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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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46. 食事会への用意

 玄関わきには、しっかりとした回転式の看板がついており、リンリーという名前が風に吹かれてまわっている。


 ミレイザはそこへ入ろうと玄関のドアに手をのばした。が、途中で止めた。マギルナアトリエでのできごとがよみがえる。服の修理のために2万5000もの大金を支払う羽目になったことを。


 そわそわと後方から声が聞こえてきてミレイザは振り向いた。服屋に入ろうとしていた客が不快そうにミレイザを見ていた。


「あっ! すみません」


 ミレイザはすばやくその場から離れた。ドアを開けて、ドレスを着た貴婦人らしき人物が中に入っていく。


 ドアが静かに閉まる。ミレイザはそこにある小窓から中をのぞいた。服は両わきに並べられており、そのさきには店のカウンターがある。さっき入っていった貴婦人らしき人物はカウンターで店員と話している。


 高そうなお店。とミレイザは思った。しかし、マギルナアトリエよりはいい店かもしれないと感じた。


 通行人がミレイザのことをちらちらと見ながらとおり過ぎていく。それに気づいてあわてて手で服を隠すとすばやく店内に入った。


 店内は明るく、きれいな服が部屋を囲うように並べられていた。色とりどりのドレスが目につく。ほかにもワンピースドレス。制服。メイド服など。


 貴婦人は買ったものを指輪に入れて店から出ていった。


 リンリーはカウンターで作業をしながらミレイザに気づくと、作業を止めて声をかけた。


「なにか、おさがしですか?」


 ミレイザは一瞬沈黙したあとあわてて話し出した。


「えっ? ええ。服を……」

「服ですか。うちの店はドレスがメインですので一般的なものは少ないですが」


 リンリーはミレイザに近寄ってくると彼女の殺伐とした恰好を気にせず、一般の服が置いてあるところへ誘導した。リンリーの背中には羽がある。妖精がこの店を経営していた。ミレイザより背は低く、そして若い。


 ダリティア国内では13歳から働ける。12歳までは勉学優先のため働けない。家事手伝い程度ならできる。


 リンリーは13歳くらいだろうとミレイザは思った。


「こちらはローブやワンピースになります。オプションとして帽子やアクセサリーなどもございます」

「あの、できるだけ安めのものをお願いしたいのですが」

「そうですか、少々お待ちください」


 どれも高そうなものばかり並んでいる。高級感が肌に感じて、多少の緊張がミレイザの気持ちをハラハラさせた。


 リンリーが服を手で抱えて持ってきた。


「こちらはいかがでしょうか」


 それはワンピースドレスだった。だが、上半身と下半身部分が斜めに縫いつけてある。斜めから上の部分は黒、下の部分は灰色という粗末なものだった。長袖ではあるが、ふたつの服を切ってひとつに縫いつけたように見える。


「……それですか?」

「ええ、この店のオリジナルのデザインでございます。創作段階のものですので安めになっております」

「おいくらですか?」

「2000リボンでございます」

「2000ですか」

「はい」


 リンリーはつねに笑顔を見せながら受け答えをしている。そんな彼女に押されながらも、ミレイザは自分の格好を見てたずねた。


「あの、補修やクリーニングなどは……」

「申し訳ありません。うちではやっておりません。できたものを浄化できれいにするだけで、商売としてはやっておりません」

「そうですか」

「クリーニングでしたら、マギルナアトリエ店のほうへ行ってみてはどうでしょうか」

「あ! いえ、だいじょうぶです。では、それをください」

「こちらでよろしいのですか?」

「はい」

「ありがとうございます」


 それから、試着室で着替えを済ませて店をあとにした。新しく買った服の上に傷ついていボロボロのローブを着る。ローブも一緒に買おうとしたがやめることにした、これ以上お金は使いたくなかった。


 ふたたび歩き出して、何気なくどこかの店のショーウインドーに目を移す。


 ミレイザははっとした。さっき着ていたものよりましになったことを。これで食事会の心配はなくなりほっと息をついた。


 こうして、また骨董屋の近くまでもどった。窓をのぞくとマビポットが接客をしていた。辺りは日も暮れてもうすぐ夜になろうとしている。



 夕方5時過ぎごろ、サザンティカの復興作業の手伝いは無事に終わった。ローゼリスからはゆっくり休むようにという言葉だけで解散となった。


 ピサリーが帰ろうとして杖を出すと、ヨチリオとアヤリが声をかけてきた。


「ピサリー、今日でいいんだよな?」

「あ?」

「高級料理屋で食事会さ」

「ああ、そうだ」

「来るんだよな」

「ああ」

「8時でいいんだよな」

「そうだ」


 イライラしながらピサリーが返すと、ヨチリオはアヤリに「だって」と言った。アヤリはお金のことを気にしていた。誰が払うのか? 自分で払うのか? 


「誰が払うの? その食事代は」

「あ?」

「もしかして割り勘なの?」


 ピサリーはそのことに対して考えていなかった。魔女の情報を聞きたいためにマビポットが指定した場所へ行かなければならない。場所を提示した本人が払うのが筋だ、と彼女は勝手に思い込んでいた。


「さあな、来たくなかったら来なくてもいいぞ」


 ヨチリオとアヤリはお互いに顔を見合わせた。

 面倒ごとにできるだけ巻き込まれないようにしたい。ピサリーは彼女たちが来なければよけいな心配が減ると思った。

 

「いや、あたいたちは行くよ、なあ」

「うん」


 むだなことを考えたことにピサリーはため息をついた。


「そうか」


 こうして、授業が終わりピサリーは刹那を使った。ダリティアに着き、そこから歩いて骨董屋へと向かった。


 町は薄暗くなり街灯がちらほらとつきはじめている。出店でなにかを買っている者たち、話しながら歩いていく夫人たち、町を見まわる衛兵などが広々とした通路を行き交っていた。


 ピサリーはなににも目をくれず、ただ骨董屋へと向かっていた。


 ヨチリオたちが来たときどうやって切り抜けるかを考えながら歩いていると、目の前にふたりの男たちがあらわれた。ひとりは鋼の鎧を着て、腰に剣を下げた男。もうひとりはローブを着て、片手に杖を持っている男。彼らは昼間ミレイザを追っかけていたふたり組の男たちだった。


「おい」


 ピサリーは鎧を着た男の声にムスッとしながら無視をして、彼らのわきをとおり抜けようとした。だが、ふたりは彼女を通さないように道をふさいた。


「俺たち聞きたいことがあるんだ、妖精ちゃんよ」


 そう言いながら、今朝の切り抜きを見せてきた。それはこの前、偽ルピネスと戦ったものだった。ミレイザとピサリーが映っている。


「ここに映っているの、あんただよな」

「さあ、しらねーな」

「知らない? それはないだろう。こんなに似ているんだぜ。おまえ、こいつの知り合いだよな?」


 男はにやつきながらミレイザを指さした。


 こいつらにミレイザがなにかしたのか? でなければ、こんなことを聞いてこない。いろいろと考えるのが面倒になったピサリーは適当に答えた。


「ああ、そうだ。だからなんだ?」

「やっぱりな。今日あんたのつれを誘ったんだ。一緒に洞窟にって。そしたら逃げられちまってさ。だから行けなかったんだよその洞窟に。本当ならいまごろ宝を売って儲けていたんだがなぁ」

「だからなに?」

「その、彼女に変わって、あんたが払ってくれないか?」

「なにを?」

「金だよ」

「なんで?」

「さがしてたら行けなくなっちまったからさ」

「なんであたしが払うんだ? 関係ないだろ?」


 ここでローブを着た男が話に割り込んできた。

 

「いやあ、なに簡単な話さ。わたしたちの貴重な時間をむだにしたことに対しての、お金を払ってもらいたいんだよ」


 ピサリーはふふふと笑った。ふたりは彼女の奇怪な行動に真顔になる。


「時間? 知るか!」


 ピサリーはそう言って刹那を使った。


 場所が変わり骨董屋前まで移動した。それから彼女は骨董屋に入ろうとして入り口のドアに手をかけた。ふと、辺りを見回してミレイザがいないかさがしたが、どこにもいなかった。


 まあ、いいか。と彼女は思った。ミレイザがいないならそれに越したことはない。ヨチリオたちの手間が省ける。体調が悪くなったとか適当に言えばいいし。


 そうか、ミレイザを来させなければいいんだ。


 ピサリーはほくそ笑むと骨董屋に入った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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