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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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33. 都合の悪い約束

「待てよ」

「ん? どうした?」

「その切り抜き、あたしに見せてくれないか? 本物かどうか確かめたい」

「ふふ、それはダメだ。もし見せたら燃やすかもしれないだろ。お得意の火の玉でさ」

「燃やさない。約束する」

「おいおい、なんか必死だなぁ、先生に見せちゃいけないのか?」

「なんで見せる必要がある」

「ピサリーが映っているからさ」

「それを見せてどうなる?」

「さあ、それは先生しだいだ」


 ヨチリオはまた歩き出す。ピサリーはどうにかしてそれを阻止しようと考えた。


 透明になって気づかれないように盗み取るか、力ずくでうばい取るか。ピサリーは杖を出そうとした。だが、優等生に攻撃をしかけてもすぐにやられてしまうだろう。その騒ぎを聞きつけてまたローゼリスがここへやってくる。そうなるとよけいに悪いほうへ転がってしまう。


 下手に動けばミレイザがゾンビだと知られてしまう。ゾンビが存在しているとわかったら、ここにいるやつらはミレイザをさがし出して仕留めてしまうだろう。使い勝手のいいやつがいなくなるのは困る。


「おい!」


 ピサリーはヨチリオを呼び止めたが彼女は歩行を止めなかった。


「そこに映っている女、あたしの知り合いだ。紹介してやってもいい」


 その言葉に反応してヨチリオは足を止めると振り返った。驚いた顔をしながら彼女はその珍妙な台詞に返答をする。


「本当に? 本当に知り合いだったの?」

「ああ」

「へぇー、こりゃ驚いた。ピサリーにお友達がいたとはね」

「べつに友達じゃないし」

「でも、知り合いなんだろ?」

「ああ」

「うーん、その女の人を紹介してもらってもなぁ……あたいは、ただ言ってみただけだからさぁ」


 興味なさげに言うと懐から切り抜きを取り出してもう一度見直した。


「まあ、ピサリーが珍しいことを言ってきたからなぁ、ここは紹介してもらおうかな」

「そうか、じゃあ今度紹介してやるよ。ただし、その切り抜きをこっちによこせ」

「切り抜き?」


 ヨチリオはそこに繰り返し流れている映像をしばらく見たあと眠そうにあくびをした。これを見せに先生のところまで行こうとしたが、彼女はそれが急に面倒くさくなり早く切り上げたくなった。


「本当に紹介してくれんだろうなぁ」

「ああ」

「わかったよ。これを上げる代わりに、ひとつ頼みたいことがあるんだ」

「あ? なに」

「撤去作業を手伝ってよ」

「……わかった」


 ピサリーの返事にヨチリオはほほえんだ。

 これから面倒な作業をしなければならないと思いながら、ピサリーはだるそうに息をつく。


「おーいアヤリ、ピサリーも手伝うってさ!」


 ヨチリオの声にアヤリは読んでいた本を閉じて立ち上がった。彼女は退屈になるとすぐに本を読む癖がる。手持ち無沙汰になるのが嫌な性格のため、本がないとそわそわとしてしまう体質なのだ。


 こうして、ピサリーを入れた3人で撤去作業がはじまった。小物系はあらかた片付いていたため、大物が残されていた。大きな柱の場合、ヨチリオとアヤリは魔法レベルが高いため両端を担当することに。ピサリーは彼女たちより魔法レベルが低いので、彼女たちのあいだを受け持つこととなった。


「よーし、じゃあ持ち上げるぞー」


 3人はそれぞれの杖を出して柱に向ける。それから、ヨチリオの号令で一斉に浮かび上がらせる魔法を出した。杖からは風が吹き出てその風圧で持ち上げる。柱に風が巻きつき柱を浮かせた。


 そういった作業が何回かつづいた。一作業終えるたびにピサリーは「疲れた」と言って休もうとする。だが、ヨチリオにむりやり立たされて続行させられた。


 長方形に砕かれている家の壁を3人は運んでいた。横並びに歩きヨチリオとアヤリは両端を担当するため向かい合わせになった。そのあいだにピサリーが入る。退屈な作業の繰り返しに飽きを感じてきたヨチリオは、適当に話をしはじめる。


「なあ、ピサリー」


 ピサリーはヨチリオをちらりと見ただけでなにも答えない。どんな話題で話してくるのかわからないから、興味をなくせるように聞いてないふりをする。


 こういった、よく話しかけてくる者がいると気骨が折れる思いをするからだ。だからわずらわしく感じ、口を結び突っぱねようとする。それでもヨチリオは構わずにつづけた。


「ピサリーの知り合いって、なんて人なんだ?」


 探求心旺盛なようにヨチリオは目を輝かせて薄っすらと口角を上げる。なにかを話さなければいつまでも見てくる。そんな圧力に耐えられなくなり、ピサリーは仕方なく声を出した。


「……さあ」

「あれれ? あの切り抜きに映ってた女の人だよ。名前は?」

「なんで名前なんて知りたがる?」

「おいおい、これからピサリーにその有名人を紹介してもらうんだろ。名前ぐらいは知っておかないとさぁ……紹介してくれるんだろ?」


 ヨチリオは彼女の言動に不審を抱きながら目を細める。


 それを感じ取ったピサリーは「はぁ」っと息をもらす。ミレイザを紹介すれば彼女がゾンビだとわかってしまう可能性が出てきてしまう。ここはいったん白を切ろうと考えたが、そんなことをしてもむだだと思った。


 それは町にミレイザの映っている新聞が撒かれているからだ。新聞は月に料金を払っている者だけに配られる。しかし、ヨチリオはその新聞を持っている者をたずねては聞きまわるだろう。そうなれば、ますますミレイザの正体に近づいてしまう。できるだけ最小限に事を抑えたいピサリーは、やむおえず名前を教えた。


「アリッサだ」

「アリッサ? ふーん、アリッサさんかぁ」

「ああ」


 するとヨチリオはニイっと笑みを見せて、ピサリーの向こう側にいるアヤリに言った。


「アヤリ、アリッサさんだってさ」

「そう」


 アヤリはそっけなく答える。彼女は誰かの交友とか心情を知りたくはなかった。それはなにかに巻き込まれて自分の大事な時間を取られるのが嫌だったからだ。


 だが、ヨチリオみたいに強引に自分の中に入り込もうとすると、嫌とは言えず、ただ従うだけになってしまう。断ることができないのだ。もし断ればそれが原因でまたよけいな面倒ごとに巻き込まれてしまうと思っているために。


「ん? アヤリは興味ないのか? ピサリーのお友達のこと」

「……すこしある」

「そうだろ。あたいもなんだか興味出てきちゃってさ。どんな人なんだろうな」

「そうね、きっと優しい人じゃない」

「優しい人かぁ」


 勝手に言ってろ。とピサリーは思った。


 もし、このままの勢いでミレイザを紹介する羽目になったら、どこかでボロが出てしまい、ゾンビと一緒に行動していることが知られてしまう。ゆいいつの救いは、ミレイザが完全なゾンビじゃないことだ。そこをうまく利用するしかない。


 ピサリーはそんなことを考えながら、両脇にいるヨチリオとアヤリに目だけを交互に送った。


「それで、いつ紹介してくれるんだ?」


 ヨチリオはなんの疑いも見せず聞いてきた。


 ミレイザはいま、骨董屋のマビポットを尾行しているはずだ。だから今日はやめてもらおうか……。


 そこまで考えるとピサリーはふと思いついた。ミレイザとふたりで会うよりは、マビポットと一緒にいたほうが都合がいい。今日、彼女に魔女の居場所を教えてもらう予定だ。高級料理屋に集まることになっているから、そこにこいつらを呼び寄せてミレイザから気を逸らしてもらう。魔女の内容を出せばおのずとそっちへ気が向くだろう。


 とにかく、あたしとミレイザふたりだけでこいつらに会うのは危険だ。



 入学当時から彼女たちとは大した絡みもなく、ピサリーにとっては底の知れないあいだがら。気軽に声をかける生徒は誰もいない。その中でも、スタープリルとリタメリーはなにかと突っかかっていた。


 ほかの生徒たちは、ピサリーとはなるべく関わりあわないようにしていた。


 それは彼女の態度に問題があった。最初の自己紹介のとき、生徒たちは各々の趣味や特技などを紹介していたが、ピサリーは誰の話も聞かず横になり寝息を立てはじめてしまう。


 ローゼリスにむりやり起こされ、自己紹介をうながされて言った言葉が『ピサリーだ』という一言だけだった。



「今日はどうだ?」

「きょう!?」

「ああ」

「今日かぁ、あたいは構わないけどさ、アヤリは?」


 都合を聞かれてアヤリは軽くうつむき考えた。ちらりとヨチリオに目をやると、捕らえた獲物を逃さないようにじっと見つめてくる。その圧力に耐えらえなくなり仕方なく答えた。


「べつにいいけど」

「いいってさ」


 それを聞いて、ピサリーは彼女たちに待ち合わせ場所を教えた。


「そうか。じゃあ、今日の20時、ダリティアにある高級料理屋に来い」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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