するときいつも時間がかかってしまう。その原因のひとつは、ゆっくりとひとつひとつていねいに話してしまうためである。


「……そいつはもう治ったんだろ? 助かったんだろ? それでいいじゃないか。なんで助けてもらったからって、わざわざそいつを誘う必要がある。なにも言わなければなにも起こらないのにさ」

「わたしがそうしたかったの。なにかお返ししたかったのよ」

「もう返してあるだろ。依頼料をさ」

「それとこれとはべつよ」


 ピサリーは考えた。このままだとラルドが高級料理屋に来てしまう。ただでさえ面倒なヨチリオたちと食事をする羽目になっているのに。ラルドをどうする? ミレイザを連れていかなければ、そいつは帰るだろうか? ……いや、そもそも、ミレイザをそこに連れていかなければならない。約束を守るわけではないが、あとあと面倒になりそうな気がする。


「……わかった。じゃあおまえも来い。もともとそういう予定だったからな。なに、たかが客が増えただけだ」

「ありがとう」

「べつに」


 それからマビポットを見張っていたが、どこかへ行くようすもなく、店じまいになり彼女とともに高級料理屋へ向かうことになった。


「なんだぁ、わたしを待ってなくてもよかったのに」


 きれいな服に着替えたマビポットはどこか照れたように言った。ふたりは適当なあいづちを打ちつつ彼女の後ろをついていく。


 夜の町は昼間とは違うにぎわいがあった。路地を曲がり、城が一直線に見える大通りに出る。そのまま横切り、両脇に建物のある道をとおり抜けると、その途中にひっそりと看板を掲げた店があった。


 看板には高級料理屋とは書いておらず、『ツキヨウ』という名前がついていた。


「あのう……」


 ミレイザは申し訳なさそうにマビポットに声をかけた。彼女は振り向くと笑顔を見せて返した。


「もう少し待ってもらえませんか」

「待つ?」

「ええ、言いそびれてしまったのですが、あの、友達を誘ったので……勝手にすみません」

「ともだち? そうなんだ」


 マビポットは辺りを見た。ミレイザはピサリーを見て彼女も知り合いを誘っていることをうながした。ピサリーは面倒くさそうにジト目を見せると、わざと能天気そうに言い出した。


「あー、そういえば、あたしも誘ったんだ。ふたり」

「ピサリーも?」

「ああ、べつにいいよな?」

「全然、むしろ多いほうが楽しいからいいけど、魔女の話もその子らにしていいのか?」


 ミレイザとピサリーはお互いに顔を見合わせた。魔女に関する情報はできれば自分だけに教えてほしいとピサリーは思っていた。だが、その情報をほかの誰かが知ったところでどうでもいいと思った。それを聞いて、もし魔女の居場所がわかったとしても、そこへ向かうやつはいない。向かったとしてもやられるだけだ。と、ピサリーは不敵な笑みを見せた。


「べつにいいぞ。関係ないからな」

「ふうん、そう、じゃあそうする。それより中に入っていいかな? 君たちのお友達はここの場所は知っているんだよね」


 ふたりはあいづちを打つ。それを確認してマビポットはドアに手をかけた。それから、両開きのドアを開けると暖かい空気が流れ、こじんまりとした室内がすがたを見せた。


 きれいに磨かれた白い石の床。その上には椅子やテーブル。白いレンガを敷き詰めた壁には絵画がかけられている。天井には小さなシャンデリアがさりげなくついており、淡い橙の明かりが店全体を照らしていた。


 客が何人かいて食事をしていた。店の奥にはメイド服を着た女性が何人かいて料理をしている。薪を使用したキッチンストーブの上には鍋がありそこからおいしそうな香りが店内に広がっていた。


 店の中央には暖炉があり天井までつづくレンガは煙突として使われている。


 マビポットは席の空いている適当な場所をさがすとそこへ向かった。ふたりもそれにあわせてあとを追う。テーブルに着くとマビポットとミレイザたちは向かい合わせに座った。


「どう? いいところでしょう」


 マビポットは店内を眺めながら言った。ミレイザはローブを脱ぐと彼女をまねて店内を見まわした。どこか落ち着ける感じに目を輝かせる。ピサリーは頬杖をつきながらあくびをしていた。


「ええ」


 ミレイザはそう答えるだけで精いっぱいだった。店内の空気に心おどらせてふたたび辺りを見まわす。


「さあ、なんでも注文して。今日はわたしがおごるから」

「えっ? いいんですか?」

「ははは、わたしが誘ったんだ。当然だろ」


 マビポットは上機嫌に言うと、急かすように手をメニュー表に向けた。酒場にあるものと多少形はちがうが、テーブルに映し出されている料理を押せば自動で料理が出るようになっている。


 ミレイザは注文表をのぞいたが、自分は水しか飲めないためピサリーに顔を向けた。ピサリーはなにも言わず料理を押そうとした。すると、その手前で手を止めてたずねた。


「これ、あたしの指輪から金が抜き取られないか?」


 マビポットは多少驚いた顔をしてから答えた。


「ああ、大丈夫。予約した本人が払うことになっているからさ」

「あっそう」


 2000リボンから8000リボンまでの料理一覧が目に映る。ピサリーは食べたいものを押していった。マビポットも同じように押していく。


 肉料理、豆料理、スープ、飲物などの料理がテーブルに並べられる。ピサリーは勝手に食べはじめた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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