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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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28. 理不尽な罠

 ミレイザは骨董屋に向かった。その歩いている途中、自分を見ている人がちらほらと目に入った。新聞に載った例の彼女をさがしているのだろう。


 フードを目深にかぶり足早に歩く。


 骨董屋の前に来てどうやってマビポットを見張るか考え、とりあえず彼女がこの店に来ているのかを確認することにした。


 どこかに窓らしきものがないか店の外観を見ていった。小さな窓はあるがすべてにカーテンがかけられて中が見えなくなっている。


 どうすればいいかわからず途方に暮れ近くの長椅子に腰を下ろす。


 ミレイザはマビポットのことより、服屋に服を預けてしまったことに頭を悩ませていた。不安な表情を見せながらうつむくと、地面に落ちている石ころが何気なく目にとまった。


 なんの変哲もない石だがよく見ると青色をしている。光に反射してきらきらと輝いて見えていた。ミレイザはその石を拾って眺めてみた。角度を変えると青や緑といったように表情を変えた。


「あなた!」


 突然、女性の金切り声がした。ミレイザはその声に驚いて振り向くと、そこには背が高く細身の女性が立っていた。白と黒のドレスローブを着て顔には眼鏡をかけている。その奥にある目は強い剣幕を見せていた。


 彼女はヒールを鳴らしながらミレイザのところまで近寄った。

 ミレイザはその女性を見上げながら剣幕に圧倒されて目をきょろきょろとさせている。


「あなたが盗んだのね!」

「え?」

「それ」


 女性は人差し指をミレイザの手元に向けた。そこにあったのはさっき拾った石を指し示している。


「返してくれる」


 突き出すように女性は手のひらを差し出してくる。ミレイザはわけもわからずその手のひらに石を乗せた。


「まったく、泥棒なんて真似して。この罪はわかっていると思うけど罰金を支払ってもらいますからね」


 そうまくし立てられ、ミレイザは考えが追いつかず、誤解を解くためにあわてて声を出した。


「……え? あの、そこに落ちていたから拾っただけなんです。べつに盗もうなんて」

「嘘おっしゃい。あなたは盗もうとしていた。指でつまんでこうやってうれしそうに眺めてたじゃない」


 彼女はそう言いながらそのしぐさを真似た。ミレイザは困惑しながら、それでも盗むようなことは決してないと訴えた。


「違うわ。きれいだったから見ていただけよ。盗もうなんて思ってないわ。本当よ」

「ふん、どうかしらね。ともかくお金を払いなさい。そうすれば見逃してあげるわ」


 ふたたび彼女は手のひらを突き出し金を要求してきた。してもいないのに犯罪者扱いにされてしまうのは納得いかず、ミレイザは首を横に振る。


「わたしは盗んでません」


 ミレイザのかたくなな態度に対して、彼女は呆れた表情を見せると出した手を引っ込めた。


「そう、そういう態度を見せるの。では、うちの主人と剣を交えてもらうしかないわね」

「えっ!?」

「いまから呼んできますからここで待ってなさい。言っておきますが、逃げてもむだですよ。あなたがどこに逃げても見つけ出しますからね」


 女性は振りかえり背中を向けて歩き出した。


 剣を交える? それは、いまから彼女が呼んでくる彼女の夫と戦えというの?


 ミレイザはこのままでは自分の存在が世間に広まってしまうと思い、どうするかを考えた。


 ただでさえ、自分の姿が載っている新聞が撒かれている。これ以上人目につけば、自分がゾンビであることが知られてしまうかもしれない。それだけはどうしても避けなけなければならない。


 逃げる? ……だめだわ。逃げたとしても、この風貌を彼女が覚えてしまっている。かといって彼女の夫と戦えば嫌でも注目を集めてしまう。戦いの最中にこの仮面が取れたら……。


 ミレイザは自分の指輪を見つめたあと椅子から立ち上がり、離れていく夫人を呼び止めた。


「待ってください。お金をお支払いしますから」


 その声に夫人はピタリと立ち止まると振り返った。胸を張り顔を軽く上げている。彼女はほほえみを見せるとすぐに消してミレイザのところまで引き返した。


「わかればいいのよ」

「それで、いくらお支払いすれば……」

「そうね。盗んでおきながら自分は身に覚えはないと言っていたから……5000リボンはほしいところね」

「ご、5000もですか!?」

「そうよ、これでも安く済ませているんだら、本当だったらもっと高くついているわよ」


 ミレイザは自分の指輪にふれて残高を確認した。6300リボン入っている。その残高をにらむように見ながらミレイザは考えた。


 罰金を払ってしまったら1300リボンになってしまう。服屋のこともあるしお金はあまり使いたくない。でも、ここで支払わないと彼女の夫と戦わないといけなくなる。わたしの正体がそれによって知られてしまうかもしれない。

 

「ちょっと早くしてくれない。こっちも忙しいんだから」


 じれったくなり手のひらを差し向けて彼女は言い寄った。ミレイザは歯を食いしばりながら、指輪から5000コイン一枚を取り出し彼女の手にひらに乗せた。


 夫人はそれを握ると振り返って去っていった。


 ミレイザは彼女の背中を見ながらため息をこぼした。それから、また椅子に座って自分の指輪を見つめた。お金を取られてしまった。二日後に服を服屋に取りに行かなければならない。修理代がいくらかかるかわからない。もし、いま持っている残高を上回っていたら……。


 ミレイザは立ち上がり歩き出した。それは、もう一度服屋に行って、破れた服を返してもらおうと決めたからだ。そこの店主マギルナになにを言われても自分の服を取り返す。そう思いながらその店に向かった。



 彼女の店に着くとマギルナアトリエという看板が玄関にかけられいる。ドアのノブを握り一呼吸おいてからそのドアを開けた。


 中に入ると誰もいなくカウンターにも誰もいなかった。あちこちと見ながら店の中を確認していく。店の奥のドアからかすかな物音が聞こえてきた。ドアの向こう側で作業していると思ったミレイザはそこに声をかけた。


「すみません」

「……はーい」


 少し間をおいてから声が返ってきた。マギルナの声がしてミレイザはほっと息をついた。ドアを開けて彼女が出てくるとミレイザと目が合い、うれしそうにほほえんだ。


「あー、アリッサさん。すみませんねー、まだ終わってないんですよ」

「あの……」


 ミレイザがなにか言おうとしたのでマギルナは首をかしげた。


「わたしの服を返してもらえませんか?」


 その言葉にマギルナは目を大きく見開いた。


「え? 返すって言っても、もう作業に取りかかっているし……」

「お願いです」


 ミレイザの懇願に対してマギルナはゆっくりと首を横に振った。


「遅いよもう、それにいま返したら中途半端になってしまうだろ」

「それでも」

「ふうん、本当にいいの? 中途半端なものを返したら修理代が高くなるよ」

「え!?」

「だってそうだろ。こっちはちゃんと直そうとしているし、もし返してその服を誰かに見られたら、わたしが恥ずかしくなるんだ。あの店は修繕もまともにできないのかってね。それで店の信用もなくなってしまうよ」

「黙っていますから……」


 その答えにマギルナは首を振った。


「信用できないなー。こっちは商売なんだ。店に服を預けた瞬間から、その服は店側の物なんだよ。返してほしかったら代金を支払うことね」

「では、いくらお支払いすれば」


 マギルナはあごに手の甲をあてて考えはじめた。シーンと静まり返った室内はカチカチと時計が時を刻んでいる。ミレイザは時計を確認した。午前11時を回ろうとしてる。


「うーん、そうだな……5万リボンかな」

「ご、5万ですか!?」

「そうだよ。だって中途半端なまま返すんだから」

「……では、すべて直してもらったら」

「あの状態だと、2万5000くらいだね」

「2万? そんなにかかるんですか?」

「よく見てみたら、手の施しようがない状態なんだよ。わたしの腕なら直せるけどね。ほかのお店じゃあ……無理だね。だから、うちで最後まで直してもらったほうがお得だよ」


 2万5000以上の金をどう稼げばいいかミレイザは考えた。


 最初に思いついたのはピサリーに借りることだった。魔女の情報を聞くために高額なハンカチを購入。それはお金に余裕がないとできないことだ。お金のことに関して厳しい彼女はちょっとやそっとで財布の紐を緩めない。つまり、その倍以上は持っているはず。


 ミレイザはそこまで考えてマギルナに言った。


「わかりました。お金はあとで持ってきます」

「うんうん、いい選択だね。心よりお待ちしているよ」

「では」


 店を出てため息をこぼした。果たしてピサリーはお金を貸してくれるのだろうか? もしかしたら貸してくれないかもしれない。服を直してもらうことを断り切れなかった自分に原因がある。素顔を知られたくないため、男たちの追ってから逃げていることを見られていた。彼女はそこをついてわたしの断る理由を封じた。


 それはわたしの気の弱さが招いたものだ。もっと強気で無理にでも服をうばい取り、店を出ていたら……。


 ミレイザは悔しさをこらえ口を引き締めて歩き出した。周りに気をつけながら、隠れるように気づかれないように足早に歩く。そうして骨董屋の前に着いた。


 それから中に入るべきかそれともマビポットが出てくるまで待つかを考え、目の前のドアを見つめた。だが、答えは出なかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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