40. 不自由な戦い
「みじめなもんだねぇ、そうやってただやられているだけなんてさ」
彼女の攻撃はつづく。何度も何度も同じ個所を蹴っていく。
「アリッサさん!」
ラルドはミレイザが抵抗できずにやれている姿を見て声をかけた。そして彼女を助けようと駆け出そうとした。
「おっと」
すると、通さないようにグレイブが目の前に立ちふさがった。それからラルドに剣を振り下ろした。ラルドはそれを剣で受け止める。だが、グレイブの力により彼ははじき返された。
「おまえの相手は俺だ」
グレイブは余裕の表情を見せた。剣の切っ先をラルドに向ける。ラルドも負けじと剣を構える。
ピリピリしている空間に一陣の風が吹く。
『なんとしてもアリッサさんを助けるんだ』とラルドは心に決めた。彼の目つきが変わる。恐怖とあせり、それから怒りの混ざった感情に揺さぶられながら、グレイブに突進していった。
グレイブはラルドの表情が変わったのに気づきニヤリとした。大剣を構えて、彼が来るのを待った。
そして、ラルドが剣を思い切り叩きつけた。グレイブはそれを大剣で受ける。
「かりーなぁ」
グレイブはバカにしたように言った。それからラルドの剣を跳ね返そうと大剣で払った。
またしてもラルドは吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直して着地する。ラルドは剣を構えたふたたび突進していった。
グレイブは呆れたように首を振ると、大剣を構えて彼の攻撃を受けることにした。
お互いの剣がぶつかり激しく火花を散らす。ラルドは何度も何度も攻撃を繰り返した。グレイブは相手の動きがわかっているかのように、すべての攻撃を跳ね返していく。
剣どうしが当たる響きが聞こえてミレイザはそのほうを見た。ラルドが戦っているのが見えた。ミレイザはゆっくりと首を横に振った。『ラルド、わたしのことはいいから、ここから逃げて』と、こころで願った。
その間にもロズバーラの攻撃はつづいていた。ミレイザの腹を何度も何度も蹴りつづける。
「ずいぶんとタフなんだねぇ、あんた。そろそろ飽きてきたよ」
ロズバーラは蹴るのをやめると、指輪から武器を選びはじめた。
「うーん、どれにしようかねぇ」
武器一覧が映し出されてその中のどれを使おうか迷っていた。彼女が吟味しているなか、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。ミレイザはラルドのほうに目をやった。
ラルドを助けなきゃ……。ミレイザは体を動かそうとした。だが、やはりだめだった。ブーメランを張られたところが非常に重く、自由に動かせなかった。
「よし、じゃあこれにしよう」
ロズバーラが取り出した武器はムチだった。そのムチはビリビリと稲妻を走らせていた。彼女はそれをなめるように見てから、ミレイザに向き直った。
「さあ、こいつをくらって耐えられるか、それとも……」
ムチから放たれる稲妻の光でミレイザは目を細めた。
場の空気が変わったことにラルドは反応すると、ロズバーラの持っている武器に目を向けた。彼女がいまミレイザにそのムチで攻撃を仕掛けようとしている。
ラルドはどうにかしてミレイザのところまでいこうと試みた。
「どこ見てんだぁ?」
グレイブの大剣が振り下ろされる。ラルドはとっさに飛び退く。剣の風圧で胸の辺りが縦に切り裂かれた。鎖帷子は切られたが体には当たっていない。ラルドは腰にさしてある短剣を取り出し、そのままグレイブに投げた。
意表を突かれた彼はとっさに大剣を盾として防いだ。
「あっぶねえ……ん?」
グレイブの目の前からラルドが消えていた。足音が後方で聞こえてくる。後ろか! と思ったグレイブは振り向きざまに大剣をなぎ払った。その大剣はラルドの背中をとらえ、真一文字の傷を負わせた。
その痛みに顔を引きつらせながらラルドは階段を駆け上がった。そして、そのままの勢いでミレイザを飛び越し、ロズバーラめがけて剣を振り下ろした。
ロズバーラは持っているムチを振って彼の足に絡ませた。ラルドの体に雷撃が駆けめぐる。
うわああああ! と叫び声を上げながらラルドは地面に倒れた。だが、ロズバーラの攻撃はつづく。
「邪魔なんだよ、少年」
ラルドの足にムチが絡まったことをいいことに、そのまま振り上げては地面に叩きつけ、振り上げては地面に叩きつけた。そのたびに、彼の叫び声が絶えずこだまする。
「あっはっはっ、ぶざまなもんだねぇ、弱いってさぁ」
叩きつけられた地面には血がついていた。それを見たミレイザは震え出した。大きく目を見開き息が上がる。ラルドが殺されてしまう……。そう思うと、自然と力が湧いてくるのを感じた。
早く助けなくきゃ、早く、早く……。
その瞬間、重力に逆らうように全身に思い切り力を込めると、ミレイザは腕を震えさせながら自分の体についているブーメランをはがした。そのあと、ロズバーラに向かっていったが、とてもゆっくりに彼女が動いているように見えた。
地面に叩きつけられる前のラルドも空中で止まっているかのように浮いている。
ミレイザは何回か瞬きをしたが遅いままだった。風に揺れている草や旗などもゆっくりと揺れていた。
ミレイザはその現象を無視して、ラルドの足に絡みついているムチをほどこうとした。雷撃による痛みはなく、軽いピリピリとしたものが手に伝わっただけだった。
ムチをほどくとラルドを離れたところに寝かせて、指輪から回復薬を取り出した。小回復薬しか持っておらずそれをラルドにかけてやった。彼は目をつむったまま苦しそうにしている。やがて、多少痛みが引いたのか表情がやわらかくなった。
ミレイザはそれを見ても安心できなかった。ラルドの背中から血が地面に流れていく。
早く治療しないと……。
背後に気配を感じて振り向くと、彼らが迫ってきていた。グレイブは大剣を振り上げながら走り、ロズバーラはムチを引きずらせながらゆっくりと歩いてくる。
少しずつ周りの速さがもどっていった。ミレイザはまた瞬きをした。ラルドを危険な状況から助け出して多少の安堵を垣間見たため、さっきの状態がだんだんと解けていっているのだ。
速度がもどる。ふたりがそれぞれの武器を振るいながらミレイザのところまで来た。ミレイザはラルドを守るためそこから一歩も動かなかった。
グレイブは大剣をミレイザに思い切り振り下ろした。その風圧で辺りに風が吹く。ミレイザはその影響をものともせずに彼が持つ剣をつかむと、むりやりうばい取り遠くへ投げ放った。
舌打ちをするとグレイブは回し蹴りを放った。ミレイザはそれを手で受け止めて、その足をそのまま押し返した。
彼女に押された足は制御できずに、彼の体ごと弧を描くように吹っ飛んでいった。それから壁に激突して倒れ込んだ。
そのようすを見ていたロズバーラは舌なめずりをしながらニヤける。
「おや? ずいぶんと腕が立つじゃないか。さっきまで蹴られていたはずなのに、まるで効いてないみたいだねぇ、それにあの速さ」
ミレイザは早くここから立ち去りたいと思っていた。ラルドをもっと安全な場所へ移動させたい。そうしないと傷の治療ができない。クロバーの指輪を使えば、通信で回復薬が買える。その時間がほしい。
そんなことを考えながら、後方で横になっているラルドを気にかけては、目の前にいるロズバーラに強い視線を送った。
ロズバーラはムチを地面に叩きつける。するとそこは黒焦げになり穴があいた。
「わたしはねぇ、わたしにたてつくやつが嫌いなんだよ。魔女さまを除いてね」
ふたたびムチを振り上げては地面に叩きつけた。ミレイザはそれを見ても怖がりはしなかった。じっと彼女を見据えている。
「気に入らないねぇ、その目がさ」
ロズバーラは彼女の顔めがけてムチを振った。蛇のようにうねりながら飛んでくるムチをミレイザは手でつかんだ。ビリビリと手から腕に雷撃が走る。
彼女がなんの反応も示さないのを見て、ロズバーラは一瞬目を見開いたがすぐにムチを引っ張った。ミレイザも引っ張り返した。ムチはピンと張り、いまにも切れそうなほど硬直している。
ロズバーラはムチから片手だけ放し、懐からブーメラン数枚を取り出した。その隙をつきミレイザはムチを思い切り引っ張った。するとロズバーラはムチを放し、その勢いで息を吹きかけたブーメランをミレイザめがけて放った。
ミレイザはムチを遠くへ放り投げると飛んできたブーメランをかわした。だが、1枚が手についてその軽さを失った。
ロズバーラはミレイザによって飛ばされたムチを手元にもどした。もともと、ムチにはブーメランを貼りつけていたために自分のもとへもどすことができたのだ。
ロズバーラはそのムチをつかむと今度はミレイザを引っ張った。手に張りついたブーメランが生き物のようにその手を引っ張り出す。ミレイザは踏みとどまろうとするが、重力のようなものに逆らえず彼女の目の前まで引きずられた。
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