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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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29. 依頼の誘惑

 ここでただ立っているのも不自然に思われるかもしれないと思い、ミレイザはまた近くの長椅子に座って考えようとした。


「お客さんかい? いま開けるから待ってて」


 後方から声が聞こえてミレイザは振り返る。そこにはマビポットがいてポケットから鍵を取り出して見せた。


 ふたりは目が合う。するとマビポットは彼女だとわかり声をかけた。


「あっ? あんた、たしかアリッサ」


 ミレイザはあわてて下を向いて顔をそらす。それから他人のふりをしようとしたが、昨日と同じ格好をしているため否定できずに返事をした。


「はい」

「なにか気になるものでもあった? いま開けるよ」


 マビポットはミレイザのわきをとおり店のドアを開けた。


「さあ、入りなよ」


 中に入ると自動的に明かりがついた。ふと、ミレイザは石壁に貼られている紙に目を止めた。『募集、北の廃墟でアメズイスの杖を手に入れてほしい。報酬の相談は店主まで』と書かれている。


 報酬……。ミレイザはその文字に注目した。


「気になるかい? その貼り紙」

「え?」


 その言葉にわれに返ったミレイザは貼り紙から目をそらし顔をそむけた。

 マビポットは構わず話をつづけた。


「昨日、閉店間際に入ってきた依頼なんだよ。ここの店はこういった依頼も引き受けているんだ。どこからか噂を聞きつけた一般人が依頼しに来るんだよ。『これをさがしてほしい』とか『これを取りに行ってほしい』とかさ」


「そうなんですか」


 ミレイザは貼り紙をちらちらと見ながら答えた。その行動にマビポットは頬を緩ませる。


「そう、そしてうちに来たお客さんがそれを見て依頼を引き受けたりするんだ。腕に自信のある者や冒険者なんかがさ」

「へぇー、そうなんですか」


 ミレイザは興味なさげにそこから離れて店の奥へ行こうとした。その背中をマビポットはにんまりしながら見送った。それから彼女の前にすばやく移動してその歩行を止めた。


「な、なんですか?」

「あんたさぁ、ひょっとして、そこの依頼受けたいんじゃないの?」

「えっ!?」

「そういう顔をしているよ」


 ミレイザは顔を隠すように下を向き、わずかに唇のはしを引きしめる。それを見たマビポットはふふふと笑い彼女の真意を引き出そうと話しだした。


「あの貼り紙に興味がないんなら、じっとは見ないはずさ。なにかが引っかかりそれに興味を持った。だからその場から離れられず目が釘付けになったんだ。違うかい?」


 彼女の圧力に押されながらもミレイザは小声で答えた。


「違います」

「じゃあ、どうしてそんなに注意深く見つめていたんだい?」

「それは……アメズイスっていう言葉に……」

「アメズイス?」

「はい、その言葉が気になったので、それで」


 その場を切り抜けようとして書いてあった文字を伝えた。それからミレイザは手を組んでもじもじと手をさすった。なにか不安があると、ふいにそういった行動を取ってしまうのだ。


「ああ、名前? えーっと、大魔王の部下の名前だって。その杖が廃墟に置かれているらしいんだってさ」

「大魔王の部下?」

「まー、本当か嘘かわからないけどね。そう依頼人は言っていたよ」

「そうなんですか」

「ところでさ、あんた。この依頼受けてみない?」

「えっ!?」


 マビポットは懐から紙を取り出した。それは朝、町で男たちに見せられた新聞の切り抜きだった。


「これ、あんただろ?」


 突然のことに対応できず、ミレイザは小刻みに首を振るだけで精いっぱいだった。


「ははは、バレバレだよ。ほら、ここに……」


 彼女はその映像の一角に指をさした。


「ピサリーがいるじゃないか。あんたの連れだろ? それにルピネスも」


 自分がここに映っている者を自分ではないと言い切るのは無理があった。彼女にあったときに自分をアリッサだと認めてしまったからだ。そこに映る服は違くても、もう言い逃れることはできないと思い、ミレイザは目を閉じて唇をかみしめた。


「あんた、見かけによらず強いんだね。そこで相談なんだけどさ……」


 それから彼女の口車に乗せられてミレイザは依頼を受けることになった。


 ダリティアから北に行ったところに廃墟がある。そこはウイザームという町で、その建物の中のどこかに杖が置かれているらしいという。


 その場所の地図を渡されてから報酬の相談に移った。


 マビポットは最初1万リボンという額を提示してきた。しかし、ミレイザは首を横に振った。それは服の修理代2万5000まで報酬を吊り上げなければならないからだ。

 

 依頼人からの報酬は提示されておらず、杖を見てから決めるという条件で引き受けたものだった。


 依頼人から受け取れる額は交渉で1万くらいはもらえると彼女は踏んでいる。報酬から2割をマビポットがもらうことになっているため2万5000では少ない。そのため3万の取り引きをミレイザは提示した。


 マビポットは数分考えたあとミレイザに条件を出した。それは、そこにある杖ともうひとつあるものを取ってきてほしいということだった。


「あるものですか?」


 ミレイザは困惑した表情で聞き返した。


「そう、それは虹色の羽だ」

「虹色の羽?」


「大魔王は部下たちにひとつずつ自分の私物を渡しているらしい。なぜそんなことをするのかわからないけど、それはとても重要なものに違いない。それを取ってきてほしいんだ。勇者たちがアメズイスを倒したとき、そこに落としているかもしれない。彼らがそれを拾って帰らなければね」


「どうして、そんなことを知っているんですか?」

「あ? ははは、ここは骨董屋だけど情報屋でもあるんだよ。大魔王に関してはつねに調べているんだ。彼が生前のときからね。商売していればそういった情報は入ってくるんだよ」

「そうなんですか」

「そう、もし虹色の羽を取ってきたら3万でいいよ」

「……わかりました」



 こうして、ミレイザはアメズイスの杖と虹色の羽を取ってくるため、北の廃墟に向かうことになった。町を隠れるようにして歩きダリティアを出る。


「あっ! そこのローブを着た人、ちょっと待って」


 すると門のところで誰かに呼び止められた。振り向くと鎖帷子を着てマントを羽織り背中に剣を背負っている小柄の男が立っていた。


 くせ毛でエメラルドの髪の少年。見た目13歳くらいの印象をしている。


「お姉ちゃんさ、ひとりで外を歩くつもり?」

「え? ええ」

「だめだめ、外は危険だよ。ぼくが護衛をするからぼくを雇わない?」


 にこっと少年はほほえんだ。ミレイザは苦い顔をして顔をそらした。


 町の外を歩くには冒険者を雇わないといけないわけではない。しかし、なにが起きるかわからないため大抵の者は冒険者を雇う。

 

 ミレイザはそのことをすっかり忘れていた。町の外へ行くときはいつもピサリーがいたから気にしていなかったのだ。少年を見ると腕を組んで待っている。


 冒険者を雇うにしてもそんなお金は持っていない。彼を雇うとするならいまのお金では足りないかもしれない。辺りを見ると冒険者と一緒に町の外へ出て行く者たちが目についた。冒険者を先頭にしてその後ろを歩いていく。


 ミレイザが黙っていると少年はしびれを切らして言い出した。


「お姉ちゃんさ、もしかしてぼくが冒険者じゃないと思っているんでしょ」


 少年は背中にある剣を取り出して振り回しはじめた。軽い身のこなしで剣を自分の手足のように扱っている。


「これでどう、ぼくは冒険者だよ。たしかにモンスターとは戦ったことはないけど、そのときまだ小さかったから、でも、狂獣ならやっつけることくらい簡単さ」


 それから剣を収めてつまらなそうに下を向いた。さっきまでの元気が急になくなったようにしょんぼりとしている。


「去年学校を卒業して冒険者として働こうとしているけど、ぼくみたいな子どもは誰も雇ったりはしないんだ。依頼料は安くしているのに。わかる? 体が小さいから頼りないように見えるんだ。本当はそんなことないのに。モンスターと戦った経験がなくてもさ……」


 少年はこぶしを握り力を込めた。くやしいという気持ちがその肩を震わせている。


 ミレイザは彼を連れていくか迷っていた。彼の気持ちを聞く前までは、ひとりでもいいと思っていたのだ。しかし、その少年の歯をかみしめている表情を見ると放っておけない気持ちになってしまう。彼を連れて行けば間違いなくお金はなくなる。貯金すら残らないかもしれない。


 でも、ミレイザは彼を連れて行こうと決心した。


「いくらなの?」

「え?」


 彼女の言葉に驚きを見せると顔を上げた。少年は目を丸くしてミレイザを見ている。それから自然に笑顔になるとあわてながら答えた。


「ああ、えーっと、最低額の1000リボンだけど、お姉ちゃんには特別に500リボンでいいよ。最初のお客さんだし」


 ミレイザは指輪にふれて正確な残高を確認した。1300リボン入っている。500リボン払うと残りは800リボンになる。となると……足らない。


 虹色の羽を取ってきたとして、マビポットから3万をもらう。そこから2割を彼女に支払うから、6000を抜き取られる。すると2万4000が報酬額としてもらえる。


 全額をあわせても2万4800リボン。服屋での修理代が2万5000だから200足りないことになる。


 200のために少年の護衛を断るわけにはいかないし、それにもう遅い。お金が足りないからと言って断ったりしたら、少年はまたくやしそうな顔をするだろう。そんな顔をさせるわけにはいかない。


「わかったわ」

「本当? じゃあ、コインでくれないかな。ぼくクロバーの指輪は持ってないんだ」


 少年は手を開いて指を見せた。ミレイザはうなずくと指輪から500コインを取り出して彼に手渡した。


「まいどあり」


 少年はお金を懐にしまうと自己紹介をしてきた。


「ぼくはラルドっていうんだ。よろしく」

「わたしはアリッサ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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