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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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45. 服屋をさがして

 マビポットは依頼品を店のカウンターへ持ってくるように言った。ミレイザは言われたとおりに手に入れてきたそのふたつをカウンターのところへ持っていった。


 ミレイザはそこへ向かう途中、店内を落ち着きなく見まわした。内心、とても珍しいものを持っているということで、人が集まりその勢いで知らぬうちに取り上げられてしまうんじゃないかと思った。


 来ている客は見たかぎり、数人くらいしかいなかった。彼らは真剣に高級品を物色をしている。


 店に入って入り口わきのところにある広間でラルドの回復やアメズイスの杖などを取ってきたとかで、騒がしかったはずなのに、誰も来なかった。ミレイザはそんな客に無関心さを感じた。


 わたしもひとりの客としてここにいたら、彼らと同じように遠くでただ見ていただけかもしれない。物の品定めに夢中だった。などと内心で言い訳をしているかもしれない。ここに来ている何人かがようすを見に行ったりしたら、わたしもふいに動くかもしれない。それでもそこに行ったところで、他人のやっていることをあたふたしながら見ているのがやっとだろう。


 いつもそうやってなにかに関わることを避けてしまう。ミレイザはそんな自分を情けなく感じた。


 そんなことを考えながら店のカウンターへ来た。マビポットはカウンターの向こう側にいてミレイザを待っていた。元気になったラルドはすでにそこにいてマビポットと話している。


 ミレイザはアメズイスの杖と虹色の羽をカウンターに置いた。


「これがアメズイスの杖かぁ」


 マビポットは鞘から抜き取ったその杖を眺めた。銀色の柄に深い青の棒。棒の形は軽く波を打っている。


「うん、間違いなくアメズイスの杖だね」

「どうして、そうとわかるんですか?」

「あたしの勘さ。それに魔女の手下が狙っていたものなんだろ? だったらなおさら」

「はあ、なるほど」


 マビポットはうれしそうにほほえむとこんどは虹色の羽を手に取った。それは大きな翼から1本抜け落ちたもので、全体的に虹色をしている。


「うーん、これも虹色の羽に間違いないね」


 マビポットはそれぞれ見終わると依頼料の話をしてきた。


「ふたつそろっているから、3万リボンだね」

「ええ、でもそのお金は、お薬代でお願いします。いくら分の回復薬をお使いになったのかはわかりませんが」

「薬代? いやいやいいんだよ。べつにお金が欲しくて回復薬をやったわけじゃないからさ」

「え? でも」

「薬代はいらないって。だって、彼を回復させるのが先決だろ。まあ、とりあえず虹色の羽代はあんたにやるよ」


 マビポットは自分の指輪から1万リボンのコインを1枚出した。ミレイザは「どうも」と言って、それを自分の指輪にしまう。


「残りは、杖の依頼者と取引してから渡すよ」

「そうですか……わかりました」


 ミレイザは下を向いて自分の指をさする。どこか都合が悪そうな彼女を見てマビポットはたずねた。


「どうしたの? ……ああ、依頼人との交渉でうまくいかなかったら、なんて思ってんの? 大丈夫、約束は約束だから依頼人からの額が少なくても、あんたには必ず支払うよ」


 マビポットは安心させるため笑顔を見せた。ミレイザはそうではなくて、でもそれに近いことを思っていた。『いますぐお金が欲しい』と、彼女のやさしさに対してとても失礼なことを思ってしまったと思い、ミレイザはとっさにごまかした。


「あっ! いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

「よろしく? まあいいや。じゃあ、またこんど」


 マビポットはそう言ってカウンターへ来た客の対応に当たった。

 

 ミレイザはこのまま店の中にいてマビポットを見張っているか考えた。ピサリーの頼みを聞かなければいけない。しかし、なにも買う気がないのに店の中にいるのもなんだか悪いと思い、店を出ようとした。すると、ラルドが話しかけてきた。


「アリッサさん、これからどうするの? また、どっかに行ってお宝でも見つけてくるの? そしたらさ、ぼくをまた雇わない?」

「え?」


 あれだけ危険な目にあってもまたどこかへ行こうとしている。ミレイザはそう思うと、彼がこれ以上危険な目にあわないように断ろうとした。だが、彼に助けてもらったのも事実だった。その恩と自分の不甲斐なさで彼を危険な目にあわせてしまったことを、どうにか埋め合わせできないものかと考えて。ミレイザは提案を出した。


「……そうね、でももう行かないわ」

「そっかぁ、まあ、またなにかあったらさ、ぼくを呼んでよ。じゃあね」


 ラルドは店から出ようとした。ミレイザはとっさにそれを止めた。


「待って」

「ん?」


 ラルドは振り向いて不思議そうな顔を見せた。ミレイザは彼のところまで近づき小声で言った。


「今日の夜、20時に高級料理屋で食事会があるの。ラルドも来ない?」

「えっ!? 食事会!」


 ラルドは大きな声で言った。その声がまわりに聞こえていないか不安になり、ミレイザは両手を前に出してその声を止めようとした。ちらりと後ろを振り返り誰も気づいていないことにほっとして答えた。


「ええ」

「ぼく、お金持ってないよ」

「わたしたちが払うわ」

「え? 本当にいいの?」

「ええ」

「わかった。今夜20時に高級料理屋だね。アリッサさんありがとう」


 ラルドはそのまま店を出ていった。勢いで彼を誘ってしまったことにミレイザは不安を覚えた。ピサリーになんて言えばいいだろう。彼に助けてもらったから。と言えばわかってもらえるだろうか。ミレイザはそんなことを考えながら店を出た。


 パタリとドアが閉まる。日はまだ明るく、午後3時過ぎをまわっているころだった。


 マビポットを見張るためにこの店に来た。しかし、彼女に見つかりその店に貼られていた依頼を受けてしまう。お金に困っていたためしかたなくそうした。ミレイザはロズバーラとの戦いで感じた、自分の弱さを。誰かに頼みごとをされると強く断ることができない。断っていればなにも起きなかったのに。


 ミレイザはこぶしを握った。今度はそうならないように、断る勇気を持てるようにと。でも、断ったあと罪悪感や恐怖感が押し寄せてくる。人の頼みだ。絶対に断るな。などと自分の内面にいる正義感や弱虫がそう言ってくる。人を助けろと。


 気づけば町のとおり沿いを歩いていた。ふと店のガラスに自分の姿が映る。服はところどころ切り刻まれて血がついていた。その姿を見るとミレイザはため息をついた。


 そのガラスに映る自分の後ろで、町の人たちがとおりすがりちらちらと見ていく。それに気づいたミレイザはすばやく服を隠そうと両手で自分の体を抱きしめた。


 それから誰もいないところをさがして歩き出す。だが、どこを歩いても人のいないところはなかった。仕方なくミレイザはできるだけ人目のつかない場所へ向かった。


 公園の広場に来るとちらほらと人が見える。とおり沿いよりは少ないところだった。そこは大きな木が真ん中に立っていて、長椅子が点々としている。ミレイザは隅のほうにある長椅子に向かった。


 その椅子に座り一息つくと辺りを見回した。広場で遊んでいる子どもたちや座って本を読んでいる若者などがいる。誰もミレイザを気にも留めなかった。


 ここで待っていてもなにも解決しない。クロバーの指輪を使って服を買ってみようとしたがやめた。個人業で仕事をしている人が共有システムを使って物を売りに出している。店で買うより高い値段であるため手が出しにくいのだ。この場で買い、すぐに自分のしている指輪に届く仕組みになっている。巷で取引されているどんなに安いものでも、指輪を使って買えば高くなってしまう。便利だが物は値が張るのだ。


 それを使う人は、金持ちか、いますぐどうしても欲しい。といった人たちになる。


 いつまでも血で汚れた服を着ているわけにはい。今夜、食事会があるのにこの格好ではいけない。早くきれいな服を手に入れないと。そう思いミレイザは服屋をさがすためふたたび歩き出した。


 人の目が気になる。その人たちがみんな自分を見てくる。確認しようとしても目をそこに合わせることができない。だから、そうなんだと強く思い込んでしまう。下を向きながら目だけを動かし服屋の看板をさがす。


 そして見つけた。『服屋リンリー』という看板を。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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