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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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36. ウイザームの町にて

 両側にある壁と壁の通路を進んでいくと。途中からその間隔が10メートルほど離れた道に変わった。そこを進んでいくと右側へ行ける道があり、道はまだまっすぐつづいている。


「あそこの曲がり角を曲がれば、もうすぐウイザームの町だよ」


 ラルドはそう言って先導していく。


 曲がり角へ近づくにつれて、そこの壁が大きく崩れているのが見えた。両方の壁がなく外が見える。角に来て先をのぞいてみると、壁があり左右に道が分かれている。だが、その壁には丸く大きな穴が開いており、先まで見とおせるようになっていた。


「壁がなくなっているわ」


 ミレイザは崩れた壁のふちをさわりながらつぶやいた。


「うん、そうだよ。アメズイスの力で壁が吹き飛ばされたんだ。まっすぐにね」


 それを聞いて、彼女はそのまっすぐ先にあるものをよく見てみた。薄霧立ったものが風によって消え、侵入者を拒むように建てられたいくつもの壁の先に、町の門を確認することができた。


 砕かれた石床から土がのぞいている。ふたりをそこを歩いて行った。


 迷路のように壁があちこちと建っているが、貫かれた道をまっすぐ進むため難なく町の門へと着いた。石でできた門は片方は半分ほど崩れており、もう片方はなくなっていた。町の周囲にある壁は多少残されているが。ほどんどが崩れ落ちている。


「アメズイスの杖と虹色の羽だっけ? さがしているものって」


 ラルドは門のはしから隠れるようにしながらたずねた。ミレイザも彼を見習い、その後ろに隠れて答えた。


「ええ」

「そう、じゃあさっきみたいに盗賊たちがいたら危ないから、ここは慎重にいこう」

「そうね」


 音を立てないようにしながら町に入ると、苔むした壁や崩壊した家などが一層濃くなった。石でできた階段には草つるが這うように伸びている。ところどころ砕かれた石床には剣が突き刺さり、その剣はさびついていた。武器屋などの看板は垂れ下がって、風に揺れながらいまにも落ちそうになっている。


 町の中央にある噴水広場は草が生い茂り、その中央にある小さなオブジェは草つるが伸びて静まり返っていた。


 ミレイザは盗賊に気をつけながら、首を動かしてあちこちと依頼のものをさがした。ラルドは周囲を気にしながら彼女の前を歩く。武器屋、防具屋、道具屋などがたたずんでいるが、ほとんど崩れ落ちており中が見とおせるようになっていた。


 ときどき、バサバサと鳥の羽ばたく音や水のしたたる音、壁が崩れる音が聞こえてくる。そんな音にミレイザはいちいち反応していた。


 アメズイスの杖と虹色の羽、本当にあるのだろうか。とミレイザは思った。もしかしたらもうここにはないのでは? 杖らしきもの羽らしきものをさがしてもどこにも落ちていない。風でどこかへと飛んでいってしまったのではないか。そんなことが頭をよぎると、ミレイザは小さくため息をついた。


 崩れた家の壁や柱などに身を隠しながら進んでいくと広い場所に出た。階段が数段あって、そこを上がり、少し進むとまた同じ段数の階段がある。それが何回かくりかえされていた。


 両端にある壁は高いが崩れている箇所があるため、その隙間から町の外側を見ることができる。


 階段のある広い場所には武器や防具などが落ちていた。どれもさびや破損しているものが大半だった。杖らしきものを見つけたが、ほかにも杖が落ちているためどれがアメズイスの杖かわからない。杖も折れたり欠けたりしているものがほとんどである。


 ミレイザは近くにある杖を手に取ってみた。するとボロボロと崩れ落ちてしまった。


「アリッサさん、どんな杖か聞いてこなかったの?」


 ラルドは落ちている杖を拾い上げては捨てていった。ミレイザは辺りを見まわしてそれらしいものをさがそうとしているが、どんなものなのか見当がつかないでいた。


「ええ」

「そうなんだ」


 そうやって、さがしているうちに階段の上まで来た。目の前には大きな屋敷が廃屋とかし、そこにたたずんでいた。玄関までの道はレンガで舗装されているが、ところどころ砕かれていたり穴が開いていたりした。


 玄関はドアが奥へと吹き飛ばされていた。屋敷の窓という窓は割られていて、カーテンが引き裂かれているものが風に揺れていた。屋根は穴が開いており、大きな何者かに食い破られたようになっている。


 それを見てラルドは指をその屋敷に向けて言った。


「あの中へ行ってみよう」


 ミレイザはすぐに返答はしなかった。屋敷のたたずまいを見て不安を感じたのだ。もしかしたらまた盗賊がいるかもしれない。中にあるものを物色しているかもしれない。そうなると彼らと争わなければならなくなる。話しても通じる相手じゃないかもしれない。もしかしたらさっきと同じような展開になってしまうかも。


 そんな不安がよぎると、ミレイザはラルドを呼び止めた。


「待って」


 ラルドは振り返り驚いた顔を見せた。


「どうしたの?」

「中に盗賊がいるかもしれないわ」

「盗賊? ならやっつければいい」

「また、さっきみたいに危険な目にあうかもしれないわ」

「うーん……でも、中にあるかもしれないよ。例の物がさ」


 危険な目にあうことと、マビポットから依頼された約束。どちらを取るかミレイザは考えた。でも、考えるまでもなく、ラルドを危険な目にあわせるわけにはいかないと判断した。


「引き返しましょう」

「え?」


 ミレイザは振り返り来た道を帰ろうとした。呆気にとられながらもラルドは彼女の腕をつかんで呼び止めた。


「ちょっと待ってよ」


 ラルドは彼女の顔をのぞき込んだ。仮面の奥にある瞳は充血していた。ミレイザは彼から目をそらすと首を進むほうへ向けた。


「疲れたの?」

「いえ」

「……そう、目が疲れているみたいだからさ」

「この先に行けば、また盗賊たちがいるかもしれないわ。だから引き返しましょう」

「え? でも依頼は?」

「できなかったって言うわ」


 ラルドは目の前にある廃屋を見てからまたミレイザに顔をもどした。その顔は納得いかないように眉間にしわを寄せている。


「たしかにぼくは冒険者としてまだまだ未熟だけど、アリッサさんを最後まで護衛するよ。この命に代えても」


 そう言って、自分の胸を一度叩いた。そして彼女から手を放し、軽い笑みを見せながら胸を張った。


 ミレイザは彼のしぐさを見て、その体が輝いている感じがした。これから先の彼の行動を自分が止めてしまったら、彼自体が納得のいかないものになってしまうかもしれない。


 ここで止めたら……。


「危険かもしれないわ。それでもいいの?」

「大丈夫だよ、ぼくは。それに盗賊なんていないかもしれないし」


 どこか自信に満ちたラルドの顔を見ていると、どうしても彼の思うようにしてやりたいという思いが出てきてしまう。だから、ミレイザは先へ進むことを選んだ。もし、彼が危険な目にあったら、わたしが絶対に助けるようにする。と誓って。


 当然ミレイザにとっても恐怖心がないとは言い切れなかった。本当は争いたくない。ラルドを見殺しにしてしまうかもしれない。自分の体が信用できない。もしかしたら我を忘れて……。


 ミレイザは首を振った。それから目の前にある廃屋を見据える。


「わかったわ。行きましょう」

「うん」


 ふたりは玄関先までゆっくりと歩いた。できるだけ足音を立てないように耳を澄ましながら前へと進む。玄関に着くと開いているドアの窓が割れていてその破片が玄関ホールに散らばっていた。


 中は破れた絵画。砕けた壺。倒れた棚などが散乱していた。ゆっくりな動作でも軽いほこりが舞い上がるほど汚れている。


 そんな家具を見ていくと、ぼそぼそと奥の部屋から声が聞こえてきた。ミレイザとラルドはお互いに目を合わせて一瞬止まった。それからミレイザは指を一本立てて声を出さないようにうながした。ラルドはうなずいてその声のするほうへ進んだ。


 両開きのドアが半分ほど開いていて、そこから声がもれてくる。そーっとふたりは近づいてその隙間越しに聞き耳を立てた。


「……るのか? 見つからねぇな」


 男の胴間声が聞こえてきた。そのあとにつづいて女のかすれた声が答える。


「ここにあるはずだが、もうすこしよく調べよう」

「杖はもう見つかったんだがなぁ」


 杖と聞いてミレイザとラルドはお互いに目を合わせた。ドアの向こうから物を動かす音。なにかを投げてそれが割れる音が聞こえてくる。


「しかし、勇者ってやつは手強かったんだな。アメズイスがやられちまうとはよ」

「大魔王の側近であるそいつは強い魔力を持っていた。この町を滅ぼすほどの威力のある魔法」

「だがやられた。信じられん」

「もう、ずいぶん前の話だ。そんなことよりさっさと見つけるぞ」

「そうだな、早くしないと魔女さまになにを言われるかわかんねぇからなぁ」


 魔女さま!? ミレイザはその言葉を聞いてはっとした。そこにいる彼らは魔女の部下かなにかで活動している者たち。ピサリーがさがしている魔女。その関連の情報を持っている者が目の前にいる。でもどうやって彼らの前に出るか彼女は迷っていた。


 杖を見つけてさらになにかを見つけようとしているものは、たぶん虹色の羽に違いないとミレイザは思った。ふとラルドを見ると、ドアの向こうをのぞこうと首を出そうとしている。ミレイザはとっさに彼の肩に手を置いてその行動を止めた。ラルドは振り向いて驚いた表情を見せると小声で言った。


「行かないの? 早く行かないとあいつらに杖を持っていかれちゃうよ」

 

 それからまたのぞうこうとしている。ラルドの背中を見ながらミレイザは考えた。ドアを開けて中に入っていけば彼らはどう思うだろう。観光でここへ来たと言っても通じないだろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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