42. 隠された杖
「どういうこだ」
不安を感じロズバーラは重力操作を放った。すると胸辺りに違和感を覚えた。懐に入れてある羽が反応しない。自分の体に吸いつくようになるはずなのだが、それが感じられなかった。
ロズバーラは懐に手を入れた。
「なに!」
ごそごそとそこをさがしているが羽が見つからない。まさか杖までも……そう思ったとたん、ミレイザが目の前にあらわれた。
彼女が突然出てきたため、ロズバーラは身構えた。
「きさま、羽を取ったな」
彼女の質問に対してミレイザはなにも答えなかった。ロズバーラはその沈黙にイラつきを見せてにらんだ。それから自分の腰に下げてあるふたつの鞘に目を落とした。それを確認すると、にんまりと口元を緩めた。
「ここにまたあらわれたってことは、杖を取り損ねたんだね」
そう言って、腰に手を当てて胸を張った。ミレイザは彼女にたずねた。
「杖はどこなの?」
「知らないねぇ、自分でさがしてみな」
ロズバーラはうれしそうに両手を広げておどけて見せる。ミレイザは目を動かして杖の場所をさぐった。体に隠し持っているのか? と思った。しかし、さっきさぐったときはそれらしいものを見つけることができなかった。
杖というだけでどんな形なのかわからなかった。だが、確実にわかることは目の前にいるロズバーラが持っているということ。そうなると、彼女が杖らしきものを出すまで待つしかない。
彼女がさがしているすきを突きロズバーラは鞘の一方から剣を抜いた。その剣は細くしなやかなものだった。細身の剣を片手に持ちミレイザに向ける。
「そういえば、あの少年はどうした?」
「安全なところに置いてきたわ」
「ふうん、そう……」
ロズバーラは飛び出してミレイザに剣を突き刺した。だが、突き刺したところから血が流れず手ごたえがなかった。そのままミレイザは消えてロズバーラの後ろに回り込んでいた。その気配に気がつき剣を払うようにミレイザの体を切り裂く。彼女の体は真っ二つになるがそれも残像で消えてしまった。
そしてまたミレイザはロズバーラの後ろへ回り込んだ。
「速いねぇ、動きがさ。捉えられないよ。でも、ここで引くわけにはいかないんだ。虹色の羽を返してもらうまではね」
ロズバーラはごそごそと胸のあたりをさぐりながらなにかをつかむと、それに軽く息を吹きかけ空高く放った。
それはブーメランの束だった。鳥の群れのように空を舞っている。自分の後ろにいるであろうミレイザに、そのブーメランをいっせいに向かわせた。
鳥が獲物を狙うかのように四方八方から彼女に襲いかかる。ミレイザはその群れをかわしていく。体につけばたちまち身動きが取れなくなってしまう。手や足で攻撃を仕掛けても、当たればそこにくっつき離れなくなる。だから、避けることしかできないのだ。
逃げている途中でなにか棒的なものが落ちていないかさがした。すると、塀から突き出ている鉄の棒が目に入った。逃げながらそれをつかみ引っ張り出した。その棒には塀の破片がついていた。
ミレイザはそれに構わず、追いかけてくるブーメランに振り当てた。だが、その当てた部分にブーメランがつき、とたんに重くなった。それから、持っていられずミレイザは棒を捨てた。
「ははは、むだだ。そのブーメランはどんなものにもくっつく。つかないのは空気、水、火、雷ってとこだ」
ミレイザは彼女の後ろへ回り込んだ。ブーメランがロズバーラを襲うだろうと思ったが。彼女を素通りしてミレイザを追いかけてくる。しかも、今度は回り込めないようにブーメランの一部がロズバーラを囲った。
「ざんねん。わたしにはただの紙さ、当たっても痛くもかゆくもない」
こんなときピサリーがいてくれたら……と、そんな思いをしながらミレイザはどうにかならないものかと考えをめぐらせた。
空気、水、火、雷。ロズバーラが言ったブーメランの性能。逆に言えば弱点。頭の中でそれに似たものはないかと考えはじめた。ふと、グレイブの使っていた剣を思い出した。雷光剣のことを。どこにあるか目でさがしていると壁に突き刺さっていた。いまだにビリビリと剣から雷撃が放出している。
ミレイザはそれを取りに急いだ。ロズバーラの周りをぐるぐると回っていた彼女が急に方向を変えていなくなったのを確認すると、そのままブーメランを追わせて、また新たにブーメランを取り出すとそれをばらまいた。すると生き物のようにそれは辺りに転がっている物に張りついた。
ミレイザは雷光剣を抜き取りブーメランに向けてなぎ払った。すると、剣から雷撃が放出されてブーメランは蒸発するように消えた。そうして、ふたたびロズバーラのもとに向かった。
あらかたブーメランを蹴散らしたミレイザはロズバーラの前に立ち剣を構えた。それを見てロズバーラは笑みを見せる。
「ふふふ、グレイブの武器だな。よけいなものを使いおって……どうする? その剣でわたしを倒せるかい」
そう言って、両手を広げておどける。彼女は無抵抗のように身を差し出した。ミレイザは剣を彼女に向けながら言った。
「杖はどこ?」
「……杖ねぇ、そんなにほしいのかい? でも、やらないよ!」
ロズバーラは手を交差させた。とたんに辺りに落ちている物という物がミレイザに向かってきた。それは石、木の破片、壁の破片、剣、槍、杖など。ミレイザは雷光剣でそれらをはじき返しているが、囲まれているため、身動きが取れないでいた。そのがれきと化したものはミレイザを取り囲みぐるぐるとまわり出した。
つづけてロズバーラは腕を引いた。するとそのまわっている中の物がミレイザに向かって飛び出した。石や木の破片が彼女を襲う。ミレイザはそれらをかわして上を見てみた。そこは開いていて空が見えている。しかし、すぐに閉じられた。壁が彼女の頭上にあり出口をふさいでいる。
ロズバーラは腕を前に出した。それに反応して剣や槍がミレイザを突き刺すように飛び出してきた。ミレイザはそれらを剣ではじき返し、どこかに隙はないか目をあちこちと動かした。だが、勢いよく周囲をまわっているがれきが隙なく動いており、彼女を動けなくさせていた。
ミレイザになかなか攻撃が当たらないのを見て、ロズバーラはいらいらしていた。それから「あーあ、めんどう」と言いながら手を叩いた。その瞬間、囲っていたがれきは一斉にミレイザを攻撃した。
いろいろな物が押し寄せてくる。ミレイザはそれらを相手にせずここから抜け出すことを考えた。だが、そんな余裕はなかった。だから強引に抜け出そうと考えた。
剣を強く握り、あとは突進した。なにかの破片や剣の切っ先、壁、そういったものが目の前に押し寄せてきてもそのままの勢いで進んだ。雷光剣でできるだけはじき返しながら、そのわずかな隙間をくぐり抜けるように突っ込んだ。
服ががれきにより多少切り刻まれ、体に傷を負いながらも足を止めずに突き進んだ。
ミレイザががれきの中から出てこようとしているのに気づくと、ロズバーラは次の手を打った。
彼女は束になったブーメランを取り出すとそれに息を吹きかけて放った。そこら辺にあった物にくっつき、それらはひとつに集まり合体した。4メートルほどある人型がつくられ、剣がいくつも合わさったような大剣を持っている。
「我ながら傑作だねぇ」
そして、ミレイザはがれきを吹き飛ばして抜け出した。彼女の体は傷つき、血が至るところから流れ出ている。だけど平然とそこに立ちロズバーラをにらみつけている。その感情は彼女にではなく、自分にだった。
早くしないとラルドが……。
ふと、となりに気配を感じてミレイザはそのほうへ向いた。そこには巨大な剣が振り下ろされ、迫っていた。ミレイザはとっさに雷光剣でその剣を受け止めると、その衝撃で地面にひびが入った。
ミレイザは両手で剣を持ちながら、その無機質な巨体からの攻撃を跳ね返そうとしていた。ビリビリと雷光剣の威力で巨大な剣が黒く焦げていく。
「ほう、よく防いだな。がれき人形の攻撃を……」
ロズバーラは高みの見物でもするように腕組みをしながら言った。
「だが、どこまで持つか」
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