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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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37. 魔女の探索者

「誰だ! そこにいるのは」


 男の声がミレイザたちのほうへ響いてきた。ラルドは急いで首を引っ込めたがすでに遅かった。


「誰かいたのか?」


 女の声がそのあとを追った。舌打ちが聞こえてきて男が答える。


「ああ、ガラスに映ってた。いったい誰がいるんだ? ここは立ち入り禁止だ」


 ガラスを踏みつけながら彼が近づいてくる。ミレイザとラルドはお互いに顔を見合わせた。ミレイザはあせりはしているがどこか冷静だった。ラルドは困った顔をしていたが、息を吸って強い意思のある顔を見せる。


 そしてふたりは勢いよくドアを開けて中に入った。そこは割れたガラスが一面に広がっている部屋だった。割れた窓の外から光が差し込んでいて薄暗い部屋を明るくしている。濃淡がはっきり分かれている暗闇と光。その斜めに光が差し込み、目の前にいる彼らの顔や体を映していた。


 白い鎧に白いマントをつけた男は驚いた顔をしていたが、とたんに眉間にしわを寄せてにらみつけはじめる。ミレイザの身長より頭ふたつ分ほど高い彼は、彼女たちを見下ろし腰に下げている剣の柄に手を添えた。


 彼から数歩離れた場所に立っているのは、白い羽衣をまとっている女だった。ミレイザたちのほうを向いているが、何事も起こっていないように平常を装っていた。


 ラルドは背中にある剣を出そうとしたが、その行動を止めるためミレイザは彼らにわけを話した。


「あの、わたしたちここで友達と待ち合わせをすることになっているですが、誰かここに来ませんでしたか?」


 一瞬の静寂が走り、男と女はお互いに顔を見合わせた。それからミレイザたちをふたたび見ながら男が言った。


「さあな、来てねぇよ」

「そうでしたか。では、わたしたちはこれで」


 ミレイザはラルドの手をつかむと部屋から出ていこうとした。すると、男が数歩前に出て声をかけてきた。


「ちょっと待て」


 その声に反応してミレイザたちは立ち止まる。


「待ち合わせ場所にしては、ずいぶんと物騒なところを選んだな」


 男はふたりを怪しがりながら舐めまわすように眺める。ミレイザは毅然とした態度で振り向き答えた。


「ええ、その友達はここでと言っていたので」

「ふうん、そういえばここに来る前、誰かいなかったか? 町の外に」

「町の外? ……いえ、誰もいなかったわ」

「そうか、いなかったか……」


 気に入らないといったようすで男は奥にいる女に顔を向ける。お互いがなにかを考えたあと、ふんっと鼻を鳴らして男は言った。


「あいつらサボりやがったなぁ」


 すると女のほうが訂正するように返した。


「それはないだろう。もし、命令を無視した行動を起こしたら、どうなるかわかっているはずだ」

「ああそうか、全財産没収だったな」

「そう、その金は魔女さまへと送られる」

「ということは……」


 男はミレイザたちをにらみつけると、剣の柄をつかんで体勢を低くした。


「おまえら、ガジとゾルクを倒してきたな」

「そうさ」


 ラルドはそう言って前に出ると剣を出して構えた。ミレイザはラルドの行動にはっとして、そのふたりをあたふたしながら交互に眺めた。なにかできないか、ここから無事に抜け出す方法はないかと頭の中で模索する。だが、いまにもお互いが衝突しそうな状況を見ると考える余裕はなく、なにかあればラルドを助けるように目を光らせた。

 

「ほう、そんなひ弱そうな体でよくあいつらを葬ったもんだ」

「体の大きさは関係ない」

「そうかい……」


 男はそう言いながら剣を抜いた。長剣が外の光に反射する。それを見てラルドは剣の柄を強く握りしめた。


「俺はガキだからって容赦はしねぇよ」


 その言葉にラルドはムッとしながら相手をにらみ返す。じりじりとお互いがにらみ合い、どちらかが先に攻撃をしかけようとしたところでミレイザが口を開いた。


「待って」


 張り詰めた空気のなか、剣と剣を交えそうだったふたりはミレイザのほうを向いた。


「どうして戦うの?」


 彼女の問いにふたりはふたたびにらみ合った。それから男のほうがイラついたように答えた。


「どうしてぇ? 決まってんだろ。おまえらここにあるアメズイスの遺品を盗みに来た。そうだろ」


 それを聞いてミレイザは首を振った。


「いいえ、なにも盗みになんか」

「嘘つくな。じゃあなんであいつらを倒してまでここに来たんだ?」

「だから、それは待ち合わせを」

「ほかの場所を選べばいいだろ。盗賊どもがいるからほかにしよう。ってさ」

「ラルドを……」


 人質に取られたと言おうとしたが口を止めた。それは盗賊たちをラルドひとりで倒したと彼らは思っているからだ。もしそれを言ってしまうと彼らにラルドが笑いものされてしまうかもしれない。ミレイザは言葉を変えて言い直した。


「ラルドのお金を取られてしまったので」

「ふうん、それで倒してきたわけだ」


 ミレイザはなにも言わず彼の出方を待った。男は後ろにいる女に話しかけた。


「ロズバーラ、どうする? こいつら」


 瓶の中をのぞいている彼女はその瓶を投げ捨てた。


「そうさな、グレイブおまえが相手をしてやれ。わたしはアレをさがしているから」


 それを聞いてグレイブはニヤリとした。それから向き直り目の前にいるラルドに不敵な笑みを見せる。


「と、いうことだ。俺たちの宝さがしの邪魔はさせねぇ」

 

 ラルドとグレイブはにらみ合いながらいつ剣を振ろうかさぐっている。ミレイザは彼らを止めるためにふたたび口を開いた。


「わ、わたしたちはあなたたちがさがしているものなんて興味はないわ。すぐにここから出て行きますから、剣を収めてください」

「ああ? そうしたけりゃあ、そうすればいい。だが、そいつはそうもいかなそうだぜ」


 ラルドは剣を握りしめたまま動こうとはしなかった。ミレイザはラルドに声をかけた。


「ラルド、もういいわ。帰りましょう」

「だめだよ、ここまで来たんだから。アリッサさんの欲しいものってこいつらのさがしているものでしょ。だったらここで引いちゃいけないよ」


 ラルドの言葉を聞いてグレイブとロズバーラの顔色が変わった。ふふふとグレイブは笑うとため息をついた。


「やっぱりそうだろうと思ったぜ。アメズイスの杖がこの町にあることをどこかから嗅ぎつけてきやがったんだな」


 ミレイザは黙った。ラルドが言っていることは本当だからだ。しかし、そんなことはもうどうでもよかった。ここから無事に帰ること。それがさっきまでの望みだったのだ。その望みが絶たれたいま、彼らをどうやって説得させるか、そのことだけが頭の中をぐるぐるとまわっていた。


 にらみ合うふたりが剣を握り直して同時に攻撃をしかけようとしたとき、ミレイザはふたたび彼らを止めた。


「待って!」


 その呼び止めにふたりは彼女のほうを振り向く。彼らはイライラとした表情でミレイザを見つめる。


「魔女ってなに者なの?」


 彼女の質問にグレイブは険しい顔を見せた。ボロボロの本を適当にめくっていたロズバーラはピタリと手を止めた。


「魔女だと?」


 グレイブはそう聞き返して苦笑いを浮かべる。


 魔女の存在を聞いてはいけないのではと、ミレイザは心のどこかで思っていた。だがこの状況をすこしでも長く止めるにはお互いがより興味のある単語を出す必要があったのだ。


「ええ」

「教えてやろうか? あの方はな……」


 グレイブがそこまで言おうとしたとき、瓶が彼の頭に飛んできて当たった。彼はよろめきながら持ちこたえると頭を押さえて振り返った。そこに立っていたのはロズバーラだった。


「いってーな! なにしやがる」

「忘れたのか? 魔女さまの情報を話すと……」

「知ってるよそんなこと。ただ、ごまかそうとしただけだ」

「それもだめだ。見当違いなところから魔女さまに行きつくかもしれないからな」

「そんなことあるわけねぇだろ」

「じゃあ見てみなよ、指輪」

「ゆびわ?」


 グレイヴは自分の指輪にふれた。そこには残高が40万入っているはずが、39万になっていた。それを見た彼はみるみる顔色が変わっていく。


「嘘だろ!? 金が減っている!」


 彼の動揺にロズバーラはくくくと笑った。それから、なぜそうなったのかを彼女は説明した。


「魔女さまの情報は言ってはいけないが基本だ。どんなことでもな、ゆいいつ『魔女』と言いう言葉は話してもいいことになっている。だが、それ以上他人に話してしまうと、金を抜き取られてしまうんだ。金のないやつがそれをしてしまうと、破産し一生金が手に入らないようになってしまう。コインを体に隠してたとしても消えてしまう。契約で知っているはずだ」


 グレイブはロズバーラを見ながら首を振った。


「ちがう、おかしい。俺は『教えてやろうか』と言っただけだ。魔女さまに関する情報はなにも話してねぇぞ」

「おかしくはない。おまえは教えてやろうかと言った。それは『教える』という言葉が入っているから」

「なんでそれで?」

「危ういやつだと判断した。だから金を抜き取られた」


 舌打ちをすると納得いかないようにグレイブはミレイザたちのほうへ顔を向けた。


「その話はなしだ。こうなった原因をおまえらがつぐなってもらおうか!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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