41. 戦う衝動
「まったく、そこの知れない女だねぇ」
ロズバーラの持っているムチを振り上げるとミレイザめがけて振り下ろした。ムチが彼女の体に当たると、ロズバーラは笑みを浮かべた。何度も何度もムチを振り下ろす。それと同時にムチから雷撃が放たれる。そのたびにミレイザは片手でその攻撃を防ぎながらようすをうかがった。
彼女の攻撃を防ぐたびにローブの袖が切り刻まれていく。不意を突いて、今度はミレイザの足を狙った。
その衝撃でミレイザは膝をついた。どうにかして手についたブーメランを取ろうとしたが、ムチを叩き込まれるため、なかなかはがすことができなかった。はがそうとしても、その重力的なものに引っ張られたりするため思うようにいかない。
突進をこころみようとしたが、重力によって手がその場で止まってしまうため彼女に近寄れない。
「やれやれ、そろそろ疲れてきたねぇ、何度ムチで叩いても、痛がらないし恐れもしない……」
ロズバーラはミレイザの顔を狙ってムチを振っているが、彼女は手でそれを防いでくる。そのため、そこ以外の場所を叩いているが、いっこうにらちが明かない。そんな状況にイライラしてきたロズバーラはブーメランを何枚か取り出して彼女に放った。
そのブーメランはミレイザの自由な片方の手、両足、頭に張りついた。
ロズバーラは手を払った。すると、ミレイザは浮かび上がり両手両足を広げた格好になった。
「あーいい眺めだねぇ」
ミレイザは腕や足を動かしたがそれ以上の強い力で引っ張られているため、動かすことはできなかった。
「さてと、これで好きなだけあんたを叩けるってもんだ」
そう言って彼女はムチを両手で持ちピンと張った。そしてムチをミレイザに振り当てた。バチバチとひとつ当たるたびに激しい光とともに音が鳴る。ミレイザの着ているローブやその中に着ているワンピースドレスが切り刻まれていく。
その当てられた場所からは血がにじみ出した。
「痛かったら声を出したっていいんだよ。遠慮せずに」
痛くはなかった。爪で皮膚をなぞる程度にしか感じない。ミレイザはどうやってこの状況を抜け出せるか考えた。
力いっぱい腕や足を動かしても、多少揺れるだけで、それ以上は動かせなかった。
「むださ、そうやって体を動かしても、あたしの力はブーメランを自由に操り、そのブーメランに重力を与えるんだ」
にやりと笑みを浮かべて、ロズバーラはムチを振った。それから何十回目かのとき、彼女はとたんに振るのをやめた。
「そういえば、あんたの顔を拝ませてもらってないねぇ」
彼女はミレイザに近寄ると、ミレイザの顔に手を持っていった。
「その仮面の下にはどんな顔が隠されているのか」
ロズバーラの手はゆっくりと彼女の顔に近づく。
ミレイザはあせった。仮面を外せば自分の正体が知られてしまう。手や足を激しく揺らしてみても、顔をそむけるようしても、頭が固定されているみたいにその場所から動かすことはできなかった。
強力なゴムに引っ張られている。そんな感じにミレイザの体は封じられていた。
「おやおや、ずいぶんと嫌がるんだねぇ。そんなに素顔を見られるのが嫌かい」
ロズバーラの手がのびる。彼女の仮面に手がふれる。
絶対に見らたくない。見られたら終わり。終わる? わたしがゾンビであることを知られてしまう。ゾンビなんて嫌!
すると突然、うめき声を上げながらロズバーラはぐらりと体をよろけさせた。見ると彼女の足に短剣が刺さっていた。短剣を投げたラルドが片膝をついてロズバーラをにらんでいる。
「ぐっうう……あの、小僧め」
にらみ返しながらロズバーラは自分の足に刺さっている短剣を抜こうとした。そのとき、ミレイザについていたブーメランがゆるみ、彼女の体を自由にさせた。
その隙をミレイザは逃さなかった。地面に足をつけると一気にロズバーラの間合いまで攻め込み、手のひらで彼女の体を押した。ロズバーラはその気配に気づき、短剣を取るのをやめて腕を交差してミレイザの攻撃を受け止めた。だが、その勢いと圧力で吹き飛ばされた。
壁に当たるか当たらないかのところでふわりと止まった。
「ふう……危ないところだったねぇ、さすがに腕がしびれているよ」
ロズバーラは腕をだらんとさせてふわふわと宙に浮いている。それから足に刺さっている短剣を抜こうとしていた。
ミレイザはラルドのことが心配だった。後方にいる彼の荒い息づかいが聞こえてくる。至るところから血が出ており、片膝をつきいまにも倒れてしまいそうなほどに揺れている。片目を閉じて歯を食いしばっている。そんな彼を早く助けてあげたいと思い、ミレイザは小回復薬を指輪から取り出してラルドにかけた。
小回復薬から出る白い光が彼を包み痛みをやわらげ、傷をふさいだ。だが、その薬ではラルドの体を完全に治すことはできなかった。
「あ、ありがとう、アリッサさん」
「いいえ、こちらこそ、わたしを救ってくれたわ」
ラルドは軽く笑うと痛みをこらえて言った。
「じゃあ、お互いさまだね」
「そうね」
ミレイザはどうにかしてこの状況から抜け出す方法を考えた。やはり、彼女と戦わないといけないの? 傷つけたくない。殺人鬼になりなくない。そんな不安がミレイザの中でふつふつと湧いているため、全力で戦うのを恐れてしまっているのだ。
自分の力を過信しているわけではない。自分が制御できないほどの力が出てしまったら。わたしはわたしを止められるのだろうか? と思い、攻撃する手を緩めてしまう。
だけど、もうこれ以上ラルドを傷だらけのままにさせておくわけにはいかない。早くよりよい回復薬を手に入れないと……。
ミレイザはその薬を得るためにはお金がかかることを知っていた。小回復薬なら安いが。中回復薬、大回復薬はとても高い。いまの所持金で果たして買えるかどうかわからなかった。だから、当初の目的であるアメズイスの杖と虹色の羽を手に入れなければ。と、そう思い、ミレイザはロズバーラと戦うことを決めた。
ロズバーラは抜き取った短剣を地面に捨てた。
「まったく、血で服が汚れちまったじゃないか」
ミレイザはロズバーラを正面に見据えて、彼女の持っているであろう杖と羽をさぐることにした。
「杖と羽は持ってるの?」
「あん?」
「アメズイスの杖と虹色の羽は見つかったの?」
「……ああ、見つかったよ。まさか虹色の羽の存在まで知っているとはね」
ロズバーラは苦笑いを浮かべて懐から虹色の羽をちらりと見せた。その羽は暗がりからでも輝いて見えている。
「どうだい、きれいだろ」
彼女が虹色の羽をもとにもどそうとしたとき、ミレイザは走り出した。一瞬でロズバーラの目の前までいき彼女の懐に手を入れた。そして羽に手が当たるとそれを取り出した。
しかし、ロズバーラは羽にブーメランをつけていて、その重力を操った。ミレイザが羽を取り出したとたん、急に羽が重くなり持てなくなっていた。重さで手から羽が滑り落ちると、重力をもどし地面にふわりと落ちた。
ミレイザはそれを拾おうと屈んだ。すると地面にくっついているように羽を取ることができなかった。
「はははは、まったく、油断も隙もあったもんじゃない」
ロズバーラはミレイザに蹴りを入れた。その衝撃でミレイザは彼女から離れてしまう。ロズバーラは手を動かすと地面に落ちている羽がふわりと浮き上がり彼女の手に収まった。
「ふふふふ、さっきまで興味なさそうにしていたのに、気が変わったのかい?」
彼女はうれしそうに羽のはしを持ってくるくると回転させている。それから懐に羽をもどした。
ミレイザは依頼されたものをどうにかして持ち帰ろうとしていた。後ろでは苦しそうにうめいているラルドがいる。早くしないと……そんなあせりが先走り、うまくことを運べないでいる。
ロズバーラの出すブーメランが厄介だと感じた。そのブーメランをどうにかしないかぎり、彼女の持っているものを手に入れることはできない。体に少しでもつくと、たちまち彼女の思うようになり自由に動けなくなる。
どうすれば……避けるしかない。それには、もっと早く行動するしかない。
そう考えてミレイザは足に力を込めた。地面が押しつぶされてひびが入る。そして飛び出した。
ロズバーラはさっきまで見ていた彼女の姿がないことに気づいた。目を動かして辺りを確認する。ふわりと風が目の前をとおり過ぎた。なにも聞こえない。その目の前の空間に目を凝らしながらよく見てみた。しかし、そこには誰もいなかった。ラルドまで消えている。
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