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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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38. 底知れぬ強さ

 グレイブは剣を振り上げてラルドの剣にぶつけた。お互いの剣が残響を上げる。二度三度と剣同士がぶつかりあう。グレイブが剣を振るうとラルドはそれをはじいていく。しかし力の差があり、ラルドは彼の剣をよけながら対抗していた。


「ははは、どうした? ガジたちを倒してきたんだろう?」


 グレイブはそう言ってさらにラルドを追い詰めていく。ロズバーラは彼らの戦いを横目に見ながら机や棚を調べている。ミレイザはどうしていいのかわからず、彼らの戦いを見ていた。それは、ラルドが危なくなればいつでも飛び出していけるように。


 ミレイザは心でため息をついた。わたしのせいだ。わたしがここに来なければ。依頼を断っていれば。ラルドを雇わなければ戦わなくて済んだのに。そんなことを感じながら彼女は彼らの戦いを見ていた。表情が自然とこわばる。


 グレイブの猛攻に対してラルドの動きはしだいに遅くなっていった。息を切らしはじめ、機敏さがなくなり攻撃をよけきれなくなっている。グレイブの振るった剣がラルドの鎖かたびらやマントを切り裂いていく 


 そのようすを見ながらミレイザはこぶしをにぎった。


「逃げないのか?」


 ロズバーラは倒れている棚を片手で持ち上げながらミレイザに言った。ミレイザはその声にちらりと目を向けてすぐにもどした。その反応に関係なく彼女は言葉をつづける。


「その少年、やられるぞ。逃げるならいまのうちだ」


 それを聞いてミレイザは目を丸くした。ラルドが目の前で苦しんでいる。助けなきゃ。早くしなきゃ……。そう思っているが動けなかった。


 それは彼の冒険者としてのほこりを傷つけたくないために、助けに行くのをためらってしまうからだ。ミレイザはぐっとこらえて目のまえで起こっていることを凝視した。


「逃げないのか? こんな好機もうないかもしれないぞ。わたしはおまえを襲ったりはしない。忙しいからな」


 ロズバーラは無造作に転がっている机の引き出しを開けて中を確認したあと、部屋の隅のほうの暗がりに目を向けた。指輪から灯し花を出してそこを調べようとしている。


「アリッサさん! ここはぼくに任せて……アリッサさんは外で待っててよ」


 ラルドはグレイブの剣をかわしながら言った。息が上がり徐々に追い詰められていく。グレイブは戦いを楽しんでいるように、ときどき笑い声が口からもれている。


 ラルドに言われてもミレイザはその場を動こうとはしなかった。それはラルドが心配だったからだ。彼をこの場に残して自分だけここを離れてしまったら……と、そんなことを思ってしまい。ピタリと固まったようにミレイザは彼らの戦いから目をいっさいそらさなかった。


 何回かの攻防のすえ、ラルドは壁際に追いやられた。グレイブが剣を振るうとラルドはそれを剣で受け止める。


「はっはっはっ、どうしたどうした。その程度か?」


 グレイブはさらに力を込めて剣を押し当てる。ラルドはその重さに耐えようとしているが、自分の剣が自分の顔付近まで迫ってきていた。グレイブのうれしそうな顔とその手前にある剣がラルドの目に映る。それをにらみ返しながらぐっとこらえているが、剣を持っている手は震えていた。


 ミレイザはハラハラとし出した。


 もう見ていられない。どうして争うの? 早く彼らを止めないと……。そんな思いが彼女の体から湧き上がってきて動かざる負えなくなった。そして飛び出した。


 争うふたりのあいだに風が走った。そのあと、グレイブは吹き飛び壁に激突して倒れ込む。


 ラルドは目の前の相手が急にいなくなり一瞬止まった。それから音がしたほうへ振り向くと、そこには片膝をついて立ち上がろうとしているグレイブがいた。視線をもどすとさっきまで立っていた彼の代わりにミレイザがそこにいた。


「アリッサさん!」


 ラルドは驚いて声をかけた。しかし、ミレイザはじっとグレイブを見つめている。ロズバーラは音が聞こえてちらりとそのほうへ顔を向けた。それから真顔になる。ラルドではなくその手前にいるミレイザを見張るように。


 ミレイザはラルドの手をつかむと走り出した。部屋を出て屋敷の外へと向かう。それを見たグレイブはイラついた表情を見せると愚痴をこぼしながらふたりに追った。ロズバーラはなにも気にせず物さがしのつづきをした。


 手を引っ張られているラルドはミレイザに話しかけた。


「アリッサさんどうしたの? なんで逃げるの?」


 ミレイザはときどき後ろを振り向きながら、彼らが追ってきていないことを確認すると、ラルドの質問に答えた。


「彼らと戦う必要はないわ。もう帰りましょう」

「え? でも、杖とか羽根とかは?」

「もういいの」


 屋敷を出てそのまま階段を下りようとしたところでふたりは転んでしまった。足元を見ると湿り気のある床石に苔が生えていてそれで滑ってしまったのだ。ミレイザはうつ伏せのまま後方を確認したあと勢いよく立ち上がりラルドを立たせた。


「いって……」


 ラルドは膝をすりむいていた。それを見てミレイザは急いで指輪から回復薬を取り出した。


「ご、ごめんなさい」


 ミレイザはそう謝りながら回復薬を彼の膝にかけようとしたとき、屋敷のほうから足音が聞こえてきた。グレイブが勢いよく飛び出してきて数歩でミレイザたちに追いついた。彼はそのまま剣を振り上げて手前にいたラルドに振り下ろす。


 ラルドは足が思うように動かずよけることができなかった。その剣が振り下ろされる間際、ミレイザはラルドの手を引っ張りすばやく彼のまえに出た。その拍子に回復薬が手からこぼれ落ちる。それを気にせず彼の剣を手で止めた。


 ミレイザは剣を止めている指先から力が湧いてきた。なぜ人を切ろうとするの? こんな剣があるからいけないんだわ。とそんなことを思うと、自然とさらに力が湧いてくるのを感じた。


 ミレイザは思い切り剣を引っ張った。意表を突かれたグレイブから剣をうばい取ると、彼があっけに取られているすきにその剣を遠くのほうへ投げ捨てた。


「あっ! 俺の剣が!」


 グレイブは剣が飛んでいったほうへ顔を向けながら手をのばしている。ミレイザはふたたびラルドの手をつかむと駆け出した。


「あ! てめぇ待ちやがれ!」


 そう叫ぶと、ふたりが階段を下りていくのを見て走り出した。彼は階段の上からミレイザたちを飛び越し、ふたりのまえに立ちはだかる。


「まあ、待てよ」


 両手を広げてグレイブは話し出した。


「あんた何者だ? 冒険者か?」


 彼はそう言ってミレイザを注意深く見た。剣をうばい取られたことに対しての疑問がわき、彼女の底知れぬ強さが彼の興味をひかせた。


 ミレイザはなにも言わない。ただじっと彼の目を見ている。すると、となりにいるラルドが代わりに言った。


「驚いただろう。アリッサさんはぼくより強いんだ」

「へえ……」


 グレイブはうなずきながらミレイザを観察した。


 フードと仮面で顔が隠れているが、その奥にある目がじっとにらみつけている。黒のワンピースの上に黒のローブ。その隙間からちらりとのぞかせる手。その色は血の気がないように薄青い。体型はやせ型。これといって強そうには見えない。だが、この独特の不気味な雰囲気がただ者ではないと感じさせていた。


「さっき思ったけどよ。ガジたちをやったのは、そいつだろう」


 グレイブはミレイザを指さした。ミレイザは首を横に振ったが、それをさえぎるようにラルドは答えた。


「ああそうだよ。くやしいけど、ぼくじゃ勝てなかった」

「どおりでおかしいと思ったぜ、おまえと剣を交えたとき、力の差がありすぎるんでな」


 彼の意見にラルドは機嫌をそこねてため息をついた。


 ミレイザは自分がそんなに強いとは思っていない。ただ、目のまえで起こる誰かの嫌なできごとを救える力があるなら、自分がそこへ行き盾になればいい。と思っているのだ。


「違うわ。本当はわたし逃げたかったの。でも、ラルドの戦っている姿を見て勇気がわいたのよ。だから、ラルドはわたしより勇敢だわ」


 ミレイザはそう言うとラルドをちらりと見た。彼女の意見にラルドはほほえんだ。


「ふうん、そんなことはどうでもいいんだよ……」


 グレイブはそう言いながら指輪から新たな剣を取り出した。先ほどの剣よりも細くできている。その剣の刃を下に向けて地面に突き刺した。


「俺が知りてぇのは、おまえの力だ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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