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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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35. 鐘楼塔での戦い

 ミレイザはピサリーとの通信を終えすぐに走り出した。金銭を要求してきた盗賊がいる場所まで。見上げると遠くのほうに時を知らせる鐘楼塔が見える。彼女はそこを目指した。


 時間的にギリギリだった。ここまで走ってきた時間。ピサリーとの通信時間。ここからあの場所までもどる時間。指輪にふれて時計を見ると12時45を過ぎていた。


 早くしないと……。


 ミレイザは走った。より足に力を込めて飛ぶように走る。想像していたより体がそれ以上の速度で動いた。風を切るようにとても速く。


 入り組んだ塀を走り抜けていく。そして、盗賊たちが待っている場所にたどり着いた。その足音に気づき盗賊たちはそのほうへ顔を向ける。彼女の姿を確認すると不敵な笑みを見せた。


 ラルドは両手両足を紐で縛られて地面に膝をついており、ゾルクが彼の首に鎌の切っ先を向けている状態だった。


 鐘楼塔から鐘の音が鳴り響く。


「ほう、時間どおりに来たってわけだ。ちゃんと持って来たんだろうなぁ」


 ミレイザは黙ってうなずく。それを見たガジは手を前に出してお金を要求してきた。


「じゃあ、渡してもらおうか」


 はははと彼は笑う。ミレイザは自分の指輪をちらりと見たあと、ふたたび視線を目の前にいるガジにもどした。


「その前にラルドを放して」


 予想外の言葉にガジは目を見開き、それから小さく笑った。持っているこん棒を担ぎ上げて肩に乗せると呆れたように言った。


「わかってねぇようだな……」


 ガジはゾルクを見ると首を動かした。その合図で彼は鎌をラルドの喉もとに押しつけようとした。


「待って!」


 ミレイザはとっさに止めた。ゾルクはそれに従い手を止めるがラルドの喉に鎌の先端が引っかかり傷を負わせた。血が首筋にしたたり落ちる。痛みをこらえラルドは歯を食いしばりながら前方見据える。


「おっと悪いな、ちょっと傷つけちまったか」


 ガジはニヤリとしながらその痛々しい傷を眺めた。


 ゾルクは無表情のまま、いつでもラルドを仕留めようと鎌を首に押しつけようとしている。ミレイザはその流れる血を見た。それからくやしそうにしている少年の顔を見た。


 ……わたしのせいだわ。とミレイザは目を見開き自分の情けなさに激怒した。とたんにわなわなとしだす。助けなきゃ、助けなきゃと念じるようにラルドを捕えている者に目を向けた。悶々とする気持ちとあせりが生じて、ミレイザは急いで指輪から5万コインを取り出した。


「さあ、早く5万リボンを渡してもらおうか!」


 ガジは威嚇するようにこん棒を地面に叩きつけた。その衝撃で地面に穴が開く。


 ミレイザはコインを投げたと同時に走り出した。コインがガジの手の中に入るか入らないかという瞬間、ミレイザはラルドまで駆け寄っていた。


 ガジとゾルクはミレイザが一瞬消えたと思った。コインを握りながら突風のような風が吹いたほうを見ようとした。近い距離にいるその彼女の背中が無防備だったため、こん棒を振り上げる。


 ゾルクは目の前に突然彼女があらわれて一瞬固まった。ミレイザは彼が持っている鎌の刃をつかむとラルドから引き離した。その勢いでゾルクは宙を舞い、彼女の背後に着地した。


 ミレイザは彼に振り向くとガジのこん棒が目の前に来ていたのに気がついた。それを手でつかむとガジからむりやりうばい取ろうとした。だが、お互いがそれを譲らなかった。


 ガジは両手でこん棒をつかみ、彼女から取り上げようとしている。それを見ていたゾルクは彼女から鎌を離させるために鎖を引いた。ミレイザは鎌を取られないように引っ張り返す。


 お互いの力によって鎖がピンと張り、真ん中から千切れて勢いよく離れてしまった。それと同時につかんでいる鎌の刃は砕け散った。


 ガジはこん棒から片手を離して、ミレイザに殴りかかろうとした。彼女はそれに気づきこん棒を両手でうばうと彼の腹に叩き込んだ。ふわっと巨体が飛びそれから壁に激突した。


 ゾルクはそれを見てすばやく指輪から武器を取り出そうとしたが、ミレイザは彼に向かってこん棒を投げた。目に見えないほどの速さで飛んできたため、彼はそれをよけられず、こん棒に腹をえぐられながら壁に激突した。


 盗賊ふたりは倒れたまま起き上がってこない。それを確認するとミレイザはラルドの紐をほどいた。


「ありがとう、お姉ちゃん強いんだね」


 一部始終を見ていたラルドは起き上がりながら言った。

 ミレイザは黙って首を横に振る。それから「怪我してるわ」と言って、指輪から回復薬を取り出そうとした。


「あ? うん、へーきだよ。このくらい」


 ラルドは喉の傷を手で拭った。しかしその痛みで顔を一瞬ゆがませる。手の甲に血がべたりとつきため息交じりに、さらに嫌な顔をした。


 そんな彼の行動を見ていられず、ミレイザは小回復薬を取り出して彼にかけた。傷がふさがり彼は表情をやわらげた。


「あ、ありがとう、お姉ちゃん」


 ラルドはうれしさと恥ずかしさの混ざった顔をしながら、剣を拾い上げて背中にある鞘にその剣をおさめた。


「それじゃあ、先へ行こうか」


 彼の言葉にミレイザはうなずき歩き出そうとした。ふと、ガジに渡した5万リボンを思い出して、それを取り返そうと彼のところへ近寄る。うつ伏せで倒れている彼の手にはなにも握られていなかったが、指にはクロバーの指輪がはめてあった。


「どうしたの?」


 ラルドが振り返りミレイザに言った。彼女がガジの体をさぐろうとしているのを見て、あわてて止めに入った。


「お姉ちゃん! あぶな……!」


 そう言い終わる前にガジは彼女の手をつかんで、「やれ!」と叫んだ。それに合わせてゾルクは鎖のついた鉄球を振るう。ミレイザは振り向きその武器を捉えた。が、すでに遅く背中に鉄球がめり込み吹き飛ばされ、そのまま壁に激突した。


 ガジは立ち上がると指輪から大剣を取り出して構えた。彼のほくそ笑む姿に怒りを表し、ラルドは剣を握って立ち向かった。しかしゾルクが鉄球の鎖を彼の剣に巻きつけ取り上げてしまい、その剣は彼の手に渡った。


 ラルドはゾルクをにらみつけると、短剣を取り出して彼に飛びかかっていった。それを見てゾルクはさっき手に入れた剣を彼にめがけて投げつける。剣は切っ先をラルドに向けながら、その体の心臓を突き刺そうとしていた。


 ミレイザはその瞬間。ラルドが剣で貫かれる様を想像してしまった。あと数秒も満たないあいだにそうなることが現実になってしまう。とたんにざわざわと湧き上がる震えとあせり。助けなきゃ。あの剣を止めなきゃ。そう思うと同時に飛び出した。


 ガジはこの瞬間を待っていた。彼女が彼を助けに行くときを。大剣をミレイザの体めがけてなぎ払う。だが、彼女はその大剣の振るう速さより速くそれをとおり過ぎていた。


 ラルドの体まで数センチのところでその剣をミレイザは止めた。彼女の風圧でラルドは地面に尻もちをつく。それに気づいてミレイザは彼に手を差し伸べようとしたとき、鉄球が彼女の脇腹に当たり吹き飛ばされそうになった。


 ここで体を飛ばされてしまうと、ラルドがまた危険な目に遭ってしまう。


 ミレイザはそうならないように剣を地面に突き刺し足に力を入れて踏みとどまった。脇腹にめり込んだ鉄球をつかむと思い切り引っ張った。するとゾルクは負けまいとして引っ張り返す。鎖がピンと張った状態でミレイザは彼に鉄球を投げ返した。


 鉄球は彼の腹にめり込みそのまま壁に激突し、その壁はへこむみ崩れ落ちた。ゾルクは倒れたまま動かない。


 走ってくるガジに気づきミレイザはそのほうへ振り向くと立ち向かっていった。

 ガジは剣を高々と振り上げる。


 その瞬間をねらいミレイザは彼の後ろへ回り込むと、彼の背中を抱えるようにしてつかみ、背を反るようにして思い切り放り投げた。ガジは空中で身動きができず壁のてっぺんにぶつかり、仰向けのまま地面に叩きつけられた。


 ミレイザは彼らを見張ったが、ガジもゾルクも起きる気配はなかった。


 そう感じたのは彼らの息づかいだった。まわりの音を気にせず彼らの呼吸だけに耳を集中させて聴こえてくる、その音。気絶をして眠っている状態だと判断したのだ。


 ふと、ラルドを見ると、まだ尻もちをついていた。ミレイザはふたたび彼に手を差し伸べる。


「あ、ありがとう」


 ラルドはお礼をして立ち上がり突き刺さっている剣を引き抜くと、ミレイザをじっと見つめた。その風貌やその存在感が強く印象に残り、ただ者ではないと感じた。


「怪我は?」


 ミレイザはラルドの体を見てたずねた。彼は自分の体を適当に確認すると首を振り答えた。


「へーきだよ。お姉ちゃんは?」

「ええ、大丈夫よ」

「本当に? すごいなぁ、あんなに痛い目にあったのに。それにあの力」

「それより先へ行きましょう」

「ん?」

「ここにいると危険だわ」


 ミレイザはふたたび彼らに目を向けた。さっきと同じように彼らは横たわっている。ラルドも彼らの気絶している姿を見てうなずいた。


「うん、そうだね。早く行こう」


 ふたりはその場から先へ進もうと歩き出した。するとミレイザは忘れていたことを思い出して振り返る。「すこし待ってて」と言い残して、すばやくガジのところまで来ると彼の指輪を外して、その指輪を自分の指にはめた。


 ガジの指輪を調べてみると7万リボンの残高が表示されていた。そこから5万リボンをコインとして取り出し自分の指輪に入れると、彼に指輪を返しラルドのもとへともどった。


「行きましょう」

「うん」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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